雨の日のパフェ
ぱらぱらと降る雨が、アスファルトを濡らしている。
放課後の商店街、人通りはまばらだった。私は制服のまま、傘もささず少し小走りで家に帰る。髪が濡れて、前髪がぺたりと額に張りつく。
「おい、なにしてんの、バカ」
その声に、胸がきゅっとなる。
振り返れば、君がいた。
白いシャツ、緩んだネクタイ、片手には少し高級感のある葡萄色の傘。
「風邪ひくぞ」
「……別に、ひきたいわけじゃないけど」
ふてくされたように口を膨らましながら言うと、君はちょっと笑って、私の肩に傘を差しかけた。
ふたりのあいだに、静かな世界ができる。
小さな傘の下、君の体温が近くて、心臓がうるさい。
「なんかさ、パフェ食べたくない?」
「雨の日にパフェ?」
「うん、無性に食べたくなるんだ。冷たくて甘くて、どうでもよくなる感じ」
「……お前ってほんと、変なとこあるよな」
それでも君は、ため息をつきながら喫茶店に向かって歩き出す。
私はその背中を追いかけて、にやにやしながらついていく。
喫茶店の窓辺で、チョコレートパフェを半分こする。
窓の向こうで雨音は静かに続き、会話も途切れがちになる。
「なあ」
君がふと、言う。
「もしさ、あと一日で世界が終わるってなったら、どーする?」
私はパフェのスプーンを止めて、ちょっと考える。
「......今日と同じこと、するかも」
「なんで?」
「だって、今日の私は、君と一緒にいるから」
君は目を見開いて、それから視線をそらした。
頬が少し、赤い気がした。
「......バカ」
「うん、知ってる」
外の雨はまだ、降り続いていた。
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