飛び級って、それは無理でしょ!
「では、次は魔法の実技です」
「魔法教室へ移動してください」
「あ~あ、実技か•••」
「困ったね」
「では、静かに!いいですか、どんな方法でもいいのでこのロウソクに火をつけて下さい」
「では、初め!」
「ファイア」
「ファイア•••」
「ファ••ファイア」
みんなが、魔法で火をつけていった。
「どうしよう•••」
「これでつけてもいいかな?」
シオンは、「ライター」を持ち出した。
「何それ?」
「見てて」
シオンは、「ライター」をロウソクに近付けると「カチカチ、カチッ」と火をつけた。
「おお、ついた!」
「すごいでしょ!」
「さあ、みんなつけれましたか?」
「はい、ネル先生、シオンさんとアルク君がインチキしてました」
「俺も見た」
「なんか変な道具を使ってた」
「インチキだ」
「はい、はい、静かに!」
「シオン、どうやって火をつけたか説明できますか?」
「はい•••私たちは魔法が使えないので、自分で作った魔道具の「ライター」を使いました」
「どんな道具ですか?」
「ライターは、小さくて丈夫な瓶のなかに、「オイル」という火のつきやすい液体を入れて、瓶の口元に金属の留め金同士を「摩擦」させると火をつけることができます•••」
「シオン、素晴らしい!」
「えっ?」
「先生は、どんな方法でもいいのでと言いました。必ずしも魔法を使う必要はありません」
「自分のできることで工夫すればいいのです」
「そんなのおかしいと思います」
「魔法が使えないなんておかしいと思います」
シオンとアルクは、しょんぼりしている。
「では、さっきシオンが説明したことを理解できた人はいますか?」
「どうです?アルファ」
「わ、分かりません」
「みなさんは、どうですか?」
「分かりません•••」
「シオンの魔道具は、それくらい高度な技術なのです」
「そもそも、自作で魔道具を作れること自体が素晴らしい」
「みなさんも、いろいろなことに目を向けるようにしましょう」
「は~い」
「何とかなったね」
「うん、よかった」
こんな感じで、何とかやり過ごしていた。
一年が終わろうとしていた。
ある日、
「シオン、アルク、教員室まで来なさい」
「あいつら、呼び出しくらってるぜ」
「ハハハ、」
「あなたたちは、とても優秀です。ぜひ飛び級試験を受けなさい」
「えっ、飛び級ですか?」
「いえ、無理ですよ。僕なんか•••」
「学術試験がありますが、それさえクリアすれば実技だけです。きっと、クリアできますよ」
「両親に相談してみます」
「僕も•••」
「そうね、よく相談して!」
「はい!」
うちに帰ると、早速お父さんに相談してみた。
「お父さん、どう思う?」
「うん、いいじゃないか。頑張ってごらん。シオンとアルクなら十分に行けるはずだ」
「あら、あら、そうね、頑張って!」
「分かった。私やってみる」
「シオン、ひとつだけアドバイスだ。一人でやろうと思うな。仲間を信じろ」
「うん、分かった」
私は、飛び級試験を受けることに決めた。
「アルクは、どうするかな?」
アルクも同じようなことを言われて、もちろん受ける気満々だった。
「ネル先生、試験受けます」
「僕も!」
「よく言いました。試験の手続きはこっちでしておくから、当日は頑張って!」
「ありがとうございます」
「ございます」
試験内容は、至ってシンプル。
三年生相当の学術試験の合格と実技は、魔道の森を10キロ走破すること。
もちろん、魔物も出る。
学術試験は、受験生全員合わせても満点は二人だけ。
もちろん、シオンとアルクだ。
「あとは、実技だね。」
「アルク、走れそう?」
「うん、頑張るよ。遅くなったらごめんね」
「気にしないで!」
「では、始めます」
「スタート!」
案の定、アルクは魔力酔いのせいで出足は遅れてしまった。
「シオン、足引っ張ってごめん」
「いいの、一緒に頑張りましょ」
しばらく走っていくと、
「あれは、キラーラビット」
「任せて!」
シオンは、短剣を構えると瞬殺した。
「さあ、行こ!」
「うん」
「ほら、頑張って!」
シオンが、後ろ向きで走りながらアルクを元気付けていた。
「あーーーー」
シオンが、足を滑らせて大きな穴に落ちそうになってしまった。
「シオン!」
アルクは、目にも止まらない早さでシオンの左手をつかんだ。
その時、シオンの左手とアルクの左手にある魔法陣から目が眩むほどの真っ赤な光がまわりに飛び散った。
