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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あまり者の10人

作者: 仄々 とろろ

ーーーーーーこの短編は2022年12月15日に執筆されたものですーーーーーー

 

「今日で最後だね…」


 エリは左手のリストをさする。もう1時間も待たされている。


「うん」隣で背伸びをしているフェリは

「最後くらい、パチンコで1日を潰したかったな」なんて脳が死んでいる。


 教授の研究によって作られたわたしたちは今日、まるで何事もなかったみたいに計器処分される。


「あんた勝ってるとこ見たことないんだけど、どんだけ好きだったのよ」


「勝たなくても、時間は潰せる」


 答える最中に口笛を吹きながら、フェルは一歩前に出た。

 忍者でも着ないようなサラリーマンスーツを身に纏った男が糸定規でフェリの股下から足先までを測る。

 ふん、とフェリは隅に置いてある衣装を見る。とても立派な晴れ舞台衣装。ウェディングドレス。何か晴れ舞台には着る衣装であるとは聞いているが、まさか結婚の模様紙に切られるものであるとは10人の少女は知らなかった。


「あんなもの着て飯、食えんの?」フェリは独り言のようにみんなに言う。


 10人の一番奥に立っている短髪の少女はくしゅんとくしゃみをして

「みんな」


 糸定規の巻き取り巻き取られの音だけが響く。


「明日何したい?」


「嫌い」

「バイト、先輩会いたい」

「仕事、あ、あれ忘れてた」

「私、ねみー」

「勉強したいな」

「今日は何してたのかな」

「明日もどうせ何もしないかな」

「友達と遊ぶ」

「仕事」


 みなそれぞれバラバラに言い放つ。

 糸定規の音だけが響く。


「私、明日誕生日」


「え、まじ?おめでと」


 フェリは焦点の定まらない目で男を見下す。

 糸定規の音だけが響く。

 自分で何をしているかわかっているのかな、先生。

 糸定規の音が鳴る。エリはもう百回以上はさすってアザになっている手首に息を吹きかける。

 先生の後ろを歩いて一年になる。それによって何か変わったかといえば、何もない。変わったことといえば自分で変えたことだけ。他のみんなも多分そうだと思う。


「ねぇ、みんな」顔を上げる。


 しかしすでに皆は測定を済ませて光が漏れるドアの前に立っていた。レースの間から漏れる光のカーテンに目を細める。


「「「「「「「「「なに?」」」」」」」」」


 明日、なにするの?


「わかんない」

「仕事かな」

「知り合いのところに行く」

「とりあえず遊ぶわ」

「植物に水をやる」

「実家に帰る」

「やりたいことやりたい」

「つらい」

「死にたい」


「わたしは…」

 エリは何万回もさすった手首をもう一度だけさすりながら固唾を飲む。

「何回でも手首をさすっていく」ウェディングドレスを引きずりながら、光の中へとみんなと一緒に入る。

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