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転生ヒロインは選択肢を間違える。〜悪役令嬢が主役のゲームでした〜

作者: ヘチマチ




人生は無理ゲー。本当にそう思う。高校生の私にとって私の未来が明るいとは思えない。というかそんなことまで気が回らない。今に必死だもん。


「アハハハハ!」


クラスの子たちが楽しそうに笑っている。私は自分のグループの会話に集中したいのにどうしてもその笑い声が気になってしまう。


もしかして私のことを笑っている?

髪に鼻水でも付いている?

ムダ毛が目立っている?

歯に青のりでも付いている?

私の制服の着方がダサい?


今の若い人は、なんて言われるけれど私の周りの同世代は割と真面目だし各々を尊重している。色んな趣味も許容されているし地味とか派手とか、男っぽいとか女っぽいとかそういうのであまり差別したりしない。親が外国人だとか、脱毛してるとか、プチ整形を考えてるとか、男の子だけどロングヘアーとか、女の子だけど制服がズボンとか、別に珍しくもない。そんな理由で壁を作ったりしない。


でもやっぱりどこかグループ意識があったり自分を上に見せたいがために相手を下げるなんていうマウント攻防は日々繰り広げられているわけで。


でもそんなの大人でもそうでしょう?というか古代からそうじゃない?人間あるあるだよね。


私は特に人の目を気にしてしまう。自分の発言を帰ってから後悔したり、好きな人の前でいい女ぶってしまって後で恥ずかしくなったり。

こうやって誰かの笑い声を聞くと、もしかして笑われてる?なんて被害妄想してしまう。

選択肢がありすぎるっていうのも考えものだよね。会話でもなんでも、これを選択すれば間違いないよっていう正解が欲しい。そうすれば人生もっと楽なのに。


人の目なんて気にするなって?それができたら苦労しないよね。

勉強が特別できるわけでもない。容姿が特別いいわけでもない。あ、アプリで修正したお気に入りの写真はあるよ。でも鏡を見ると違うな〜って。奇跡の一枚だよね。


今だって、別に私のことを笑ってるわけじゃないって頭では分かってるのにどうしても心がザワザワする。自己肯定感?っていうのが低いんだろうな。


進学か就職で遠くへ行って環境を変えて人生をリセットできれば私も変われるかな?人の目を気にせずにちょっと調子にのったりして若気の至り的なノリもできるのかな。


なんて思っていた時期がありました。


学校からの帰り、自転車で横断歩道を渡ろうとしたら車が来そうだったから止まったのね。そしたらその運転手さんが行っていいよって合図してくれて、あっ!すみませんっ!ってなって。運転手さん、サングラスしてて大人の女性って感じでカッコよくて、私は見られるのが恥ずかしいから前髪を気にしながら顔を伏せて急いで渡ったらドンッて。凄いスピードで車を抜いたバイクに撥ねられたよね。うん。びっくりした。


そんなわけで私は異世界に転生しました。遠くに行って人生リセットしたいって思ってたけど遠すぎるな?家族のみんな、ごめんなさい。


私の場合は異世界転生というか憑依?なのかな。とっても可愛いふわふわのピンクの髪をした美少女になりました。


新しい私は高熱を出していたみたいで一週間ベッドの中で過ごした。どうやら私は孤児で聖なる力を発現したとかで貴族に養子として迎えられたらしい。


あー、こういうゲーム、友達がやってたなぁ。あれでしょ?私がヒロインで悪役令嬢とかでてきてザマァするやつでしょ?選択肢が出てきて、どれを選ぶかでルートが決まる感じの。画面見たことあるけど選択肢のやつ絶対これでしょって分かりやすくて楽しそうだったな。え?私そんなゲームの世界に転生したのかな?楽勝では?


私の名前はマリアらしい。容姿も名前もドレスも可愛いしテンション上がる。スマホあれば写真とか動画を撮ってSNSにアップするのに。絶対バズるよね!明日から学校に通うらしいけど、そこで王子様に会うのかな。わー!ちょっとドキドキしてきた!夢みたい!


