軟禁された公爵令嬢は不当な扱いを訴える
その日、公爵令嬢シャルロッテは屋敷の一角にある薄暗い部屋へと蹴り込まれた。
「いいこと!? あなたは当分の間この部屋から出るんじゃないわよ! 食事も! 湯浴みも! 必要な事には全て侍女を監視につけさせるから!」
「そんな……アンネローゼお姉さま!」
床に身を投げだしたまま、シャルロッテは悲痛な声で姉の名を呼ぶ。
「どうか……どうか教えてくださいお姉さま。わたくしが一体何をしたというのですか……?」
「何をしたか、ですって……?」
妹の訴えに、アンネローゼは整った眉を引き攣らせながら言った。
「あれほど! あ・れ・ほ・ど私が『パーティーへ出席するにはまだ礼儀作法の勉強が足りない』『どうしてもというなら私の取ってきた皿以外に口を付けるな』『飲み物も以下同文』『というか喋るのも動くのも私が隣でフォローできる時に限る』と口を酸っぱくして言い聞かせたというのに、あなたときたらどこもかしこも豪勢な料理ヒャッホウなどと叫んでトータルで9皿は空にした挙句食べ終わった皿へデザートを山積みにしてギガマウント盛りと称したのを忘れたのかしら!? ここまでいくともう礼儀作法以前の問題なのよ!!」
「もちろん覚えています……!」
「せめて忘れていて欲しかったわよ!!」
記憶が確かだったという事が救いにならない事態も世の中にはあるものだ。
「この一件を揉み消すのに私やお父さまお母さまがどれだけ苦労したと思っているの!? 謹慎で済んだだけ寛大だと思いなさい! 最後の最後まで修道院送りとどちらにするか悩んでいたのよ! 最終的に修道院が致命的な迷惑を被るという結論が出てやめたけど!」
「修道院……入ったらおそらく二度と出る事は叶わないでしょうね……。
ですが……このような仕打ちを受け続けるよりも、静かに神に祈り奉仕へと身を捧げる日々を過ごした方が、いっそ……」
「奉仕というのは寄付金を横領して私物を購入するって意味じゃないとだけ言っておくわね。まったく……じきに婚礼も控えているというのに……」
「そうですわ! 婚礼!」
哀しげに瞳を伏せていたシャルロッテが、ぱっと顔をあげる。
「わたくしの嫁ぐ先が決まったのですか?」
「この状況でよくそこに注意が向くわね……そうよ。相手となる御方は……」
アンネローゼの告げた名前に、シャルロッテは目を丸くした。
「おっちゃんではありませんか!」
「年齢の離れた御方と呼びなさい!
とにかく私たち貴族においてはさほど驚く事じゃないわ」
「お姉さま……わたくし、嫌です……! うまくやっていける自信がありません!」
「誰よりも相手側の台詞だと思うけど!?
仕方ないでしょう! 貴族の結婚とは即ち家と家との結婚、そこに私情が挟まる余地はないのよ!」
「でも、お姉さまの婚約者はあんなに若くて素敵な……そうだ、交換しませんか?」
「アクセサリーを交換するくらいのノリで持ちかけないでくれる!?」
「お姉さま程の優秀な令嬢でしたら、どのような方の元に嫁いでも完璧に務めを果たせるはずです! 何かの都合で急遽婚約話が取り止めになる例も、姉妹の婚約相手が入れ替わる例も複数回確認できていますし」
「なんでそういう事例はしっかり学習してるのよ! あと何かの都合って何よ!?」
「わたくしが……何かこう、体が石化し始めたのでそれを治すまで結婚が遅れます、お先にどうぞ、みたいな」
「それこそ結婚してる場合じゃないわよねそれ!?」
叫ぶアンネローゼに、それに、とシャルロッテは言った。
「交換してくださればわたくしも駄々をこねませんから、一刻も早く厄介払いをしたいという家族の願いが叶います!」
「そこをアピールポイントにするんじゃないわよー!!」
あと駄々こねてる自覚あったんかい、とも。