一方、その頃、玄関口にて
女子寮、碧林寮の新寮長である島霧子は、新たに寮長となった春海に用件があり、青光寮を訪れていたが、
「春海なら今は外してる。すぐ戻ってくると思うが」
と、落ち着いた声色で応対したのは、彼の同室である堀居誠伍だった。
新入寮生の受け入れを開始してから、まだ間もない時間帯。玄関口はまだ混雑に至っていない。
誠伍の言葉に、じゃあ、待つわ、と僅かに頷く。
少しの間なら、いちいち碧林寮に引き返すよりは待ったほうが無駄がない。そう判断しての事だった。
少ないとは言っても、それなりの規模を誇る寮である。
宅配便で先行で送られる荷物の量も、無視できるものではない。
誠伍は、春海不在の間その対応も兼ねて玄関口にいたのだ。
「待たせておいてなんだが、あっちは寮長不在で大丈夫なのか?」
「まだここと大差ないわよ。だから相木も裏で動いているんでしょうし?」
事実、碧林寮でもこの時間帯は特に混乱なく回っていた。
玄関のドアが、かちゃり、と音を立てて開かれた。
入ってきたのは、小柄な体格に不釣り合いな大きな荷物を抱えた生徒だった。
その様子から、新入寮生であることは容易に察せられた。
外見だけを見るなら、明らかに少女と見紛うもの。
だが、ここは男子寮だ。
だから、入ってきたのは、「少年」だったと――そう、思っていた。
誠伍は、怪訝な顔で、その生徒を見つめている。
そこへ、霧子が問いかけた。
「えっと――君、新入生?」
「はい。あたし、西条唯貴と言います」
この声、一人称で、確信を得た。
――あ、これ、間違えたわね。
と。
「だったら、来るところ間違えてるわよ。ここは男子寮。碧林寮はこの向かいなの」
霧子は、特に慌てることもなく伝えた。
「あ…」
時たま、こういう勘違いをする新入生もいる。
青光寮と碧林寮は、道路一本挟んだ真向いに建てられ、しかもその外観もそっくりだ。
実際、霧子も去年同じ間違いをしかけたことがある。
「ごめんなさい、間違えてました」
唯貴がぺこりと頭を下げて玄関を出ようとしたとき。
「待って」
霧子が、一歩踏み出して。
「じゃ、丁度良かったから一緒に行きましょ?私、あっちの寮長の島霧子。あとは向こうで案内するわよ」
そう言って、後ろの誠伍に、またね、と声を掛けて唯貴と一緒に玄関を出た。
時間にして、ほんの数分経っただろうか。
霧子が、青光寮に戻ってきた。
「あっちのほうは、いいのか?」
「ん。まだそれほど忙しくないし。よほどのことがあったら電話してきて、って言ってあるわ」
それよりも、春海との用件がまだ片付いていない。
軽い共有程度の話だが、だからこそ後回しにしたくなかった。
だが、本人はいまだ不在。
新入生が続々と青光寮に入ってくる。
その案内を続けていたところへ、再び、玄関のドアが開かれた。
そこに入ってきた生徒を見て、誠伍と霧子は思わず目を見開く。
先ほどの、寮を間違えてきた「あの子」が、再び姿を現したのだ。
「あれ?君は…さっきの…?どうしたの?」
霧子は首を傾げる。
ほんの数分前に、自分が寮まで案内したばかりだ。
迷うはずもない。何か、困ったことでもあったのだろうか。
だが――
目の前の生徒は、先ほどと同様に、不釣り合いなほど重い荷物を抱えた状態だ。
もう部屋に着いているはずなのに。
こちらの反応にきょとんとした顔を浮かべている。
霧子の視線が、わずかに細くなる。
「何か、感じが違うわね?」
――何を言ってるんだ、この人たちは。
紺碧町駅から、重い荷物を引きずりながら、ようやくたどり着いた男子寮でいきなり向けられた言葉に、
阿貴は、目の前の見知らぬ先輩たちを怪訝な顔で見返した。
そこに、誠伍が近づいてくる。
「あのね…ここは男子寮で、女子寮はこの向かいだって、さっきこの人から教わらなかったかい?」
そういえば。
ここに来る前に、唯貴と顔を合わせたことを思い出した。
買い物がある、と誘いを断ったが、おそらく彼女が先に着いていたのだろう。
一目で見分けがつかないのは経験済みだ。
だが。
端から自分を女だと決めつけるその物言いに、胸の奥がかっと熱くなる。
相手が初対面、それも先輩だということも忘れて、叫んでいた。
「僕は男ですっ!」
2週間も間を開けてしまった…が、やっととっかかりが書けた…