翌日、慣れない支度にモタモタしていたら入学式に遅刻してしまった。もしかして遅刻してきて注目される感じ?嫌だな…いや、ヒロインであるマリアならそれでいいのか。可愛いし。


学校に着いたら門が閉まっている。あちゃ〜、入れないね。ちょっと待てよ?ヒロインって元平民で元気があって塀とか登っちゃう感じなのでは?おっちょこちょいで頭に葉っぱとかつけてエヘヘみたいな。それで王子様に注目されるんだよね、きっと。貴族らしくない面白い女、みたいな。


そうと決まれば塀を登ろう…ってグギギ…全然登れないし。圧倒的に筋肉が足りない〜!門なら足を引っ掛けて登れるかも?よーしやるぞ!


ヒエエエエ!なんとか登れたけど高いイイイイ!無理無理無理!ここから降りられる気がしない!


いや、ちょっと待て?ヒロインって足を滑らせて落ちても下で王子様が受け止めてくれるのでは?むしろそれが出会いイベントなのでは?


ようし、最悪落ちても受け止めてくれるなら頑張ろう。ゆっくりゆっくり降りて…


「お前!何をしている!不法侵入者だ!」

「わっ!ワーッッ!!!」


警備の人の声でビックリした私は足を滑らせ落ちる。


ゴシャッ!!!


え?めっちゃ痛い。誰かが私を受け止めてくれるのでは?は?血?流血してる?いやいやいや…あ、意識が…あああ…


全治一ヶ月の怪我をしました。当然学校も休み。なんなら入学式に遅刻した上に不法に侵入したとして自宅謹慎を仰せつかりました。エヘヘ…。


いや!エヘヘじゃないわ!すごく痛いし聖なる力があるくせに自分の怪我を治せないなんて!異世界転生ってなんか優遇されるはずでは?私を養子に迎えた貴族も滅多に会いにこないし使用人たちもなんだかよそよそしい。そして暇!!!


スマホ欲しい〜!療養してる写真と病み文アップしたい〜!そういうの前世では学内の目が気になって出来なかったから…マリアなら絶対病み可愛い。


一ヶ月も経つとだんだんと普通の生活ができるようになってきた。使用人の人たちの顔と名前も覚えたし、合う人合わない人も出てきた。


ちょっと態度がよそよそしかったりすると私、何か粗相したかな?って気になるし、使用人同士でヒソヒソ話していたらもしかして私のこと?って思うようになった。はじめの頃は夢の世界だったからそんなのも気にならなかったのに。


ああ異世界に来てまで人の目を気にするの嫌だなぁ。そう思った時は鏡で自分の顔を見ることにしている。そこには私だけど私ではない美少女マリアの姿が写し出される。ああ私、可愛い。こんな可愛いマリアの髪の毛に鼻水が付いているわけないし、歯に青のりもつくはずもないし、ムダ毛も見当たらないし、ダサいわけがない。可愛いは正義。私が優勝。誰も私のことをバカにしたり侮ったりするわけがない。


そうしていよいよ学校に戻れることになった私は少し緊張しながら、しかし期待に胸を膨らませて登校した。クラスのみんなからは遠巻きに見られていて、はじめはまたマイナス思考に陥りそうになったけれど、私はマリアだったと思い出して堂々としていた。美少女すぎて注目されちゃうよね。聖女だし。


しばらくすると何やら騒がしい。何だろうと思って見ると、それはそれは美しい美女が私を訪ねてやってきた。


「初めまして、貴女が特待生の方ですね。私は生徒会の副会長をしておりますジュスティーヌと申します。学院を案内いたしますわ」


周りがザワザワしだす。


「公爵家のジュスティーヌ様だ」

「さすが王太子の婚約者、たたずまいが素敵」


なるほどなるほど彼女が王子様の婚約者、ということは私にとっては悪役令嬢の立ち位置の人になるのかな。それにしても凛としていて本当に美しい。それに皆からの賞賛、羨ましい。こういう美人は苦労しなさそう。ちょっとここは負けていられない。舐められないようにしなきゃ。ええと、こういう時はちょっと上から目線で馴れ馴れしくいくといいかな。ギャルを参考にして天真爛漫な感じで嫌味なく気さくに、でも主導権はこっちにある感じで。前世では自信がなくて出来なかったけどマリアなら大丈夫!可愛いから!


「え〜!優し〜!助かるんだけど〜!あ、私マリア!よろしく〜!」


そうしてギャルピースをかます。もちろん手のひらは上向きで、口はン゛ッてちょっと甘噛みする感じが可愛い。某国のアイドルがやってて可愛かったけど前世では真似する勇気もなくて。


シーン…


あれれー?おっかしいなー?


