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現場検証01

 七月九日。まるで火あぶりにかけられていたようなおとといの暑さが嘘のように、その日の空はどす黒い雲が世界を構築していた。休日と言うこともあってこの町の小さな商店街も賑わいを見せており、見知らない主婦たちが久々の涼しい夏の日を世間話の合間で喜んでいた。

 僕はそんな日常の風景を横目でほほえましく眺めながら、あの殺人事件があった橋へと足を進めていた。

 現在の時刻は九時三十分。


「遅い」

 例の橋の少し手前。

 閑静な住宅街の中の一角にいた東金凛々子は第一声で僕にそう吐き捨てた。

「いっいやいや、全然遅れてないですよっ!ホラ、まだ四十分です」

 僕は私服姿の東金に携帯のディスプレイを見せ付ける。時計は持たない主義だ。

「何言ってんの?あれはあくまでも目安でしょう。助手が私より遅く来たら、それは遅刻と同意義よ.

謝りなさい」

 …………。

 あー、なんだろう。

 こいつは人をムカつかせる才でも持っているのかな。

 第一声からそんなこと言われるとさすがに僕でもテンションが下がる。

 ていうかむしろ、あんな一方的に結ばされた約束をちゃんと守っている僕に対してお礼があっても良いくらいだ。よし、ここはガツンと……。

「ごめんなさい」

 自分のちっぽけさに嫌になる……。

 世にも珍しい才能の持ち主である東金は大きく溜息をつくと、いかにも不機嫌そうな目で僕を睨んだ。

「……で?」 

 そして、僕に向けられていた視線は真横の二人に向けられた。

「これらは何?」

 視線の先、宇佐美はいつも通り落ち着いた様子で東金を眺め、そして幸村もまたいつも通り話題の美女(性格は僕の人生の中で最悪だが)を前にして、慌てふためいていた。

 東金にとってはこいつらはこれ(・・)ら扱いらしい。

「いや、捜査するなら人は多いほうが良いかなと思って」

「……あなた、情けなくないの?助手の癖に遅刻して、おまけに人の力がないと満足に働くこともできないのね。ふぅ……これならアリに頼んだほうがマシかしら」

 お前と二人きりで居るのが恐いんだよっ!

「そうなんですよ~!」

 東金の暴言によって少なからず凹んでいる僕を尻目に、待ってましたといわんばかりに幸村は会話を投げかけた。

「いや~こいつは本当にオレ達がいないと何もできない奴なんですよ~。まぁイケテルオレに頼っちゃうのも無理は無いんですけどね!あ、オレ幸村人一って言いま~す!なんなら助手は俺がやりましょうか!」

「へぇ、久重君はストーカーだけでなくホモでもあったのね」

「黙れ!幸村ァ!お前のせいでいらん誤解が生まれているっ!」

「誤解?久重君はホモサピエンスではないの?……やはり、新種の……」

「お前も黙れェ!」

 数が多いほうが東金の暴言を緩和できると思ったのにこれはもしかして二倍疲れるだけなんじゃなかろうか。

 僕の休日の雲行きは怪しい。



「まぁいいわ。問題があるの」

 私服姿の東金は新鮮であった。

 というか、東金とはまだ二回しか顔を合わせていないし親しい間柄と言うわけではないのだが、東金の私服は美しかった。全身黒色でコーディネートされており、それは細い体をより強調させていた。

 東金はさっきの僕への暴言の数々を忘れたかのように切り出した。

「当たり前と言えば当たり前なのだけれど、橋ではまだ警察が張っているのよ。あれをどうにかしない限り間近で検証することは不可能と言うものよね」

 前方に見える橋の両端には若い警察官が暇そうに立っていた。

「……何でそんなこと昨日のうちに気付かないんですか!」

 僕は怒りに身を任せ叫んだ。

「あなただって昨日は気づいていなかったじゃない。まったく人のことばかり非難するのは愚の骨頂よ。時代の天才たちはその醜い嫉妬のおかげで日の目を見る前に――ああそうか私は天才だからこういう扱いされてしまっても仕方がないのね。ふぅ……賢いって辛いことだわ。でも私、そんな久重君でもちゃんと話し相手になってあげ――――」

「お前は無口キャラだったろうっ!」

 東金凛々子。

 友達と話しているところなんて見ることもできない深窓の令嬢である。

 急に饒舌になった東金はそんな僕の言葉も無視して自分の話を続けた。

 長い無駄話は語ることもないのでカットする。

「――というわけなのよ。あなたの小さな小さな脳みそでも理解できたかしら久重君。ところで話は戻るけれど、橋には警察が居るの。だから誰か一人ががあいつらをひきつけ、その間に検証するのはどうかしら」

「そうですね……」

 現場検証を始める前から僕のスタミナは切れてしまいそうだった。

 パワプロのピッチャーだったら全ての球がど真ん中に行ってしまうだろう。

 ちなみに宇佐美は読書中。

「じゃあ、あなたたちがじゃんけんして、負けた久重君がおとりになるということで」

「そのネタはもう使われているぞっ!」

 読書していた宇佐美と仲間外れにされて端っこに涙目で座っていた幸村を呼んでおとりを決める。

 もちろん、誰が負けたかは言うまでもない。


「頑張れよ……バカ!」


「オレかよっ!」

 そう言うと幸村はじゃんけんに負けた左手をじっと見つめ、目を瞑るとやがて覚悟を決めたように警官の元へ歩いていった。

 颯爽と歩く後姿。

 警官は橋に近づいてくる彼に気付く。

 君、ここは通行禁止だよ。

 彼は答える。

「誰も俺は止められないのさ!」

 突然走り出した彼を警官は取り押さえた。

 さぁ、来い。

 そういえば君、おとといもここで捕まったな!

 いい加減警察をおちょくるのはやめたまえ。

 遠くから彼を連れて行く警官たちの声が閑静な住宅街にこだまする。

「…………作戦成功」

 草むらに隠れていた東金はにやついた顔を隠そうとはしなかった。

 神秘的とも言えるあのオーラは今の彼女からはまったく感じられなかった。





もう何書いてんだかわかんね

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