序説、のようなもの改〆
文政5年(1822年)、わが国で『平田篤胤』というお医者さんが記したもので、『仙境異聞』、『勝五郎再生記聞』と呼ばれる二つの書物がある。
『仙境異聞』の方は、神仙界を訪れ修行により呪術を身に着けたという少年寅吉が、神仙界での生活、衣食住、祭祀、修行内容、医療、及び呪術について事細かに語った聞き書きをまとめた書物である。寅吉は神仙界で使用される道具についても語っており、寅吉自身にも使い方の分からない神仙界の道具や文字のような図形、神仙界に住む『鉄を食う生き物』についてのことなどが、寅吉本人や作者の挿絵付きで記されている。
また、『勝五郎再生記聞』の方は、多摩郡中野村(現在の東京都八王子市東中野)の百姓の次男、勝五郎(9歳)が「自分は多摩郡程窪村(現在の東京都日野市程久保)の百性久兵衛の息子、勝蔵の生まれ変わりである」と語り、勝蔵として6歳で亡くなってから勝五郎として生まれ変わるまでの経緯が作者の手によってまとめられ記されている。
興味深いのは、これらの書物に記された内容はすべて、作者である平田篤胤が『当事者本人』から直接聞いた話であるという点だ。また、当事者本人にすら『説明できない』物事が語られ、記されていることも興味深い。
これら、江戸時代に書かれた二つの作品は、
『この世ではない異界に対する好奇心は、むかしも今も同じ』
という一つの証明であろう。
日本には他にも『雨月物語』や『南総里見八犬伝』などの、異界や人間の魂の生まれ変わりについての物語が数多く存在する。むかし話の、桃太郎さんに出てくる『鬼ヶ島』や、浦島太郎さんの『竜宮城』や、かぐや姫の『月の世界』も、そういう『異界の物語』と呼べなくもない。ヨーロッパにも北欧神話の『ユグドラシル』、中国にも封神演義の『仙界』や『封神台』など、異界や人間の魂の生まれ変わりについて記された神話や書物は世界中に存在する。
要するに、神話の昔からわれわれは『異世界モノ』あるいは『転生モノ』が大好き、ということだろうか。
…しかし、大昔から語られる異世界の物語が『すべて作者による創作』であると、誰に言えるだろう。
それら異世界が実在する根拠もないが、否定する根拠もまたないというのに。