「あーーーー」
アルクは、何とかシオンを助け出していたが真っ赤な光はまだ続いていた。
「ああ、ああ、何?」
シオンが、目をこすると光の中から人影が見えてきた。
「えっ、あなた誰?」
「アルクだよ」
「いや、イケメン過ぎでしょ!」
アルクは、身体はスリムで顔もシュッとしたイケメンになっていた。
「あれ、なんか身体中が温かい•••」
「おお、それって•••」
「これが魔力?」
初めての経験でよく分からなかったが、魔力が身体中を駆け巡るような気がした。
「アルク、私、魔力があるよ」
シオンが、目に涙を浮かべている。
「よかったね」
「もしかして、アルクが魔力を分けてくれたの?」
「たぶん•••」
「じゃあ、今の姿が本当のアルクなのね!」
「たぶん•••」
「すごくイカしてるわ」
「ありがとう」
アルクは、顔を真っ赤にした。
「チョッと、魔法使ってみていい?」
「うん」
「ファイア」、「ボッー」
「わあ、ファイアが使えた!」
あれもこれも、いろんな魔法を試してみた。
「やった。アルク、ありがとう」
「おめでとう」
「でも、シオン、今試験中だよ!」
「あ、忘れてた!」
「ハハハ、」
「ハハハ•••」
二人は、お腹を抱えて笑った。
「シオン、今なら全力が出せそうだよ!」
「おお、じゃあ全力だしちゃおっか?」
「了解」
二人は、一気に走り出してゴールまで目にも止まらないスピードで走り続け、先行していた生徒たちを次々と抜き去っていった。
「よっしゃ、ゴール」
「あれ、アルク?」
「ここだよ。ゴールおめでとう」
「ありがとう、って戻ってるじゃない!」
「あ、あれ、アルク、私•••」
シオンは、急に力が抜けてそのまま倒れてしまった。
もちろん、トップでゴールした二人は合格だった。
「シオン、大丈夫?」
「アルク、私、また魔力がない」
シオンは、悲しくて悲しくてたまらなくなった。
「アルク、左手出して」
「うん」
「あれ、光らない!」
「うん、ダメみたいだね」
「何で?」
「わからない•••」
二人は、しばらく動けなかった。
家に帰ると、
「シオン、試験合格おめでとう」
両親が出迎えてくれた。
「シオン、元気ないな?」
「お父さん•••」
試験中の出来事を話してみた。
「なるほど、そんなことがね」
「左手の魔法陣は、気になっていたんだがそんな使い道がね•••」
「でも、また分けてもらおうとしたらダメだったの」
「なるほど、なるほど」
「なるほどじゃないよ」
シオンは、ハーベルの胸を叩いた。
「ああ、悪い悪いそれはね、許容量を一気に超えてしまったんだ。電気のショートみたいな感じだね」
「ああ、そう言うことか、って分かるように説明して!」
「今まで、全く魔力を使ったことのない身体に、本来入れられる魔力よりも大量の魔力が、入ってしまって身体がビックリしちゃったんだ」
「ビックリ?」
「ああ、だから、しばらくすればまたアルクに魔力を分けてもらえると思うよ」
「お父さん、本当?」
「ああ、ただし、今度は少しずつ分けてもらうんだ。少しずつ•••」
「はい、どれくらい?」
「そうだな、はじめはファイアで3回程度かな」
「そんなにチョッと?」
「ああ、無理をすると魔力自体受け入れられなくなってしまうかも•••」
「うん、分かった•••」
「いい子だ」
ハーベルは、優しく頭を撫でた。
「アルク、昨日はごめんね」
「うん、僕こそ、ごめん」
「何でアルクが、謝るの?」
「なんとなく•••」
「ハハハ」
「ハハハ•••」
「それはそうと、魔力また分けてもらってもいい?」
「うん、魔力をあげると僕も身体がすごく軽くなるんだ」
「でもね、お父さんがたくさんはダメだって、少しずつだって」
「そうなんだ。分かった」
「ファイア3回分ね」
「3回分ね•••」
左手同士を重ねた。
赤い光が飛び散るとすぐに収まった。
「あれ、なにもしてないのに消えた」
「消えたね」
「試してみたら?」
「そうね•••」
「ファイア」「ファイア」「ファイア」•••
「あれ、本当に3回で終わっちゃった•••」
「終わっちゃったね」
「1日1回で3回分か•••少ない•••」
「アルクの身体はどう?」
「昨日ほどではないけど、少し楽にはなるよ」
「少しずつでもいいから増やせるといいな•••」
こうしてアルクに毎日、毎日、魔力を充電してもらった。
次回 【三種の神器って、スゴすぎでしょ!】