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僕たち本気です

「んじゃ何か? テメェは坊っちゃんが嘘ついてるってのか? それとも、テメェはその気がねぇのに、坊っちゃんには付き合ってるなんて嘯いてやがんのか?」

「それは……」


 違う、とはっきり言ってやりたい。

 でも柊人が今、真実を言ってなんになるだろう。

 僕たち真面目に付き合ってます、なんて言っても、到底信じてもらえるとは思えない。

 勿論、誓って遼が大人になるまで、手を出す気も出される気も無いが――しかし、未来のことはお互い真剣に考えているつもりだ。そしてその未来を守る為に、今ここで正直に告げることは、得策ではないと思うのだ。

 ここで対応を間違えれば、一生遼と引き離されることだってあり得てしまう。それだけは絶対に嫌だった。


「なあ、向出さんよ。アンタ、カタギの人だろう? そう軽々しくこっちの世界に首つっこんでもらっちゃ困るんだよ。特にアンタの仕事は、俺たちからすれば都合が悪い。遼がうっかり口に出した話を、記事にでもされて、世間様にばら撒かれちゃ困るんだよ」

「そんなことは絶対にしません!」

「それを信じる理由がどこにあんだよ」


 組長の言葉に咄嗟に声を荒げて言い返した俺だが、鼻で笑われてしまえばそれ以上何も言えなくなる。

 証拠なんてどこにもない。この人たちを説得できるだけの何かを、柊人は何一つ持っていなかった。


「それで、僕にどうしろって言うんですか…?」

「どうもこうもねぇ。坊っちゃんと手を切ってくれ。坊っちゃんの遊び相手なら俺たちが引き受ける。夏祭りにだって、俺たちが連れて行く」

 なんでもないことのように言ったタツの言葉に、柊人は一気に頭に血が上るのを感じた。


「何が引き受けるだ! あの子のこと、ずっと独りぼっちにさせてたじゃないか。アンタたちが相手で満足してるなら、遼が僕なんかに引っかかるわけないだろ! 寂しがってる訳ないだろ! 一人で……毎日公園なんかで膝抱えて泣いてるわけないじゃんか!!」


 初めて出会った時の、遼の寂しげな背中を思い出す。

 甘えたいのも我慢して、寂しいとも口に出せず、遼は一人で耐えていた。近くで見守っていたはずの彼らが、それに気づかないはずはない。それなのに、誰一人として遼に手を差し伸べてやらなかったくせに、何を今更言ってるんだ。


「僕は……遼にあんな寂しい顔させませんよ。全部諦めたみたいな顔より、笑ってる方が絶対可愛いし。それに、遼の方が僕と離れたくないって言いますよ、絶対。だって、遼は――」

 僕のことが大好きなんだから。

 そう言ってやろうと柊人が口を開きかけたところで、ドタドタと廊下を軽い足音が駆けてくる音がして、勢いよく目の前の襖が開いた。


「柊人!! 無事か!?」

「遼??」

 血相を変えて飛び込んできた遼は、柊人のところに駆け寄ると、柊人を守るように身を乗り出して、父親を睨みつける。

「柊人になにしやがった!」

「何もしてねぇよ。話きいてただけだ。バカな息子をたぶらかしやがって、この落とし前どうつけてくれんだってな」

「何の話だよ! 俺は柊人にたぶらかされてなんてねぇ。俺の方が柊人をナンパしたんだ」

 な? と同意を求められて、「う、うん?」と曖昧に首を捻る。

 いや、確かにそうなのだけれど、それを真に受けた大人の方が、やっぱり世間的には分が悪い。


「ナンパだぁ? ガキがいっちょ前に言うじゃねぇか。年の差かんがえろや。ンなガキを、大人が本気で相手にするわけねぇだろ。テメェは遊んでもらってんだよ。年の離れた兄ちゃんに、完全に子ども扱いされてんだ」

「違う! 俺と柊人は付き合ってんだ! 親父こそ勝手なこと言うんじゃねぇよ! そうだよな、柊人?」


 遼が振り向いて、柊人の顔を覗き込む。

 眉尻がさがって、少し不安そうな顔をしている。

 ああ、嫌だな。遼にそんな顔、絶対にさせたくないのに。

 組長、そしてタツーー席を外していた葎も戻ってきて、沢山の視線が柊人に向けられている。


「僕、は――」


 柊人は遼が生きるこの世界の、ほんの片鱗しか知らない。組長の言うことはきっと正しくて、遼といれば曲がりなりにも一般人として生きてきた柊人には到底理解出来ないことも、これから先沢山起きるのだろう。

