吉江軍治02
「どうだ、綺麗だろ」
俺は千里をバイクの後ろに乗せて車がもう通っていない大通りを抜けた。
そして川をまたぐ大きな橋を渡り、しばらくの間町を外れた山道の風を切る。
俺の後ろで背中にしがみついている彼女はとても弱弱しく、まるでこの風で吹き飛ばされそうであった。
山道を登りきった先には大型駐車場があり、心地よい夜風が吹いていた。
「わぁ……」
そこは町を一望することができた。
駅を中心に光が集中しており、それは外に外れていくたびにちらほらと分散していく。
まるで夜空の星が落ちてきたと錯覚させる。
千里は歓喜の声を上げた。
「弟は嫌なことがあるとここによく来てなぁ――俺には弟が二人いるんだが、ここでよく愚痴を聞いてやったもんだ」
「……なんだか素敵ですね」
「何がだ?……ていうかお前、ラリってたんじゃないのか?」
どうやら酒に酔っていただけらしい。
まぁ麻薬じゃなくて良かった。高校生に酒を薦めるつもりはないが、麻薬よりは全然マシだった。
「私、一人っ子だったから、そういう兄弟がいるのに憧れるんです」
そう言って、千里は俺に笑いかけた。
先ほどまでのほろ酔い状態とは違って、真面目そうで知的な目をしている娘だった。
「……まぁ、その兄弟ももういないんだけどな」
町を眺めながら呟いた。
その言葉に千里は目を丸くする。
「何かあったんですか?」
「最近、あいつらの姿が見えなくてなぁ、会話もしばらくしてねぇ。……最後に会ったのいつだったけな」
俺はそれを思い出そうとする。
千里は申し訳なさそうな顔を浮かべ、呟いた。
「……ごめんなさい」
「おっ謝ることができるってことはもう酔いは覚めたみたいだな」
俺は気にしていないことを示すために、無邪気に笑いかけた。
「お前もなんかに悩んだらここに来い。そんときにゃ俺が相談に乗ってやるよ」
俺は千里の髪を乱暴にくしゃくしゃと撫でた。
千里はケラケラと笑っていた。
「はい、そうすることにします――ええっと、名前はー」
「ああ、名前か。吉江軍治」
「軍治さんですね。なんか強そうな名前ですね!あっ私は今井千里って言います。千里って呼んでください」
千里は右手を前に差し出してきた。
「いい名前だな。よろしくな千里」
俺はその手を握った。
「はい、よろしくです」