「ジュスティーヌ様に対してあのような話し方をするなんて信じられない」


「見て、いつも冷静沈着なジュスティーヌ様もまさかの事態に固まっておられるわ」


ザワザワザワザワ…


あー…やっちゃった感じだこれ。選択肢完全に間違えたよね。やばい…頭真っ白になる…


ホゲーっと現実逃避するマリアと対照的にジュスティーヌは驚いた顔から、いつものにこやかな表情に戻った。


「…マリア様、ですわね?それでは一緒に行きましょう。校内を案内しますわ」


「あっ…はい…よろしくおねがいします…」


キビキビと校内を案内してくれるジュスティーヌの後ろ姿を見ながらもマリアはその内容が全然頭に入ってこない。


やば…時を戻して欲しい…絶対ヤバい奴だって思われたよね?私がいなくなった教室で絶対私のこと噂してるよね?間違えた…異世界でも選択肢間違えた…普段なら絶対こんな言い方しないのに…異世界だからって調子乗った…穴があったら入りたい…てか帰りたい…


時を同じくしてマリアの前を歩いているジュスティーヌはすれ違う生徒たちにも愛想を振り撒きながらこんなことを考えていた。


ヤバいヤバいヤバい。本物の女子高生キターーー!あのピースとか絶対前世持ち!ヤバい。私が学生の時も流行ったけど絶対次世代のギャルピだ。だって唇がン゛ッてなってたし!こちとら前世三十路なんだわ!辛い辛い辛いー!あの子がザマァされるヒロインだよね?ヒロインも前世持ちでピチピチ女子高生とか勝ち目ある?これ本当に私が主役で大丈夫?


マリアとジュスティーヌ、二人の頭の中がぐちゃぐちゃになっていると前からキラキラとした男性が歩いてくるのが見えた。ジュスティーヌの婚約者でこの国の王太子ルイだ。ジュスティーヌは気を取り直してマリアにルイを紹介しようと思い振り向くとマリアは項垂れていた。


「ど、どうされましたの?どこか具合が悪くて?」


ジュスティーヌがオロオロとするとマリアはその顔を上げる。


「具合…ええ、ちょっと頭の具合が悪くて…ごめんなさい。今日は帰ります」


そう言って物凄いスピードで去ってしまった。後ろで「淑女が廊下を猛スピードで走るとは何事ですか!」と怒る教師の声が聞こえる。


「一体何事だい?騒がしいね」


そうこうしている間にルイがジュスティーヌの側に辿り着く。


「今年入学された特待生のマリア様を案内していたのですわ」


「ああ、聖女か。しかし逃げていったようだが?何か酷いことでも言ったのかい?」


「まさかそのようなことはありませんわ。マリア様は少し具合が悪かったようで」


「具合が悪い生徒を無理やり引っ張り歩くのは感心しないな」


「いえ、そういうわけではなく…」


ジュスティーヌはルイとにこやかに噛み合わない会話を続けているが内心はイライラしていた。


こんのクソ王子め。いつもいつも難癖つけやがって。さっさと社会的に抹殺されろ!ああ、主役で正ヒロインである悪役令嬢に転生してきたのはいいけれど、この王子の婚約者である期間が本当に嫌。スキップ機能が欲しい。まぁこいつも聖女と一緒にザマァされるんだけど。


「では私はこれで。失礼しますわ」


ルイとの会話を終えジュスティーヌは自分の教室へ戻る。ジュスティーヌはマリアよりも早い段階で転生しており、努力しながら成績優秀者が集まるクラスに在籍している。ルイは中くらいのクラス、マリアは一番成績が低いクラスだ。その後の授業中、ジュスティーヌは今後のシナリオについて考えたいた。


物語では聖女と王子はもっと早い段階で会っていたはず。そうして恋仲になって私を悪役令嬢として貶めてザマァされるはず。それなのに聖女は暫くの間、学院に来なかったし、先ほどの出会いイベントも回避していた。まさか聖女は王子を避けている…?あり得る。聖女は前世持ちのようだし王子がクズで一緒にザマァされることを知っているのかも。そのまま物語からフェードアウトしようとしている…?いやいやいや!それは困る!凄く困る!だって聖女と王子が恋仲になってくれないと婚約破棄できない!ってことはあのクズと添い遂げないといけないってこと!?無理無理無理ー!!!アアアー!!!詰んだー!!!はい、無理ゲー!!!


