入寮初日、ある部屋の中で
ここから寮生活編が始まります。まだ平穏のままだがはてさて。
名門として、全国的にもその名を馳せる青碧学園。
日本全国津々浦々から、個性的な学生が集まるこの学園故に、当然、遠方から通う学生の為に、寮がある。
その寮には、男女それぞれに、学園の名が冠された名前が付けられている。
男子には「青」、女子には「碧」と。
そして高等部の寮は、男子寮が「青光寮」女子寮が「碧林寮」と名付けられていた。
――が、表向きには「遠方から通う学生のため」と銘打ってはいるが、この寮、かつて生徒数がもっと多かった時代に建てられており、当時の建物がそのまま残されているため、実は結構空き部屋が多い。
故に、通学圏内から通える学生でも、少子化の影響を受ける現在では申請すればほぼ確実に入寮OK、とはなるのだが。
閑話休題。
時は新年度となる4月、そんな寮生活を始める新入生が続々と学園にやってくる時期。
その受け入れ態勢に忙しい時期、その最中のお話である。
期待と不安に胸を躍らせながら、寮の入り口をくぐる新入生、それを受け入れる上級生――
ただでさえバタバタして粛々といかないのが現実でもあり――ましてや、ここは青碧学園。
何事も起こらないはずはない、そんなひと時。
今年の新入生が収まるのは1階、その一室である青光寮、110号室。
二人部屋のその片側だけが、やけに生活感漂う空間であった。
荷造りは終わり、完全に自分の空間を確立したような部屋。
その椅子に座ってゆっくりと音楽を聴きながら細い形のいい指先でリズムを取る少年が一人。
背中まで伸びる亜麻色の長髪を頭の後ろでポニーテールのように纏めて括っている。
少年、というよりその顔立ちは少女のような幼いあどけない顔つきで、一目では男だと思われない外見の持ち主。
そんな彼、阿久津成美が部屋のノックされる音を聞いたのは、正午を回るかどうかの時間だった。
「成美、いるか?」
かかった声は、聞き慣れたもので、
「いるよ、入って」
と、手元のスマホで再生されていた音楽を止めて、椅子から立ち上がり、入り口に向かう。
入ってきたのは、平均的な男子高校生の身長で、髪型は癖のある天然パーマ、目鼻立ちのすっきりした顔で一目人気アイドル風なイケ面。
名前を相木春海という。今年新たに青光寮の寮長を引き継いだ二年生だ。
「あ、今日、来るんだよね?」
「ああ」
何が、とか誰が、とかは察していることだ。成美がそれを楽しみにしていることも。
「ねえねえ、どんな子?」
「それは実際に会ってのお楽しみだ」
と、春海は意味ありげに笑った。
「それで、そのことについて話がある」
「どんな?」
「大層なもんじゃねえ、ちょっとしたエンタメだ」
その様に、成美も何かを察する。
「やりすぎるなよ、あくまでも軽く驚かせる程度でいいからな」
「ん、わかった」
「まあ、お前はその辺の距離感は間違えない奴だから心配してねえが」
言うことは言った、と春海は、部屋を出て行った。
「ふふ、どんな子かなぁ」
聞いていた音楽を再生させることもなく、まだ現れない同室に胸を躍らせる成美であった。




