しつこい男は嫌われる……らしい
「リリィがそう言うなら早く行こうか。……ん?」
青年は私がベットから出るのにもたついていると、彼はそっと私の腰に手をかけた。
「うわぁあ!?」
私の体が宙に浮く。
怖い怖い!!!落ちる!死ぬ!
唐突な浮遊感についていけず、あわあわする私にも気が付かず、金髪のそいつは余裕の笑みを浮かべる。
「ふふ、次期公爵『ホーリー・アントニオ』をここまで動かせるのは君だけだよ?」
これは俗に言う……お、お姫様抱っこと言う奴では…!?
乙ゲーと友達(脳筋)の結婚式でしか見たことないぞ!?
断じて!断じて許さんぞホーリー!
いくら王子のようだからといって、
会って一時間も経ってない謎の貴族にこんな事をされるなんて屈辱!一生の恥!
女だからといって誰しもこんな小っ恥ずかしいシチュエーションを望んでいるとお思いか!
それなら今すぐそのお花畑チックな妄想は捨ててだな…………
って……ん……?なんて言った……?ホーリー?
「たまにはこんなのも良いだろう?君はこの世界の中で最も美しいのだからね。」
ホーリーと名乗った青年はそう言って熱い視線を私に向けた。
ええっと。私今何歳でしたっけ?そうですそうですアラサーです。
そんな、ね?毒林檎くれる女王の所有する鏡みたいなこと言われましてもって感じなんすよ。
『世界で最も美しい』て。いやいやいや、お世辞すぎて逆に傷つく〜。
というか……ホーリー・アントニオって––––。
どこかでよく聞いていたような名のような気がして不思議に思う。
何だったっけ……?まぁ、いいか。今はこの状況の解決の方が先だ!
「ちょっと!!」
早いとこ降ろして!!
そう悪態をつきながら私は手足をバタつかせる。
ホーリーはそんな私に困り顔一つせず、にっこりと笑ってみせた。
「ダメさ、だってそんなことをすればリリィったら逃げてしまうだろう?」
「なっ……!?」
何なんだよ!束縛ヤンデレ系彼氏かよ!?と言おうとした口を慌てて閉じる。
言おうとした罵詈雑言の代わりに私はホーリーを自分ができる一番の怖い顔で睨みつけてやった。
どうだ!この顔が本当に世界で一番美しいのなら写真でも撮ってパリのファッションショーの審査員にでも見せてくるんだな!
その間私はお役御免でもう一回ガチャ祭りに挑んでおくからよ!
そう心の中で罵倒していると、ホーリーは少し眉を下げた。
今だっ!これが使えるのは今しかない!
「しつこい男ってぇー嫌われますよー(???)」
これ、ギャル系のユーザーがチャンスは一回きりだけどしつこい奴には効果てきめんって教えてくれた奴!
ありがとう!HN「♡まりな♡@彼氏募集中」さん!
「あっそ」
ん…?効、いた?効いたのかこれは?
目を合わせないようにはしてるけど、降ろしてはくれない…。
なんて悪質なんだ!
どうせ重いんだから早めに降ろしたほうが身のためだぞ!
そう思い、口を開けた瞬間。ホーリーの胸に光るピンバッチに視線が吸い寄せられた。
「嘘…で、しょ」
どうしてこれがこんなところにあるの…!?
※この物語はフィクションです。登場する人物、団体及びアプリ等は全て架空であり、実在上の物とは一切関係はございません!