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23.不穏 × 不安

「あ……?」


『この気配は……!』


 学校からの帰宅途中、突如として進行方向上に強い気配が出現した。

 ビリビリと肌を刺すような感覚。

 狒々神と同じか、それ以上に強い気配である。


「おいおい……もう勘弁してくれよ」


 いったい、人をどれだけ労働させれば気が済むのだろう。

 今日はもうお腹いっぱいの気分だったのだが……またしても、堕神の出現である。


「もしかして、俺が弱るタイミングを待っていたのか? 出待ちとは熱心なファンがいたもんだな……」


『冗談を言っている場合ではないぞ。これは倒し甲斐のありそうな大物じゃな』


「キャンセルして明日にして欲しいなあ……今日はもうヘトヘトだよ」


 肉体的にも。精神的にも。

 あの巨人を含めた校内の禍津霊を掃討したおかげで、かなり疲労している。

 キサラや優菜に秘密を明かして、色々と説明を強いられたことも精神的な負担となっていた。


『なんじゃ、ゆかぬのか? ならば、小僧……』


「黄泉に逆戻りとか言うんだろ……わかってるよ」


 やらないだなんて言ってない。

 敵が出たからには戦うしかない……とんだブラック企業である。


「まったく……いっそのこと、退神師とかいう連中に倒して欲しいよ。仕事しろっての」


 これまで何度か堕神と戦ったが、本来であれば彼らと敵対しているはずの退神師とは遭遇していなかった。

 彼らも堕神退治をしているとのことだが、もっと頑張ってもらいたい。


「ん……?」


 やや陰鬱な気持ちになりながら夜道を駆けていく俺であったが……『そこ』に近づくにつれて、心臓が締め付けられるような感覚に襲われる。


「まさか……こっちの方角って……」


 この方角……かつて、転校生の歓迎会でカラオケに行った際、優菜を送っていった方角である。

 つまり、この先には優菜の家がある。


(違う……違う。そんなの偶然だ……!)


 優菜は一度、狒々神に襲われている。

 そして、今晩は俺の都合で禍津霊との戦いにも巻き込まれていた。

 いくら何でも、三度目は有り得ない。そんな災難ばかりが彼女に降りそそぐなんて許されるものか。


『バンシーちゃん』


『幸薄くてトラブルメーカーの空気がしたからね。だからバンシーちゃんだ』


(うるさい……)


『バンシーちゃんは明らかに面倒ごとに巻き込まれそうなタイプの人間だし、中途半端に関わらせるよりも近くで守ってあげた方が良いじゃないか』


(うるさい! 違う、そんなのお前の勝手な思い込みだ!)


 脳内にキサラの声がリフレクトする。

 あんなものはキサラが好き勝手に言っているだけ。

 事実ではない。短期間で三度も堕神に襲われるようなアンラッキーな人間がいるものか。


 焦燥に駆られながら、俺は必死になって両脚を動かした。

 最終的には破裂しそうな心臓に耐えられなくなり、『黒雷』の瞬間移動まで使う。


『これから堕神とやり合うというのに、力の無駄遣いをしおってからに……』


(いいから黙ってろ!)


 そして、その家にたどり着いた。

 カラオケ後に夜道を送ってきたときには敷地の中には入らなかったが、塀を飛び越えて庭に降り立つ。

 その家は敷地面積が広い平屋の日本家屋だった。

 改めて思うが、優菜もキサラのように良いところのお嬢さんだったのかもしれない。


「クソッ……!」


 悪い方への予想が当たってしまった。

 堕神の気配はやはりこの家の中からする。

 先に車で帰った優菜がいるであろう……その家の中に。


「頼む、無事でいてくれ……!」


 家はゾッとするほどに静まり返っている。

 まるで、生きている人間がそこには一人もいないかのようだ。

 お願いだから、やめてくれ。

 俺からこれ以上、何も奪わないでくれ。


 そんなふうに必死に祈りながら、俺は縁側から建物に入ろうとする。


「ッ……!」


 しかし、家屋の内側にいた何者かが雨戸をスライドさせ、縁側の戸が開けられる。

 そこにあったのは俺の頭にあった最悪の光景……それとはまた違った、絶望の姿だった。


「ホムラさん……」


「優、菜……」


 俺は呆然として、彼女の名を呼ばう。

 下の名前を呼び捨てにするようになったばかりの、彼女の名前を。


 まるで地獄の門のように開け放たれたとの向こうに立っていたのは、萌黄優菜。

 全身を黒い靄に包まれ、破れて血に染まった腹から黒い触手を生やして。

 まるで顔面が腐って蛆が生えているように黒の粘性を全身に纏っている、麗しき友人の姿だったのである。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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