ジュスティーヌが予想した通り、それからマリアとルイが接触する様子はなかった。それもそのはず。なんとマリアは登校拒否になってしまったのだから。


登校拒否になってから一週間、マリアはベッドの中で丸まっていた。


あー、何回も思い出しては恥ずかしぬ。何が「優し〜!」だよ。何がギャルピースだよ。マリアが可愛いからって調子乗った自分が恥ずかしい。もう無理です。無理無理無理。無理ゲーです。チヤホヤされる未来は終了しました〜。ありがとうございました〜。


…ぐすん。私だって特別になりたかった。前世で見たアイドルとか、クラスの人気者でもいい、そういう人になってみたかった。もしくは特別な人に選ばれるヒロインになりたかった。前世の世界はさ、白馬の王子様とかはいなくて、女も男も関係なく自分で働いて生きていかなきゃいけなくて、結婚も子ども作るのも自己責任で、ちょっと偏った投稿したらアイドルだとしても手のひら返すように叩かれて人の目に追い詰められて…。そんな環境で自由に振る舞える人がどれくらいいるの?大人はすぐに時代のせいだとか国のせいって言うけど、本当にそうなの?負け犬の遠吠えじゃないの?大人が愚痴ってばっかじゃ世の中よくなんないよ。


…まぁ私もそうか。せっかくマリアとして美少女になったのに逃げてばっかり。選択肢間違えたって言うけど、基準が周りの反応だもんね。自分がいいと思ったら正解なはずなのに。


あー恥ずかしい。ジュスティーヌ様みたいに堂々としていたいなぁ。


前世でやりたかったけど人目を気にして出来なかったことを書き出してみようかな。異世界なら前世とは違うし、ていうか既に変人って思われてるし、こうなったら変人を極めてみるのもありかも。前世みたいに明日には死んじゃうかもしれないし、後悔したくないし。


マリアがせっせとやりたいことリストを作っていると使用人が訪ねてきた。


「お嬢様、学院のご友人がお越しですがどういたしましょう」


「友人?なんていないけど…」


「公爵家のご令嬢、ジュスティーヌ様のようです」


「え!ジュスティーヌ様?えーっと、こんな格好だけど待たせるのも悪いよね。どうぞどうぞ!通してください」


マリアは急いで鏡に向かって身だしなみを整える。

髪に鼻水でも付いて…ないよね。

ムダ毛が目立って…ないよね。

歯に青のりでも付いて…ないよね。

私の部屋着はダサ…いね。

でもマリアは可愛いから許される!鼻毛も出てないしマリアって最高!異世界ではムダ毛がないんだね!


「突然申し訳ありません…」


そう言ってジュスティーヌ様がおずおずと入ってくる。その姿すら美しくてマリアは自然と微笑んでしまう。


「どうぞどうぞー。むしろこんな格好でごめんなさい」


「あの、今日はお見舞いにきましたの。以前は体調が悪い時に案内してしまって申し訳ありませんでした」


そう言ってジュスティーヌが深々とお辞儀する。


「え!いやいやいや!こちらこそ変な態度とって申し訳ありませんでした!普段はあんなことしないんですけど…緊張してしまって…」


負けじと深々とお辞儀するマリアを見てジュスティーヌはクスクスと笑う。そしてチラッと見えた机の上のメモに


ジュスティーヌ様みたいに落ち着いて話したい


と書いてあるのを見つけたジュスティーヌはマリアの手を取った。


「あのっ!不躾で申し訳ないのだけれど、マリア様って転生者…だよね?」


「え?もしかしてジュスティーヌ様も!?」


同じ境遇と知った二人はきゃーっと頬を紅潮させ手を取り合って喜んだ。不思議なものでゲーム内のいちキャラクターだと思っていた時はお互いにさっさとザマァされろと思っていたけれど共通点を見つけると一気に親近感がわく。


「えー!ジュスティーヌ様、完全にこっちの貴族感すごいし全然分からなかった!」


「私は赤ちゃんの時からジュスティーヌだからね。貴族の振る舞いも慣れたものよ。ところでこの紙は?」


マリアが書いていたやりたいことリストを指差す。


「あ…アハッ。恥ずかし〜。えっと前世の私って人の目を気にしすぎて前にも後ろにも進めなかったというか、とにかく浮くのが嫌で明るい未来とか想像できなくて。人生無理ゲーとか思ってて。

