episode6
「ノワール。少しは落ち着いたか?」
「あぁ...悪かった...」
「謝ることは無い。アレは取り乱しもするさ。」
ノワールに水を差し出しながらブランは彼を慰める。
差し出された水を一気に飲み干しノワールは語り始めた。
「満月の夜だったんだ。オレは魔界の城に呼び出されて家をあけていたんだ。帰路についてると街が炎に包まれているのが見えて、オレは急いで家に向かった。...そしたら家族が血まみれで倒れていたんだ。その中心にあの魔人がたたずんでいて、オレの姿を見ると満面の笑みを浮かべたんだ。だからオレは切りかかろうとしたんだけど...近づいた時剣をかわされてオレの目を見ながら"欲しい"と呟いて...消えていった。」
ノワールはその光景を思い出したのか、身体が小刻みに震えていた。ブランはそんな彼の隣へと腰掛け肩を抱く。
「ノワール。お前は狙われている。だから夜はしばらく出ない方が...」
そう言うと、ノワールは下げた顔を上げ、声を荒らげながら「嫌だ!!」と叫んだ。
「ヤツの目的はオレだ!オレが誘き出してヤツを殺すのが一番手っ取り早いだろ!もう犠牲が出るのは嫌なんだ!!」
かれの懇願にブランは少し考えたが、ノワールは一度決めたことは揺るがさない。
「わかった。だが無理だけはするなよ。」
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その日の夜、いつも通り二人は街の巡回を始めた。
ただ違うのは、ノワールの目つきだ。完璧に憎しみに支配されているように見える。
「いつもより魔物の気配が濃く感じる...」
憎しみに苛まれてもなお冷静さはあるようだ。
「月もいつもより紅く光っているな。」
紅い月に照らされているからか、街は炎に包まれているかのような風景が広がっている。
すると、黒い影がのび、魔物が姿を現した。
瞬時にブランが銃を構え撃ち殺す。
「助かった。ありがとうブラン。」
「少し周りに気配りが足りなくなっているぞ。」
「...悪い。魔人の事で頭がいっぱいになってるな、オレ。」
「今日の魔物は手強そうだから気を引き締めろよ。」
「了解!」
そこからは凄まじかった。魔物はどんどん増えていき、ブランの弾丸は間髪入れずに撃ち放たれ、ノワールはノワールは二本の剣で魔物を切り裂いていく。
彼の美しい銀髪はどんどん血で紅く染まっていく。
そうこうしていると、魔物の数も減ってきた。
これで終わりかと思った次の瞬間、禍々しい気配が街を覆っていった。
ノワールとブランが後ろを振り向くと紅い月をバックに一人の魔人が空に浮かびたたずんでいた。
「お前は...!!」
「キヒヒ。イイねェ。その紅い瞳に紅く染まった銀色の髪。ますます手に入れたくなった!」
「何故オレの家族を殺した!?」
「貴様の家族...?あァ!あの運命の日か!貴様の家族もなかなかそそられる紅い瞳をしていたが強く抵抗してきたからな。皆殺しにしてやったわ。」
「貴様ァァ!!」
ノワールは羽根を広げ空へと飛び魔人に斬りかかっていった。すると魔人は嬉しそうに目を細め彼を見つめていた。そしてノワールの剣が魔人に届こうとした時、魔力のバリアによって弾かれてしまった。
「惜しい惜しい。もっと私を喜ばせておくれよ。」
魔人はノワールへ顔を近づけると愛おしそうに彼の顔を撫でた。
「触るなっ!!」
瞬時に距離を取り魔人を睨みつける。
ノワールは嫌悪感を露わにし、地上へと降りていった。ブランはとっさにノワールへと駆け寄りノワールを隠すように魔人に立ちはだかる。
「お前、変わった気配がするな...ただの人間ではないな?」
魔人がそう言うと、ブランから青白い光が溢れ出す。
途端に魔人は後退り、マントで光を遮った。
「何だ?!その光は...!!」
「...こちとら"天使の加護"があるもんでな...!!」
ブランがそう言い放つと魔人へと銃口を向け弾丸を打ち込んだ。弾丸は光を纏いながら魔人の胸を撃ち抜いた。
「ぐっ...!!」
「普通の弾は効かないだろうがこれならいけるだろ!」
「貴様...やってくれたな...!!」
魔人がブランに襲いかかろうと地上目掛けて飛んでくる。が、いつの間にか月は消え朝日が昇ろうとしていた。魔人は朝日に弱いのか空中で身を翻した。
「今日はこの辺りにしてやる!次こそはその吸血鬼を手に入れてみせるからな...!!」
そう言うと魔人は闇へと消えていった。
魔人が姿を消すとブランは膝から崩れ落ちた。
「ブラン!!」
「大丈夫だ。久々に"天使の加護"を使ったからな。疲れが出ただけだ。」
天使の加護は身体に負担が伴うのでなかなか使用することが出来ない。
「心臓を狙ったんだがな...少しズレちまった...悪ぃな。」
「謝んなよ...」
ノワールはブランに手を差し出し立ち上がらせた。
「これでヤツの狙いがハッキリしたな。でもお前を一人にすることは逆に危険だから決してオレから離れるなよ?」
「...わかった。」
朝日が完全に昇ると、ノワールの容姿は人間の姿へと変化していった。
ブランはタバコを取り出すと口へ咥え火をつけた。
「何で今吸うんだよ...」
「疲れたんだ。許せ。」
軽口をたたけるくらいには回復したのか、二人はそのまま教会への帰路へとついて行った。
「いつもなら夜の間に狩りが終わるから朝日を見たのは久々だ。」
「そうだな。お前は帰ったら直ぐシャワー浴びろよ?血まみれだ。」
「そーさせてもらう...」
「お前がシャワー浴びてる間に朝飯作っとくから飯食ったら少し寝ようぜ。」
そうこうしている間に教会に辿り着いた。
二人はやっと安堵し教会の裏にある住処へと入っていった。
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街の裏路地に胸を抑えうずくまる男がいた。
その男はつい先程までノワールとブランと戦っていた魔人だ。
「クソッ!クソッ!!あんな人間がいるなんて思いもしなかったぞ!折角あの吸血鬼が手に入ると思ったのに...!!」
魔人は歯を食いしばりながら地面を強く叩きつけ空を睨みつける。そしてゆらりと立ち上がり、ブツブツと何かを呟きながら暗闇へと消えていった。
「次会う時こそは絶対手ににれてみせる...!!」
そう言葉を残して。




