ダークサイド02
一章①→http://ncode.syosetu.com/n9717k/1/
二章①→http://ncode.syosetu.com/n9717k/7/
土手にこればいくらか涼しいかと思ったが大して変わらないようだった。虫眼鏡で一点に太陽光を集めたような昼間の日差しは、どうやら静寂に満ちている宵にも熱を残していったようだ。制服のブラウスが汗でビッショリ濡れている。タオルで体をこまめに拭いてはいたものの、やはり限度があるようだった。
こんな美少女のブラが透けていたら、男たちは日本にこのような暑さをくれた神様に感謝の意を思い出すことでしょうね。
私は東金凛々子を、もとい久重辰巳を尾行している。
殺人事件があった橋へと繋がっている土手。その遊歩道を三人はそれぞれ十メートルの間隔を空けて歩いていた。しかし歩くこと十分以上、何も動きは無い。
「……つまらないわね」
私は呟いた。前にいる久重君に聞こえないくらいに。
時折、久重君は周囲を警戒する動きを見せた。
そのたびに私は横の土手にある草むらの中に身を潜めた。外灯一つ無いこの道では、そこにいる限り尾行をバレることはまず無いだろう。
――そうか。ストーキングを誰かに見られることを恐れているんだな。私的には盗撮でも始めてくれるといかにもストーカーらしくて面白いんだけどなぁ。
まるでスクープを狙う記者になったようで、つい一人でにやけてしまった。
その後何分かそのまま道を進めた。
「――――――――」
ふと空を見上げた久重君が何かを呟いた。
なんと言ったのだろうか。ここからでは聞き取れない。
久重君は顔を手で覆いまるで悔しがるようなポーズをとると東金凛々子がいる前方を見た。
私も顔を横に出し久重君の背中越しにそちらを見る。
そこに東金凛々子の姿は無かった。
「「また!?」」
久重君と被ってしまった。今度は間違いなく聞こえた。
草むらの影に急ぎ、久重君を確認する。
しかし久重君はどうやら気付いていないようで土手を降りていく。
その先にある橋――殺人現場とは違う橋だ。その下にはもうすっかり見慣れた美しい黒髪が見えた。
私は立ち上がりまた尾行を開始した。
一応不審に思われたかもしれないので、さっきよりも久重君との間をとる。大体二十メートルくらい。
土手の下まで降りるとすでに久重君は橋の下にいて、暗闇の中、姿は確認できなくなっていた。どうやら東金凛々子はその先にいるようだ。周りに人はいない。川のせせらぎが夜の静けさを伝えるように流れていた。
私がその暗黒の橋に向かって歩くたびにジャリっと小石が混ざる音が聞こえる。
ジャリ。ジャリ。
一歩ずつ踏みしめる。
いまさらながら、尾行って緊張するなぁ……。対象が見えなくなると余計神経使うわ……。
私の頬を汗が伝い、それはやがて顎に溜まり、小石の上に落ちた。
ドスンッ!
汗が地に落ちたと同時に聞こえた重い音。
その時すでに私は橋の下にいた。
「ウワアアァァァァァァァァッ!」
瞬間。
無音だった世界に痛烈に響く叫び声。
それは私の斜め前。橋の下の暗闇を抜け、橋の足である大きな石柱を曲がった先からだった。
突然そこから出てきたのは久重君だった。私は跳ね飛ばされた。しかし、久重君は当たったことにも気付いていないようで、まさに逃走といった様子で一目散に走り去っていった。私は背中を石柱に激しく打つ。息が一瞬止まった。
逃走。
彼は何かから逃げたようだった。
いや、何かって、あんたわかってるでしょ。
光の速さで思考が頭を駆け巡り自問自答を繰り返す。
右側に視線を移すと、主婦が今から料理を作るんじゃないかと思うような食材とさっきまで久重君が持っていた空のビニル袋が破れて落ちていた。月明かりに照らされていたそれらから突然光がさえぎられ影ができる。
ジャリ、と小石の音が聞こえた。
私はその方向に顔を上げた。
「ねぇ、彼が赤帽子じゃなくてただのストーカーなら、赤帽子はあなたなのかしら?清風さん」
見覚えのある黒髪が視界を覆った。
そして、その右手には見覚えの無い鋭利なナイフが握られていた。
字数が少ないです……。