でもマリアに転生して調子に乗ってたら色々選択肢を間違えて、私が何より恐れていた変な人になっちゃって。

でもよく考えたらこれ、楽だなって。いままで人の評価だけで正解不正解って思ってたけど、本当は自分が決めればいいし、それが変だって思われても異世界だしいっかーって。自分で言うのもなんだけどマリアって超絶可愛いし、なんか自己肯定感爆上がりみたいな。

まぁそういうわけで、前世では人目を気にして出来なかったけど、本当はやってみたかったことを書き出していたの。見苦しい物を見せてごめんなさい」


自分で言っていて恥ずかしくなったマリアは顔を赤くしながらリストを隠そうとする。それをジュスティーヌは止めた。


「待って!隠さないで!!」


ジュスティーヌの大声に驚くマリアを見てジュスティーヌは思わず手を引っ込める。


「あっ!ごめん!ええと、すごく素敵だと思う!私も前世でも今世でも、なんだかんだ理由をつけて諦めていたこととかあるから、なんかすごく…勇気づけられる。かっこいいよ、マリア様。私も書いてみようかな…やってみたかったことリスト」


「えー!書こう書こう!なんだか私も嬉しい!訪ねてきてくれてありがとう、ジュスティーヌ様!」


「ジュスティーヌでいいよ。私もマリアって呼んでもいい?」


「もちろん!」


そうして二人はきゃあきゃあ言いながら、やりたかったことリストを作成した。そして完成したリストをお互いに見せ合う。


「なになに、マリアのやりたかったことは…カラフルな綿菓子屋でバイトしてみたかった。いいね〜!こういうの!」


「えへへ。カラフルな綿菓子って流行ってた時に一回食べたんだけど普通にテンション上がるし、そこの店員さんの制服が夢可愛くて〜!私じゃ絶対無理なんて思ってたけどマリアなら余裕でいける!」


「それな!」


「それからポップコーン屋さんも夢だったなぁ。ジュスティーヌのは?なになに?…相手から告白してくれるように仕向けるんじゃなくて、脈があろうがなかろうが自分から好きって言う?具体的すぎて笑えるんですけど。前世で何かあった?」


「いやぁ、お恥ずかしながら…。いい年だし告白とか無理とか思って駆け引きを繰り広げてたらお互いに冷めちゃったというか…」


「駆け引き!?大人〜!あ、もう一つある!なになに?…キッチンカーでぼちぼち旅したい。旅に出ようとしてるの笑えるんですけど。人生疲れてる感じ?」


「いや、まぁ。前世では会社に勤めてる安定感を手放す勇気がなかったし、今世ではクソ王子とこのまま結婚するなんて絶対嫌だし旅に出たいなって」


「え!王子様ってクソなの!?私夢見てたのに〜!」


「え!王子狙ってたの!?てっきり王子と知り合うのを回避しようとしてるのかと思ってた!普通にやめておいた方がいいよ」


「えー!ショック!私、主役のヒロインなのに王子様がクソだなんて〜!」


「いや、ヒロインはヒロインでもマリアはザマァされるヒロインだよ?主役は悪役令嬢の私です。王子とマリアをザマァしてから王弟が出てきて溺愛される予定です」


「えっ…!それ本当?じゃあ今まで選択肢間違ってきたと思ってたけど、王子と接触しなくて正解だったってこと?」


「そう、ある意味正解。そういうわけで私はこのままあのクソと…ああ嫌だ。よし!出家するか!」


ジュスティーヌはキリッとした表情で自分の膝をパァンと叩く。


「そうと決まればさっさと頭を丸めねば!いざ!」


「待て待て待てぇ!ジュスティーヌ、一旦落ち着こう?そもそもこっちの出家って頭丸めるの?…いや、そうじゃなくって。ジュスティーヌが王子と結婚したくないのは分かったけど、じゃあ王弟のことが好きなの?王弟だったら結婚したいってこと?」


「いや、王妃とかマジに無理。私の前世の死因ってたぶん過労なんだよね。できるなら今世では収入はそこそこでいいからのんびり旅しながら暮らしたい」


「えーじゃあさ、私と綿菓子とポップコーンのキッチンカーしようよ。婚約辞退とかできないの?」


「できないね…普通の貴族は。幸い私は両親に溺愛されているし両親も王子がクソだって知っているし、クソ王子との婚約を反対してくれてる。辞退してもそれほど両親に迷惑はかからないはず。他にも王子の婚約者の座を狙っている家はごまんとあるし。それに金もある。つまりキッチンカーできる。なんで今までそうしなかったんだろう…」


