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ダークサイド03

一章①→http://ncode.syosetu.com/n9717k/1/

二章①→http://ncode.syosetu.com/n9717k/7/


 ――息ができない。

 背中を強くぶつけたせいではない。私の頭の中を支配する圧倒的恐怖感のせいだった。

 額から汗が噴出してくる。

 東金凛々子はそのどこまでも深い暗黒にかたどられた眼球で私を見下した。

「答えてよ、ねぇ、清風さん……。あなたが赤帽子なの?」

 彼女の右手で光るナイフが私に警告を告げる。

 マズイ。

 殺される、このままでは。

 この女が声を発するだけで、私の首は硬い縄でどんどん絞められていくようだった。

 例の殺人事件のように。

「…………ふぅ」

 東金凛々子が溜息をつく。

「どうやら違うようね」

 彼女はそう言うと右手のナイフを手馴れたように手で回し、華麗にカバーへと入れた。

 私はそれによってやっと呼吸を許された。

「私に睨まれて声も出ないような女の子があんなグロイ殺し方できるわけ無いもの。ていうかそもそも私の予想では犯人は男なのよね……やっぱりさっきのストーカーがクロかしら……」

 東金凛々子はまるで私がいないように独りでぶつぶつ唱えている。

 私は逃げ出したかった。

 私のことを突き飛ばして行ったあの赤縁メガネのように、力の限りを出し切って暗黒に囲まれたこの場から立ち去りたかった。

 彼は本当にストーカーなのだろうか。

「ねぇ、清風さん」

 突然、話しかけられる。

「はいっ!」

 やっと声が出せた。

 だからと言ってこの場がどう変わるというわけではないのだけれど。

「私、あの子が私をストーキングしていることは知っていたの。そしてその後ろに彼を(・・)ストーキング(・・・・・・)している(・・・・)あなたにも気付いていたの」

「――――――っ」

 せっかく出せるようになった声を私は口から出すことを許さなかった。

「泳がせていたのよ――彼のこともあなたのことも」

 彼女は時折、手品師が種明かしをするときのような笑みを見せながら、私のことを馬鹿にするように話した。

「まぁ私としてはどっちが犯人かはわからなかったから、最初のほうはわざと逃がして隠れているもう一人からじっくり話を聞こうかと思ったんだけれど……ねぇ、清風さん」

 もう何度目であろうか。彼女は私に問いかける。

 話を聞く限りどうやら彼女は、今日HRで話された殺人事件の犯人を捜しているようだった。

「あの男の子、あなたはあの殺人事件の犯人だと思う?」

「えっ?久重君が?」

 しまった。

 封じていた口からつい彼の名前を発してしまった。

「ふーん。久重君ね」

 彼女は不適に笑う。不気味なあの目が弧を描いていた。

「なんでそんなことをしていたのかは興味無いけど、ストーキングしているのだから当然知り合い――もしくは関係者よね?同じ学校かしら。ねぇ、清風さん。ストーキングしていたことは黙っていてあげるから彼のこと教えてくれないかしら」

 また彼女に問いかけられた。

 どうやらこの人の口癖は『ねぇ、○○』のようだ。

「……言いません。尾行していた理由も言いません。それは私のプライバシーです」

 私はその問いかけに強気に答えた。

 汗に染みた制服がより重くなった気がした。

「ハハハッ!プライバシー?」

 彼女は嘲笑した。

「彼のそれを犯しているのがまさにあなたでしょう!……まぁいいわ。名前さえわかればこっちのものだから。それじゃ」

 そう言うと彼女は落ちていた破れたスーパーのビニル袋を拾い上げ、私のことは興味なさげに背を向け立ち去ろうとした。

 その時。

「ああ、そうそう」

 彼女は思い出したように私に言った。

「もう夜は制服でここを通らないほうが良いわよ」

「……どうしてですか」

 私は喉を振り絞って彼女に尋ねた。

 すると東金凛々子はさっきまで浮かべていた気持ちが良くない笑顔を消した。

「……赤帽子に狙われることになるから」

 彼女のその言葉はまるで迷いが無く、確信的な自信に満ちたものだった。

 


 誰もいなくなった土手。

 そこに私は座っていた。

 上を見上げると空には星が浮かんでいて今日は七夕であったことを思い出す。

 月明かりに照らされた服は汗で透けに透けて、きっとブラのホックが丸見えになっていることだろう。夜になっても夏の暑さは容赦なく続き、風を生温いものにしていた。

「いいわよ……」

 私は川のせせらぎが聞こえる静寂の中、呟いた。

「ようはあの女よりも早く犯人を捕まえればいいんでしょう……」

 身体が怒りで震えるのがわかる。

 ――東金凛々子。

 何様のつもりかしら。

 私は夜空の星に吼えた。

「そうしたらあのムカつく陰湿女に勝った事になるんでしょうっ!」

 私は駅に向かって駆け出した。

 たぶん電車の中での男の視線も気にならないだろう。





 

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