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短編(童話のパロディもの)

鶴の恩返しVS雪女 ースタンダード・エディションー

作者: 大崎真




1、雪女




寒い北国でのお話です。

ある夜のことでした。

茂作(もさく)巳之吉(みのきち)という木こりの親子が、山で吹雪に遭いました。

運良く見つけた山小屋で、吹雪が止むのを寝ながら待っていました。


しかし、巳之吉があまりの寒さに目を覚ますと、山小屋の中まで吹雪が入り込んでいます。

扉は閉めていたはずが、一体どうしたものかと目を凝らすと、土間に人影がありました。


雪女です!

雪女は眠っている茂作に向かって、口から白い息を吐きました。

すると、茂作の体はだんだん白く変わっていき、そのまま茂作は眠ったまま息をひきとっていきました。

雪女は、今度は巳之吉へ近付いてきました。


「た、助けてくれ!」

「……そなたは若いから助けてあげましょう。ただし、今夜のことは誰にも話してはいけませんよ」


雪女はそのまま山小屋から出ていきました。

吹雪が、なおも強く唸っていました。




2、鶴




あれから一年が経ちました。

巳之吉が山で芝刈りをした帰り道のことです。

鶴の泣き叫ぶ声が聞こえました。

見ると、一羽の鶴が罠にかかって苦しんでいました。


巳之吉は駆け寄り、罠をはずしてやりました。

鶴は嬉しそうに羽をバタつかせます。

そして、空高く舞い上がると、お礼を言うように巳之吉の頭上を何度も飛び回っています。

そして、ようやく、雪山の向こうへとゆっくり飛びさっていきました。




3、第一の女・お雪




あれから何日か経った、ある夜のことです。


トントン、トントン。


家の戸を誰かが叩いています。

戸を開けると、若い娘が立っていました。

頭も着物も、雪で真っ白です。


「外は吹雪で大変でしょう。どうぞ、お入りください」


気立てのいい巳之吉は、娘を家へ入れてやりました。

娘はお雪という名でした。

話を聞くと、娘は幼くして親を亡くし、会ったこともない知り合いを訪ねにいく途中で迷子になったというのです。


晩ごはんを用意してやる巳之吉に、お雪は何度もお礼を言いました。

一日だけのつもりでしたが、次の日も、また次の日も、吹雪がおさまることはありませんでした。

吹雪がおさまるまで、お雪は巳之吉の家に留まることになりました。




4、第二の女・お鶴




お雪が来てから三日後の夜のことでした。


トントン、トントン。


家の戸を誰かが叩いています。

戸を開けると、若い娘が立っていました。

頭も着物も、雪で真っ白です。


「外は吹雪で大変でしょう。どうぞ、お入りください」


気立てのいい巳之吉は、娘を家へ入れてやりました。

話を聞くと、娘は幼くして親を亡くし、会ったこともない知り合いを訪ねにいく途中で迷子になったというのです。


お雪は「私もなのよ」と言い、「そうなんですか」と娘は驚き、お互いに慰めあっています。

また、娘には名がありませんでした。

名もない娘に、巳之吉とお雪は不憫に思いました。


「吹雪が止むまでここにいなさい。ここにいる間は……」


娘の着ている着物に鶴の柄が施されていたため、巳之吉はこう言いました。


「お鶴と呼ぶことにしよう」


巳之吉に名付けてもらい、お鶴は嬉しそうに微笑みました。

晩ごはんを用意してやり、離れの部屋へ案内すると、お鶴は、巳之吉とお雪に言いました。


「私が部屋にいる間は、決して覗かないでください」

「いいともいいとも」


部屋に入るお鶴に、二人は快く返事をしました。

その時、巳之吉は、ふと思いました。


(これはもしや……鶴の恩返し? と言うことは、お雪はまさか……)


