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ボクらのピース  作者: 甘野茉亜
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第6話

第6話




ゲームにチュートリアルはつきものだろう?


そう言って男は笑った。





ボクらのピース

第6話『B』




――ドサッと言う音が後方から聞こえた。




「?なんの音?」


ルカは不思議に思い後ろを振り返る。

まず鼻を掠めたのは煙草の香り、

そしてビックリした顔の自分が反射している真っ黒な画面が見えた。



「なななななななななに!?!?!?」

「やァやァ!初めまして!お嬢サン達!」

「!?」


突如至近距離で現れた男にルカは飛び退いて、まひるも突然現れた男に驚きその風貌を見やる。


フードに隠れた髪はやたらとカラフルで、1束1束で色が違う。ちらりと見えたピアスにまひるは目を惹かれるが、それも一瞬で、男の目元に視線が強制的に吸い寄せられる。目元は大きなモニターのような物で覆われており、男の表情を表すかのような「^^」や「6<」はまるで電光掲示板のようだ。

黒いハイネックの上からカーキ色のジャケットを着込み、服の上からでも厚い胸板、逞しい腕、ガタイの良さが伺える。沢山ついたポケットには何が入っているのか、腰にもバッグを下げており……なんというか、とんでもなく胡散臭い。




「な、なんの用ですか」



私!怪しいです!と激しく主張するかのような男の風貌にまひるはレインの時のように強く出られず、固まったままのルカの腕を引く。

何やら森の中での立ち位置と逆になっている気がする。

そんなまひるとルカに男はにっこり笑ってルカの財布をチラつかせた。



「あ!それボクの財布!?」

「そー、キミあの男にスられてたんだよ?気付かなかったのかい?」

「えっ!?」


不用心だなァとケラケラ笑う男をまひるは警戒心を剥き出しにして睨みつける。

この胡散臭い男はルカの財布を取り戻したということか。

というか、そもそもルカが財布をスられる所を見ていたということだ。ぐるりとまひるは周りの様子を伺った。

周りに人は少なく、こちらを遠巻きに見ている姿がチラホラとある程度。そして先程の大男が何故か倒れている。

この男がやったのか。



「返してください」

「いいよ?」


まひるの鋭い視線などものともせず、男はあっさり了承した。ほっとした様子で男の手からルカが財布を受け取ろうとすると男は笑って"でも"と続ける。


「財布ってさ、拾った人が報労金が貰えるって知ってるかい?」

「え?」


ひょい、と男は財布をルカとまひるが届かない頭上へ掲げた。その様子にまひるは更に目付きを鋭くする。


「そんな怖い顔しないでおくれよ。小生は取引がしたいだけなんだから」


そっちにも悪い話じゃないと思うよ?と男は続ける。


「報労金ってのは冗談として、キミたち小生ことBサンをこの財布の中身の半分の金額でいいから雇わない?」

「「え?」」



Bと名乗った男の提案に2人の間抜けな声が辺りに響いた。







「キミたちあの街に入れなくて困ってたんだろう?しかも、万が一入れたとしても…キミたちだけだと明日の朝には内臓にバイバイしてるか、この世にさよならしてても可笑しくないよ?」