「生まれた時からジュスティーヌなんだったら異世界の常識に視野が狭くなってたのかな?なんだかこれからの人生楽しみになってきた〜!」


その頃、王子ルイがクシャミをしていた。


「悪寒がするぞ…!風邪をひいたか!?医者だ、医者を呼べェェ!」


---


それから数年が経ち、無事に婚約解消できたジュスティーヌと発現した聖なる力がザコすぎて聖女の称号を剥奪されたマリアのキッチンカー事業は大当たり。キッチンカーには車輪が付いており移動の際は馬にお願いした。


こちらの世界にはなかったカラフルな綿菓子とポップコーン機を発明しそれを販売することでこれからの生活に困らない程度の貯金もできた。ただでさえ二人は美少女なので、治安の問題から彼女たちのキッチンカーには数日交代で護衛が付き、その護衛にも十分な報酬を与えることができていた。


「ねぇねぇジュスティーヌ、今日の護衛さんのこと好きなんでしょ?彼が当番の日だけ涙袋ガッツリ作ってるもんね。自分から好きって伝えたかったんじゃないの?」


「え!バレてた!?いい年して浮かれて恥ずかしすぎる!確かにやりたかったことリストに脈があろうがなかろうが好きって伝えるって書いたけど、いざとなったら無理だよね〜。私、美人だけど中身は年増だしなぁ…」


「ジュスティーヌ、その前世の年齢を言い訳にするのやめなよ。そういうの、謙遜を通り越して普通に見苦しいから。私も前世で自分下げ?やってたことあるし、友達のママとかも自分下げとか我が子下げ?みたいなこと言ってたけど、あれ、誰も得しないからね。周りの人は、いやいやそんなことないって〜って返さなきゃいけないし、むしろ迷惑。公害」


「グハァッッ!!!心に槍が刺さって血が出てるゥゥゥ!!!マリア…いつからそんなハッキリ物言うようになったの…殺傷能力高すぎるから抑えてもらえると嬉しい…ガクッ…」


「ごめん。言いすぎた。これは前世の私に言いたかったことだったから感情が昂っちゃった。本当にごめん…。

あの日、ジュスティーヌが来てくれてから私、生まれ変わった気がして。ずっと人の目を気にしてたけど、よく考えたら誰もお前なんか見てないっていうか…自意識過剰だったなって。

もちろん自分を愛して見守ってくれる家族とか、大事に思ってくれる友達もいたけど、みんながみんな私のこと注目するほど暇じゃないよねって気がついて。

そもそも異世界では私たち、はみ出し者でしょう?事業は上手く行ってるけど、一方で貴族の淑女らしくないとか、行き遅れてるとか、変人だとか言われてる。でも前世の価値観を持ってる私たちには、そう言われてもあんまり堪えない。考え方が遅れてるなーくらいに思えてる。

つまり、その人の価値観一つで生きやすくなったり、反対に生きづらくなったりするんだなーって。それに気がついてからは本当に楽しんでる。人生無理ゲーなんて思わない。もちろんしんどい日もあるけど、なんとかなるって思えるの」


「マリア…成長したね。はじめは接客が上手くいかないときに鏡見ながら私はマリア、私は美少女、大丈夫、ムダ毛なんてない、なんてブツブツ言っていたのに…」


「ワーッッ!!恥ずかしぬ!!いや、人間容姿じゃないって今なら分かるけどさ…」


「それは今私たちが美少女だから行き着く境地だよね」


「そうそれ!人は見た目じゃないって頭では理解してても、本気でそう思える人は少ないと思う。自分のどこかにコンプレックスがあって、一般的な美の基準と照らし合わせてため息つく日もある。でもその中でも自分の理想に近づこうとして失敗しながらも努力してる人は美しいって思う。それは前世でもそうで、ふとした拍子にあの人美しいな、とか思ってた。年齢とか関係なく姿勢や仕草、言葉づかいや態度で。

ジュスティーヌもさ、美しいよ。容姿だけじゃなくて姿勢や仕草も内面も含めて。勇気出して」


「ありがとう。マリアがヒロインに転生して、ゲームとしての選択肢を間違えてくれたから私の今があると思ってる。異世界で出会えて良かった。ヒロインマリア、これからもよろしくね」


「こちらこそよろしく、悪役令嬢ジュスティーヌ」


今日もキッチンカーwith馬には二人の笑い声が響いている。



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