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ダークサイド04

 七月八日。私は学校にいた。

 大嫌いな蝉の鳴き声も今の私には、絶対的な何かに怯え『生きたい』と誰かの助けを願っている悲痛な叫び声に聞こえてしまう。

そんな風に思えてしまうのは昨日の出来事が原因だろう。

 東金凛々子。

 私にとって彼女は、求められた情報の観察対象で、それを求めたある男子のストーキング対象で、私を完全に見下した唯一の女。

 許せなかった。

 人生で私のことを下に見たのは記憶の限り一人もいない。もちろん私より頭がいい人も運動ができる人もいたが、それは話が違う。

 彼らは決して私のことを蔑まなかった。なぜなら私はあくまでも彼らと友好的に接するようにしたからだ。

 だが、彼女の場合は最初から私を格下だと認識していた。

 許せなかった。

 何より、私が彼女に恐怖を感じていたことが許せなかった。

 だから私は決めたのだ。

 あの女が探しているらしい通り魔、『赤帽子』をこっちが先に見つけて目の前で言ってやるんだ。

『赤帽子に襲われないで良かったですね』って。





 いつも通り私は教室では優等生で通していた。

 友人の面白くも無い冗談に手を叩いて笑い、授業では先生に『お前は本当に優秀だな』と言わしめたり、とにかくその時間が来るのを待った。

 

 昼休み。

 待ちに待ったその時がやって来た。

 友人に委員会があるから先に食べててと相手が不快にならないように昼食の誘いを断り、向かった先は図書室だった。

 うちの高校の図書室には生徒が自由に使えるパソコンが七、八台ある。

 今それを使って調べるのはもちろん『赤帽子』についてだ。なぜわざわざ学校のパソコンを使うのかというと家にはそれが無いのだ(父が仕事で使うノートパソコンはあるが使用は禁じられている)

 図書室の扉を開けるとさすがに昼休みが始まった直後に訪れる生徒はいないらしく、それどころか受付にも人はおらず、その空間は静寂に包まれていた。エアコンが効いていて実に快適だ。

 目当てのパソコンの前に座り、電源をつける。

 ウゥンとパソコンが起動する機械音が鳴る。

 さぁ、丸裸にしてあげるわ……『赤帽子』





 三十分後。

「だめだーーーっ!」

 キーボードの上に頭を伏せる私がそこにいた。

 調べても調べても、出てくるのは私が知っているものばかりじゃない!インターネットを使えばもっとごそごそ情報が出ると思ったのに!!

 気付くと周りは図書室にはすでに受験勉強をする三年生や昼休みを図書室で過ごす生徒で一杯になっていた。

「帰ろう……」

 諦めて席を立とうとした時、

 声が聞こえた。

「あの、何か困ってますー?」

「えっ」

 隣にはいつの間にか男子が座っていた。

 見るからに運動神経がよさそうなさわやかなその男子――緑のタイをしているということは二年生か。……ってあれ、ていうかこの人って。

「もしかして吉江……先輩ですか?」

「えっ?あっうん、そうだけど」

 その男子は私の言葉に驚きながら答えた。

「やっぱり!私、先輩の試合見に行ったことあるんですよ!」

「ああ、それはそれはどーも」

 吉江晃(よしえあきら)

 進学校であるうちの学校で唯一力が入っている部活であるバスケットボール部。県内でもそこそこの成績は残していたのだが、この男が入ってからは違った。

 十年に一人の天才シューター。

 芸術的放物線を描く創造者(クリエーター)

 いろいろな通り名を持つこの男の異常的精度を誇るスリーポイントシュート、そのおかげでうちの学校はいきなり全国に名が知れる強豪校になった。

 だからこの男の知名度は半端ではない。

 この高校どころか近隣住民の方々は皆その名を知っているだろう。

 容姿も整っていてえらくもてる。隣のクラスの宇佐美君も女の子の間では人気があるけれど、はっきり言ってこの男に比べたら天と地の差があると思う。

 しかし、そんな天才かつ超有名人が昼休みになぜこんなところにいるのだろうか。

「ああ、俺さ。あの通り魔――今は殺人事件だよね、あれに興味があるんだ」

 私の問いかけに吉江先輩はそう返答した。

「殺人事件に?」

 驚いた。

 まさか、私以外にもこんなことを調べている人がいるなんて。

 ましてや、この天才、吉江晃である。

 まぁしかしこんな近所で起こった事件だ。そういう生徒もいるかもしれない。

 初対面の人に『私も興味があるんです!』なんて張り切って答えるのもどうかと思ってとりあえずそのことは隠すことにした。

「ああ」吉江先輩は真面目な顔で言う。

「俺、結構オカルトとかホラーとか好きで、昔から事件の記事の切り抜きとかしてたんだよね。そしたらこんな近所で殺人事件だよ!調べないわけにはいかないじゃん!いや~こんなに興奮したの。去年の全国大会以来だよ!!」

 しゃべり終えるころには子供のようにその事件に夢中になっている吉江先輩がいた。

「なんか意外……ですね。私の思ってた先輩とはイメージが違います」

「そう?俺いつもこんなんだぜ」

 白い歯を見せ笑う吉江先輩。

「で、結局清風さんは一体何に困っていたのさ」

「あれ?私の名前知っているんですか」

 私はさも不思議そうに尋ねた。

 私を知らない男などこの高校にはいないのだが。

「んー、知ってるっていうか。まぁ有名人だからねーー君。俺はあんま興味ないけど」

「結構ヒドイことさらりと言いますねぇ」

 お互い冗談交じりで会話を交わし、私はようやく事件について話すことにした。

「実は私も興味があったんですよ。その事件に」

「えぇ!清風さんも!?」

 相手は驚きを隠せない様子で私にその目を向けた。

「ええ、友達の友達がその殺されたって言う被害者らしくて、その子の悲しそうな顔見てたらなんだかいても経ってもいられなくなって……」

 もちろん、大嘘だ。

「ああーなるほどね」

 しかし吉江先輩は疑うことなくそれを鵜呑みにした。

 普通だったら、今の話では納得できないだろうが、私は清風しほりである。困っている人を助けずにはいられない天使なのだ。相手も『この子だったらやりかねない』という感じであろう。

「それで、パソコン使って調べたんだけど結局めぼしい情報は見つからなかったってとこか」

「そうなんです……」

 私は気を落とした振りをする。

 吉江先輩はそんな私を見て笑って言った。

「じゃあ、今度一緒に調査でもしない?なんなら明日にでも。俺、結構な量の情報持ってるよ」

「えっでも、土曜日って部活は……」

「大丈夫、大丈夫。俺が一日いなくても文句は言われないって」

 エースがいなかったら大問題だろうという疑問は心の中にしまって、私は相手からは見えない位置で拳を握り締めた。












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