上級生二人による、幕間
阿貴を無事に送り届けた後の二人の会話。
ちなみに、本文にもあるように二人がいなくても受付には困らない程度には上級生は手伝ってくれています。
それは碧林寮でも然り。霧子が青光寮に入り浸れたのもそれです。
阿貴を無事に110号室に送り届けて、春海と誠伍は二人、元居た玄関口に戻っていた。
二人がいなかったわずかな時間の間にも、新入生が続々と寮に入っていく。
この場所にいたのは自分たちだけではなく、入寮の手続きと言っても簡素なものだ。
そのため、二人がいない間も他の上級生に任せられるシステムはすでに出来上がっている。
状況を見る限り、さしたる大きなトラブルもなかったようだ。
そんな中、誠伍が思い出したように口を開いた。
「春海」
「何だ?」
「お前、さっきここを離れて何してたんだ?」
その問いかけに、春海は軽く笑って、
「ちょっと、な」
「お前ここの責任者だぞ?本来なら…」
軽々しく現場を離れていいわけないだろうが、と言いかけたところを制して、
「成美んとこ。新しいルームメイトが来るって知らせてやっただけだ」
あいつ甘えんぼだからすげえ喜んでたなぁ、と付け加えるが、
誠伍はその言葉にある不安を思い出した。
「余計な事仕込んできたんじゃねえだろうな?」
「余計な事、って?」
「とぼけるな。去年あいつのせいでどれだけ拗れたのか、もう忘れたのか?」
誠伍が言う余計な事、とは。
この寮には伝統的に新入生一人をターゲットにして、サプライズやらドッキリを仕掛ける習慣がある。
それにより、新入生たちの距離を縮め、新たな寮の結束を高める、という目的があった。
たとえ、それが他の寮生にとっての単なるエンターテイメントになったとしても、だ。
そして、今年の標的は、もう決まっている。
それを仕掛けられる側は、一切何も知らされていない、これもまた伝統だ。
そして、去年。
それに関わったのは、成美と先代の寮長だ。
相手は、当時のルームメイト。
「アレは10日以上も騙されていたアイツもアレだったがな…そもそも、寮長になって最初のミッションがこれ、って伝統でもあったからな。成美だったら適任だろう、って思っただけだ」
「それは否定しないが、相手の子が心配なんだ、俺は。あんな…」。
と、言いかけて言葉を切った誠伍。
相手の子─────阿貴を一目見て女の子と思い込んでいたから、しかし、男だとわかってこれ以上言わず。
可愛い子だなんて、とは。
阿貴を初めて見た大抵の男は思う事。
─────女の子?と。
そして、男だと知り、二度見する。
成美で免疫ができているとはいえ、あの外見に危惧を抱かずにはいられない。
「部屋割り決めたのはお前だったな。また変な事になったらどう責任取るんだ?」
真顔で問い詰める誠伍に、春海は飄々と、
「そん時は土下座でもして泣いて詫びるさ」
とは言うものの。
成美だから、ある程度の一線は間違えはしないだろう。多少ドギマギはさせられるだろうが。
と、そんな楽観が春海の中にはあった。
─────それが大きな落とし穴であった事を、その時の春海は知らない。