 それでも。


「僕は、何を言われても遼と別れる気はないですよ。だって、この子小さくてもちゃんと僕のカレシやってくれてるんです。今だって、僕を守ってくれた」


 柊人が堪え切れずにふふっと笑えば、遼も釣られたように笑顔を浮かべる。


「ほら、カッコいいでしょ?」


 自信たっぷりに言ってやれば、複雑そうな表情を浮かべる組長とタツの横で、とうとう葎が声をあげて笑い出した。


「あら、ほんと。流石私たちの子だわ。いい男よね、あなた」

「お前な……はぁ……もう俺はしらねぇぞ」

 ペシっと葎に肩を叩かれ組長が、呆れたようにやれやれとため息をつく。


「外に出る時は護衛はうちのモン3人つける。遼が十八になるまでは門限は夜の7時。守れるか?」

「はい、勿論」

「わかった」

 組長の言いつけに、柊人と遼は素直に応じる。


「遼、惚れた相手は絶対に守りなよ。アンタの父ちゃんもそうやって私とアンタとこの組を、守って来たんだから」

「うん」

 葎の言葉に、遼は真面目に頷く。

「あの人ね、本当は喜んでたの。最近、遼が明るくなったって。前は組を継ぐのなんて嫌だって言ってたのに、今は真面目に柔道のお稽古にも通って……」

 貴方のお陰ね、と葎は柊人に小声でいう。


「いえ、僕は何も……」

「柊人さんの前だと格好つけたいんでしょうね。遼も男の子ねぇ」

 目を細めて笑う葎は、すごく色っぽくて、思わずドキリと心臓が跳ねる。

 と、それを咎めるみたいに遼が僕のシャツの端を引っ張った。

「柊人、鼻の下伸びてる」

「はぁ? そんな訳ないだろ。葎さんはリョウちゃんの母親だぞ?」

「あらあら、まあまあ」

 遼の愛らしい嫉妬に、益々葎は笑みを深くする。


「今後とも、遼のことよろしくお願い致します」

「こ、こちらこそ!!」

 柊人は深々と頭を下げる。

「タツ、柊人さんをお家まで送ってさしあげて」

「俺も行く!」

 葎の言葉に、遼は飛びつくようにして柊人の腕にしがみついたのだが――。


「アンタはこっち!!」

 文字通り首根っこを押さえられた遼は、葎によって引き剥がされた。

「アンタどうせ、お爺ちゃんとお婆ちゃんに何も言わずに飛び出してきたんでしょ? すぐに戻りな」

「でも柊人が……」

 泣きそうな顔を向ける遼に、柊人は苦笑いする。

 遼には自分がそんなに頼りない大人に見えているのだろうか。


「僕は平気だよ。タツさんとも仲良く出来るから。リョウちゃんいつも言ってたでしょ。タツさんがいるから大丈夫、って」

 小さな頃から親より世話をしてもらったという辰巳を、遼が誰より信頼していることは遼との会話の節々から明らかだった。けれどそのことを本人を前にしてバラされるのは遼には不本意だったようで、ぐぅ、と黙り込んでしまった。


「あとで母さんもそっちに行くから。お婆ちゃんに布を選んでもらっておきなさい」

「布?」

「浴衣。着るんでしょ?」

 言われて、遼のあるはずもない犬の耳がぴょこんと跳ねたのが見えた気がした。

「カッコいいの仕立ててあげる」

 期待しててね、と遼――そして柊人に笑いかけた葎は、大人しくなった遼を連れて部屋を出て行ってしまった。柊人はそれを見送って、タツに連れられて屋敷を出る。


「まあ悪く思わんでくれ。俺たちは別に、アンタが特別悪さしてるようには思っちゃいなかったが、アンタと夏祭り行くから今年は俺らの屋台手伝えねぇって坊っちゃんが言うから、親父がブチ切れちまってな。テメェを連れて来いって大騒ぎよ」

「ああ、タツさんたち、僕らのことずっと見張ってましたもんね」

「気づいてたのか」

「そりゃまあ……車目立ちますし」


 今時、ここまで典型的なヤクザも珍しいんじゃないかという風貌をしている鬼島組の連中はとても分かりやすいのだ。これを登校中、通学路でもやられたら、遼に友達が出来ないのも仕方が無いように思う。


「でも、無事に行けそうで良かった。リョウちゃんすごく楽しみにしてたから……」

 まあ、楽しみにしていたのは柊人も同じなのだが、ここは大人の面子ということで許して欲しい。

 ホッとした気持ちでタツの車の助手席に乗ろうとドアを開けたところで、柊人の膝が突然ガクっと折れた。


「おい!大丈夫か?」

「は、はは……大丈夫、じゃない…です」


 今になって、ドキドキと心臓が恐怖にわななく。緊張で抑え込んでいた感情が、ドっとあふれ出して、すべてがうまくいったことの安心感で、足が震えた。


「こ、こわかった――」


 車のシートにへたりと座り込む。

 こんな格好悪い姿、遼に見られなくて本当に良かった、と柊人は心の中で思うのだった。

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