創作昔話「笠売り男と地蔵」
大陸中央部に伝わる、地域によって少し違う昔話。
例えば岩窟龍国。古い古い岩窟龍国より昔の時代、腰まで雪が積もった日のこと。まだ別の名前だったお地蔵様が埋もれたそうです。
貧しい笠売り男は大雪の中雪かきをして、お地蔵様を掘り起こしました。
彼は「村の子ども達をいつも見守って下さりありがとうございます」と言って売れなかった笠をどうぞと9体のお地蔵様の頭にかぶせました。
彼は天涯孤独。笠も中々売れずに貧乏暮らし。その日は年末。
大雪だったため笠は少しだけ売れて年越し用の餅と野菜を買ってあったので、笠売り男は餅も野菜もお地蔵様にお供えしていきました。
こんなに雪が降ってはどこかの家が潰れて子どもが亡くなるかもしれないと。
笠売り男は病気から逃れてきて、村の端っこの小屋なら余っているからどうぞと住まわせてもらっていました。しかし他所者で怖がられて仲間外れ。
でも彼は村が好きでした。
家を与えてもらった。失った居場所を再び得られた。
元気いっぱいに遊ぶ子どもは自分の亡くなった兄弟達や、元々住んでいた村の子達のようで見ていて楽しくて幸せだ。
たとえ話したことも遊んだこともなくても。
その日の夜、村で4つの家が潰れてしまいました。しかしお地蔵が現れて9人の子どもを守りました。大人も全員無事です。
村人達は家が潰れた者達を自分達の家へ招いたり、差し入れをしたり助け合いました。
次の日はよく晴れて、それで村人達は集まってお地蔵様にお礼をしに行きました。
そうして雪かきされていることや笠を被っていること、お供え物まであると知りました。きっと村人の誰かだろうと思います。
けれども誰も違うと言います。笠の形もこの辺りでは見たことがない。村人達は「どういうことだ?」と首を捻りました。
一方、笠売り男の小屋も明け方に潰れていました。
笠売り男はそこそこの怪我をして下敷き。冬の寒さで凍え死ぬところでしたが、なぜかわらわら、わらわらたぬきが集まって温くて助かりました。
どうにか脱出すると、たぬき達は金貨9枚を置いて去って行きました。
笠売り男は村の子ども達が元気なのを確認。家を失ったので居場所はないと旅に出ることにしました。
その途中、お地蔵様に「子ども達だけではなくて自分も助けてくれてありがとうございます。村人達と使って下さい」と金貨9枚をお供えしました。
そうして彼は町へ行き、今夜はどこで寝るかと考えて、家が無くなり身を寄せ合っている者達を全員集め、彼等と共に凍えるような夜を乗り越えました。
目が覚めた時、彼の左手は金貨9枚を握っていました。
少し考えた笠売り男は「お地蔵様が皆へ使いなさいということか?」と思い、彼等に金貨を配りました。
ちょうど8家分の人達が集めたからです。残りの1金貨で買えるだけの餅を買って振る舞い、子ども達には飴も配り、自分もお餅を1つ食べました。
こうして笠売り男はまた次の町へ旅立ちました。町は大雪で大変で働き口も住むところも無さそうだったからです。
次の町も似たようなものでした。笠売り男はまた家を失った者達を集めて、寒い寒い夜を乗り越えました。
翌朝目覚めると笠売り男の左手はまたしても金貨9枚。
確認すると家を失った家族は全部で7家族。足りるので金貨を1枚ずつ配り、残りの1枚でまた食べ物と小さなお菓子を買い、怪我をしている者がいたので残りの1枚で包帯や薬を買いました。
そうして笠売り男は自分も余った包帯と薬でほんの少しだけ怪我の手当てをして、お握りを1つを食べるとまた旅に出ました。
その日の夜のことです。
9体のお地蔵様達は集まって会議をしました。
「助けてくれたお礼に願いを叶え、9人の子どもをそれぞれ助けに行ったら、後から家が潰れた笠売り男を完全には助けてやれなかった」
「怪我もしているしどうしたものか。怪我は治せないぞ」
「そうだそうだ。どうしたものか」
「何か案はあるか?」
「お金は他の者に使ってしまう」
「そもそも何で彼は家を買わない。家は建てられない」
「それに医者にも行かない」
「食事もそうだ」
「服だって必要だ」
困った困った。どうしたものかとお地蔵様は会議を続けました。
この後お地蔵様達はどうしたのか、なぜ笠売り男はお礼を受け取って幸せになってくれないのか延々と考え続けました。
★
「それで?」
「おしまいよ」
「笠売り男はどうなったの?」
「どう思う? お地蔵様はこの後どうしたと思う? それに笠売り男のことも考えてみましょうか。他には何が気になる?」
その問いかけへの答えは——……これは 大陸中央部に伝わる、地域によって少し違う昔話。