episode10
ノワールが攫われてから数日が経った。
今夜は満月。ブランは教会の女神像のまえに佇んでいる。すると、後ろからあどけない声で話しかけられた。
「迎えに来たよ、お兄さん。」
声の持ち主はあの忌々しい満月の夜に出会った少年であった。ブランは視線を上げ、少年へと振り返る。
「さぁ、魔界へ行こうか。僕から決して離れないでね。」
「...よろしく頼む。」
少年が空中に円を描くと、魔界への道が現れる。
禍々しい空気が辺りを包み込んでいて、ブランは顔を歪めながら腕で覆う。
「大丈夫?お兄さん。」
「あぁ...何とかな...」
暫く進むと魔界への扉が現れた。
少年がブランに目をやり「開けるよ?」と声をかけるとかれは力強く頷く。
そうして二人で扉をくぐると魔界へと辿り着いた。
すると少年は何かを感じ取ったのか、空を見上げながら「来る...!!」と呟いた。
次の瞬間黒い影が地上へと舞い降りてきた。
あまりの勢いに砂煙が上がる。
その中から現れたのは不敵な笑みを浮かべた魔人とその腕に抱かれたノワールであった。
「来ると思っていたぞ人間!貴様などにノワールは渡さん!!」
魔人はそう言い放つとと二人に見せつけるかのように腕の中のノワールへと口づけた。
途端、ブランは全身の血が頭へとのぼったのを感じた。そんなブランを嘲笑うかのように魔人はノワールの頬を撫でる。
「お前...!!ノワールを返せ!!」
ブランは魔人へと銃口を向け一発撃ち放つ。
しかし、弾丸は魔人を貫くことなく弾かれてしまう。
「低俗な魔物と一緒にするな。ただの弾丸など痛くも痒くもないわ。」
そう言うと魔人はノワールを腕から離した。
ノワールは力無く空中に佇み下を向いている。
「さァ、ノワール。貴様の手でコイツを始末するのだ!」
するとノワールは顔を上げブランへと飛びかかる。
よく見るとブランを見る彼の瞳は虚ろを見つめていた。
「ノワール!しっかりしろ!!目を覚ませ!!」
ブランは銃で彼の長い爪を受け止めながら語りかける。
「ムダだ。貴様が何を言おうと、ノワールは私の術の中だ。」
魔人はブランを嘲笑った。
「貴様にノワールを傷つけることは出来まい。」
魔人は勝ち誇ったように言い放つ。
ノワールは瞳をギラつかせながらブランへと手を伸ばし彼の首を強く締め付けた。
「グッ...!!」
「お兄さん!」
ブランが呻き声を上げると、少年は慌てた様子でブランを呼ぶ。
少年は一か八か微かな魔力を纏った短剣をノワールへと向け切りかかろうとするが、ノワールの魔力のバリアに弾かれてしまう。
「何をしてもムダだ。ノワールは私の愛おしい操り人形となったのだ!」
「キッサマァ...!!」
ブランは首を絞められながらも声を上げる。
そして彼は苦しみながらも、天使の加護を発動させる。
するとノワールの力は怯みブランから手を離された。
「彼には天使の加護は効くみたいだね。」
「そうだな。まぁ、離れてから吸血してねぇみたいだから力が弱まっているんだろう。」
「なるほどね。でも魔人を倒さないと彼にかけられた呪縛は解除されることは...ないと思う。」
ブランは絞められていた首を擦りながら言い放つ。
そんな様子を見てか、会話が聞こえてなのか、魔人はクツクツと笑った。
「あぁ、確かにノワールは吸血行為をしてはいない。...代わりに私の魔力の籠った精液を摂取しているがな。」
「?!なんだと...?!」
魔人の言葉にブランは怒り狂いそうになる。
そんなブランの様子にお構い無しに魔人は語り続けた。
「幾度も幾度も好きなように肌をかさねたさ。
その度ノワールは美しい涙を流しながら美しい声で啼いていたよ。しかし...抱いているのが私だと言うのに何度も何度も貴様の名を呼んでいたのだけは気に食わなかったな。」
ブランはその言葉を聞きハッと顔を上げた。
ノワールの心までは魔人に食い尽くされていないのだと感じ取り、微かに安堵のため息をこぼす。
しかし、ノワールは少なからずも魔人の術にかかっているわけで。ブランから離れると魔人の元へと飛んで行ってしまった。
「ノワール!!」
「良い子だ、ノワールよ。さぁ、こちらへおいで。」
ノワールは再び魔人の腕へと抱かれる。
魔人はノワールの顎を持ち彼の顔を自分へと向けると、虚ろな瞳に自分を映させ、ブランへ見せつけるように彼へと口づけた。
「クソッ!ノワールを離せ...!!」
地を這うような低い声に魔人は満足したかのように笑みを零す。
そしてノワールの頬を撫でながらブランへと語りかけてきた。
「貴様がただの人間では無いのは知っている。...が、簡単に私に勝てると思うなよ?」
そう言うと魔人は空へと手を伸ばし魔力を溜めブランへと力を撃ち放った。ブランと少年は近くの木へと身を隠し攻撃をかわす事に成功する。
「お兄さん、僕が囮になるからその隙に吸血鬼のお兄さんを助けてあげて!」
「しかし、お前では...」
「確かに僕は何も出来ない。でも微かだけど魔力も天使の力も使うことが出来る。だから大丈夫さ。」
そう少年は言い放ち魔人へと飛びかかって行った。
魔人はそんな少年の攻撃を赤子の手を捻るかのようにかわした。...ように見えたが、少年は素早く動き魔人の背に短剣を突き立てた。
「グッ...!!」
予期せぬ攻撃に魔人は呻き声を上げ、ノワールを手放してしまった。
ノワールは魔人の支えを無くしたため力無く地面へと舞い落ちていく。
それを見たブランは全力ではしり、ノワールを受け止めた。
「ノワール!しっかりしろ!オレを見てくれ!!」
ブランはノワールに力強く語りかけ目を覚まさせようとする。
すると、ノワールの虚ろだった瞳に光が宿った。