巳之吉は、黙っていることができない性格でした。

居間に戻ると、巳之吉は早速、お雪におそるおそる言いました。


「お雪、大事な話がある……」

「なんですか?」

「実は昔、俺は雪山で遭難したことがあるんだよ。その時、雪女が現れたんだ。お前は、その雪女に似ているよ……」

「え? そんなことがあったんですか? 雪女って本当にいるんですねぇ」

「え? 雪女じゃないの?」

「違いますけど」


巳之吉は不思議に思いました。




5、第三の女・お雪B




お鶴が訪ねてきた翌日の夜のことでした。


トントン、トントン。


家の戸を誰かが叩いています。

戸を開けると、若い娘が立っていました。

頭も着物も、雪で真っ白です。


「外は吹雪で大変でしょう。どうぞ、お入りください」


気立てのいい巳之吉は、娘を家へ入れてやりました。

話を聞くと、娘は幼くして親を亡くし、会ったこともない知り合いを訪ねにいく途中で迷子になったというのです。

お雪とお鶴とまったく同じ境遇です。

また、この娘にも名がありませんでした。

名もない娘に、巳之吉とお雪とお鶴は不憫に思いました。


お雪とお鶴は「私もなのよ」と言い、「そうなんですか」と娘は驚き、三人はお互いに慰めあっています。


「吹雪が止むまでここにいなさい。ここにいる間は……」


巳之吉は、(ひょっとして、この子が雪女……?)と思い、


「お雪Bと呼ぼう」


と言いました。

巳之吉に名付けてもらい、お雪Bは嬉しそうに微笑みました。


「ありがとうございます。あと一つ、お願いがあります。布を織りたいので、はた織り小屋を貸してください。そして、決して覗かないでくださいね」


巳之吉が、はた織り小屋を案内すると、お雪Bは入っていきました。

やがて、閉めきった部屋から、はた織りの音が聞こえてきました。


キートンカラ、

キートンカラカラ……。


巳之吉は、「え? え?」と戸惑いました。


(ちょっ、ちょっと待って? お雪Bが、はた織りしだした……。てっきり雪女だと思ったのに)


巳之吉はその場を離れると、次に、お鶴の部屋を覗いてみることにしました。


「あ、あれ~っ!」


巳之吉は思わず叫びました。

なんと、お鶴は元気にエアロビクスをしています。


「ちょっと! 恥ずかしいから覗かないでって言ったのに!」

「すまん、てっきり恩返しにきた鶴なのかと……」

「違いますけど」


巳之吉は次に、はた織り小屋を覗いてみることにしました。

しかし、お雪とお鶴が止めに入ります。


「巳之吉さん、覗かない約束をしていたじゃないですか」

「お鶴さんの言う通りですよ。あなた、さっきからなにをしているんですか」


しかし、巳之吉は答えました。


「いいや、君らが間違えているよ。お笑いの世界で覗くなというのは、覗いてくれってことなのよ。これはフリなのよ」


言いながら、巳之吉は、はた織り小屋を覗きました。


「あ、あれ~!」


巳之吉は驚きました。

予想通りだったので若干芝居がかっていましたが、ちゃんと驚いてみせました。

巳之吉の思った通り、お雪Bは鶴の姿で、自分の体から羽を抜くと、それを布に織り込んでいました。


「覗いてしまいましたね」


お雪Bは言いました。


「正体を知られたからには、ここにはいられません。この布を売ってお金にしてください。私は、あの時、命を助けていただいた鶴です」


お雪Bは鶴となり、空高く羽ばたいていきました。

巳之吉は、横にいたお鶴に言いました。


「お鶴、お前は雪山で遭難した時に出会った雪女に似ているよ」

「とうとう言ってしまいましたね」


お鶴は言いました。


「正体を知られたからには、ここにはいられません。私は、あの時の雪女です」


お鶴は真っ白い着物に身をまとうと、雪山の中を静かに消えていきました。

すると、吹雪はすぐに止みました。


「あ、吹雪が止みましたね。私もそろそろおいとまします」


お雪は身支度を整えると、「お世話になりました」と頭を下げ、知り合いを訪ねに旅立っていきました。


一人、その場に取り残された巳之吉は、思わず呟きました。


「一体なんじゃったんじゃろうなぁ……」



今でもひっそりと語り継がれる、寒い北国でのお話です。

読んでくださって、ありがとうございました。

サブタイトルを真剣に悩む自分に、バカバカしくなりました。


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[良い点] 巳之吉は鶴や雪女に出会いましたが、まさに狐につままれたような話でしたね。 昔話風の作品に“B”という文字が出てくるのも面白かったです(笑)
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