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青き碧の仲間たち  作者: 高階闇堂
寮生活、初日
16/17

110号室の同居人(侵入)

阿貴が荷物の整理に取り掛かるべく、下ろした鞄を開けようとしたその時であった。


こんこん。


阿貴の背後から、物音が聞こえた。

窓に背を向けていた阿貴は、わずかに手を止める。

だが、その音自体は小さく、この季節でもあり、当初は風かな、とさして気にも留めず、続きに取り掛かった。


少し間をおいて、


コンコンッ!


さらに強く窓を叩く音は明らかに風によるものではなかった。

外に誰かがいる。そんな物音だった。

阿貴は、一旦荷解きの手を止めて、後ろを振り返る。


その瞬間。

阿貴は絶句した。

窓の外には、逆さになってぶら下がっている人物がこちらを覗き込んでいたのだった─────


「─────!」

その光景に、阿貴は驚きのあまり言葉を失っていた。

ありえない場所から、ありえない体勢で、突然視界に飛び込んできたのだから。

長い亜麻色の髪を地面に向けてゆらゆら揺らしながらぶら下がる「それ」は、とても無邪気なあどけない顔で、こちらを見てにっこりと笑っている。

一見してそれは少女のようで。

(女の子の…幽霊?)

物理法則を無視したような登場に、そんな思考が頭を巡る。

だが、すぐさまそれを否定するように、

「ねーえ、あーけーて」

と、窓ガラス越しにもよく通る声が聞こえてきた。

改めてコンコン、と窓ガラスを叩きながらの声に、阿貴は慌てて我に返り、窓を開けた。


僅かに吹き込む春の風と共に、「彼(?)」はこちらの窓枠を掴んで、ひらり、と一回転して部屋に飛び込んできた。

音もなく着地すると、何事もなかったかのように驚いて言葉を失っている阿貴に向けてにっこり微笑んで、

「ねえ、君、もしかしてこの部屋?」

「は…はい、そうです…けど…」

戸惑いながらも肯定を返す阿貴に、彼はぱぁっ、と顔を輝かせた。

「わーい、やっと来てくれたんだぁ!ぼく、阿久津成美。よろしくねっ!」

と、満面の笑みで、語尾にハートマークでも散らしそうな勢いで阿貴の手をぎゅっと握ってきた。


(え…この部屋に来たって事は…まさかこの人が、僕のルームメイト?)

「ちょっと問題あり」と春海と言う寮長に言われていたその相手。

それがこちらの想像とは180度かけ離れた陽気で人懐こい成美に圧倒されてその大きな目をぱちくりさせていた阿貴だったが、相手が名乗ったのを受けて、ようやく、

「う…宇都宮…阿貴です…」

どうにか自己紹介を済ませた。と、言うより名前を名乗るのが精一杯だったのだが。


改めて成美の顔を見る。

背中まで伸びる亜麻色の長髪。

顔貌など自分と同い年どころか中学生でも通じそうな童顔で下手したら、いや下手しなくても女の子と言われても違和感がない。(それは阿貴も人のことは言えないが)

この寮にいるんだから男であることは間違いはないだろうとは思うのだが。(自分も一旦女と思われて追い返されかけたのだから)

それでも気になって、自分がいつも言われてる失礼な事を聞いてみた。

「阿久津さん…って、男ですか?」

と。

成美は、そんな失礼な、とも取れる質問に嫌な顔せず、

「あはははは、やっぱり言われちゃったか。だーれも初見でぼくの事、男だなんて思ってくれないもんねぇ」

そんなのいつもの事だし、まあいいけどね、と付け加えて。

「ぼく、男だよ。それと──阿久津さん、じゃなくて、成美、でいいよ」

と、人懐っこくにこにこと笑った。

年齢にはそぐわない、少し幼い口調と高い声。

しかし、その外見には、不思議なほどよく似合っていた。


今はお互い向かい合って座っている。

改めて、阿貴は成美を見て、思う。

─────()()()()()()()()()()()()()()()()()

常日頃自分がそう言われていることも棚に上げて。

春海に「問題あり」と言われてどんな不良なのか、とある意味身構えていたのが─────

蓋を開ければ、だ。


そして、成美の方もまた。

新たにルームメイトとなった目の前の美少女(男)に、これまで感じた事がないほどの思いを抱いていた。

(ヤバい…この子、すっごく可愛い…)

初見で阿貴を見て、誰もが思う事。

小柄な身体、無造作に揃えられた長めの髪、そして─────その澄んだ大きな目に引き込まれる感覚に。

成美自身もそう言われてきたが、まさに「道行く男が10人中8人が二度見するレベル」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。

(春海には、ああ言われたけど…どうしよう)

もう、この時点で成美の頭から、春海に言われた「エンタメ」の要素は完全に吹き飛んでいた。


我知らず、成美は引き込まれるように、向かい合っていたはずの阿貴の隣にちょこん、と腰を下ろした。

そのまま、甘えるようにその身体に寄りかかる。

そこまで距離を詰められていたことにも気付かなかった阿貴の思考が、本格的に止まる。

「え…?な、何ですか…?」

成美は、その顔を覗き込むようにして身を寄せて。

気が付けば、二人の顔の距離は、数センチも離れていなかった。


この時の阿貴の思考は。

(……問題あり、って、そういう意味?)


もしこの時、阿貴がこの先起こる出来事を正しく知っていたなら、

そんな悠長な感想は絶対に出てこなかっただろう。

もうこのエピソード、「110号室の同居人」シリーズにしてもいいんじゃないかって流れになってるな…

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