「ひぇ……」

「それは……嫌ね……」



門の前まで戻ってきたルカ達はBの提案を改めて確認する。


「その安い金額で、街に入る手伝いと案内まで……本当にいいの?」

「いいとも!小生別にお金に困ってるワケでもないし〜?代わりにキミたちのもってる情報をくれたらそれでチャラさ☆」


キャッ☆とぶりっ子するガタイのいい男は見るに堪えない。

こんな子供から何の情報が欲しいんだ、とまひるからの軽蔑するかのような視線にBは肩を竦めて笑う。


「キミ、変わった格好をしているよネ?キミのもってる情報が高く売れそうだな〜と思ったんだよ。小生は鼻が利くのさ。」

「情報情報って、貴方なんなの」


まひるは警戒心たっぷりの目でBを睨み、たいようが憑依した魔法石を握る。

ルカは警戒心が無さすぎる、とまひるは思った。

男の提案に驚きはしたものの「えっいいの!?」なんてすぐに食いついて…今ではキョトンとした顔でこちらを見ている。


「うんうん警戒心を持つのはいい事だネ☆……キミはちょっと不用心すぎるカナ……」

「えっ、そ、そんなことないよ!」



胡散臭い男にすら不用心と言われる始末。

ルカの不用心っぷりにまひるはハルに少しだけ同情した。



「まァまァ!疑う気持ちは分かるけど!小生怪しいし?でもほら、ゲームには大体チュートリアル役のキャラがいるだろ?小生をソレだと思って任せておくれよ」

「ちゅーと……何?」

「アレ?キミはゲームあんまり詳しくない?」

「うん、ごめんなさい」

「アハ〜☆ゴメン分かりにくかったネ。そっちのキミも分かんないカナ?」


じ、と画面越しに視線を感じた。


「いえ、大丈夫、分かるわ」

「そっか!なら良かった☆」


ネタが通じないとか寂しいからネ〜と笑う男。


「……」


この男、信用出来ない。

補給をしたらすぐに離れるべきだと、ルカに後で伝えよう。




そして男と共に門を潜る。

門番は先程の女騎士から交代したらしい、だるそうな声の男騎士だった。





――門を抜けたその先は、なんというか、汚かった。




「ようこそ!無法地帯の【ならず者の街】へ!」



男は両手を広げて歓迎するよ☆と笑顔でこちらを振り返る。


「君は此処に住んでるの?」

「いや?此処に寄ることはちょいちょいあるケド、こんな汚い所小生住みたくないし!」

「ならなんでようこそなのよ……」

「いやァほら、雰囲気だけでもワクワク感を出そうかと?小生案内人だし!」


ケラケラ笑う男にルカは変な人だなーとか呑気に言ってるし、街に入った途端こちらに気付いた住人が凄い目で見たかと思えば男を見た途端にぎょっとした顔でそそくさと逃げていく。

なんなんだこの男は……!


「貴方まさかBが本名とは言わないでしょう?いい加減に自己紹介して」


隠しきれないイラつきが言葉に現れる。

その様子に、やはり男はケロリとした顔で答える。


「アハ〜!職業柄本名は言えなくてネ!Bサン♡って呼んでおくれよ☆」

「B、貴方の職業はなんなの」

「呼び捨てか〜!まァいっか!情報屋だよ」


情報屋、たかが情報屋にここまで街の人間が過剰に反応するのだろうか。


「情報屋!わぁ!良かった!まひる!ボク、今日はツイてないって思ってたけどコレは運が良いかも!」

「な、」

「ん〜?」


情報屋と聞いたルカが頬を桃色に染めてまひるの手を取り喜ぶ。そんなルカにまひるは戸惑うしかない。

どう見ても怪しいこの男からなんの情報を得ようと言うのか。まさかとは思うが、



「まひる!帰る方法が分かるかもよ!」

「帰る?何?キミ迷子なのかい?」

「……はぁああああああ……」



少しだけ、本当に少しだけだが、なんで最初に私を見つけたのがこの子だったのだろうかと思わずにはいられなかった。








――すっかり乾いてしまった服をパタパタとはたく。


話を聞いてくれるらしいBは"お腹空いたから何か食べながらでいい?"とか宣いまひる達を街の小さな食堂へ連れていった。


食堂の従業員が、これはカモが来たとでもいうように下卑た笑みを浮かべていたが、これまたBの姿を確認すると途端に青ざめ店の奥へと駆けて行った。


奥で店主が嘆く声が聞こえた気がして、その理由はすぐに判明した。





目の前に積み重なる皿の山。

綺麗に平らげられた皿を青ざめた従業員へ渡しながら追加で注文をするこの男。

その様子をぽかーんと口を開けてまひるとルカは見ているしか無かった。


「……?ここは奢ってあげるから食べなよ?」

「い、いや……見てるだけでお腹いっぱいだから……」

「私たち、自分の分はもう食べたし……」


この男、席に着くや否やメニューを広げて"ここからここまでお願いします☆"と爽やかな笑みで注文し、運ばれる料理がみるみる男の胃に収められて行くのを悔しそうに店主は見ていた。

ぱくぱくと食べ進める男は育ちがいいらしく、食べ散らかすような食べ方では無かったがそれでも食べる量が人並外れている。

周りにいた人間は蜘蛛の子を散らすように会計を済ませて出ていき、食べ終わる頃には店には泣きじゃくる店主と従業員、まひる達しかいなかった。



「はぁ、ご馳走様でした☆」

「ボク……暫くご飯いらないかも…」

「いっぱい食べないと大きくなれないよ?」

「貴方は食べすぎよ……!」





そうかな?と首を傾げる男に少しだけ気が抜ける。

ミジンコ程だが警戒心が解けるのをまひるは感じたが、




「じゃ、知ってる情報聞かせてもらおうかな」




ニッコリと張り付けたように弧を描く口元を見て、まひるは改めて警戒するのだった。




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