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目の不自由な令嬢は仮面の聖女となる  作者: ハナショウブ
ピリカの森
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会議

「ピリカの魔女に頼りすぎていたからこそ、魔術師団が機能しない状況に陥っていると考えるのが妥当ではありませんか。もっと魔術師を増やしておくべきでした」

「今は戦争中でもないのです。ピリカとの契約をこのまま切ってしまうのも手だと思います」

「200年も契約が継続されていたから、相手も思い上がったのではありませんか?そうでなければ契約破棄など勝手な真似はしなかったでしょう」

国王陛下の招集によって集められた貴族たちは、自分達の言いたいことを好き勝手に言っていた。

アルベルトは壁際に立ちながらその光景を黙って見ていることしかできない。

国王と王太子、5大公爵家の代表と宰相、各大臣たちにそれを補佐役の貴族と大人数が集う会議室は、ピリカの魔女への否定的な意見が飛び交っていた。

本来会議室の警備は第1騎士団が担当することになるのだが、その場所にアルベルトも混ざっていた。

第1騎士団は青を基調とした制服で、王族の護衛を務める近衛騎士団は白い制服だ。その中で1人だけ黒の制服で立っていると悪目立ちする。

居心地は良くないが、アルベルトを呼んだのは王太子だった。アルベルトの婚約者がピリカの魔女の血筋であり、現在森に戻ってしまったことを知った王太子が、連絡が取れるかもしれないという理由で参加させたのだ。それと同じ理由でオルファ=フラクトルも大臣たちに混ざって席に座っていた。彼も屋敷で待機していたのだが呼び出された。

ピリカの森出身のサラが妻のオルファにとって、今の状況は聞いていたくないものだろう。それでも黙ってまっすぐに前を向いている。

感心しつつも悔しさが胸の奥に溜まっていくのを感じた。

「ピリカだけが特別だったのがよくなかったのです。もっと魔術師団の人材育成に力を入れておくべきでした。それと同じように、神殿も聖女としての教育をしっかりさせておけば、今回のことは起こらなかったはずです」

大臣の1人がピリカ批判のあとに今度は神殿に対する不満を口にした。するとそれに便乗するように他の貴族たちも今度は神殿に対する批判を始める。

「そもそも優秀な聖女はもっと長く聖女として働けば、力の弱い者や問題がありそうな者を聖女にする必要がなかったはずだ」

「補佐役が付き添うなら、最初から聖女ではなく神殿の代表として男女問わずに巡礼に行かせればいいのだよ」

問題が起こったことへの不満をいない相手にぶつける。この会議はそのために開かれたわけではない。今後の対策を話し合うはずが、不満のぶつけ合いになっている。

正直ため息が出そうだったが、そこは腹に力を入れてぐっと堪えた。

「言いたいことは言い終わったかな」

ピリカと神殿の批判をしている声が聞こえる中、王太子マリウスが片手を上げて制した。

彼もいい加減聞き飽きたのだろう。そう思っていると、一瞬こちらに視線を向けた。

僅かな時間だったため反応することができなかったが、おそらくアルベルトの心情を察して労わるつもりの視線だったのだろう。

「話を先に進めたい。現在ピリカの魔女が撤退したことで魔術師団が混乱している。魔物討伐もできない状況だ。同じく、聖女巡礼は事情を知った神殿が怒ってしまって、聖女の選定をやり直すことで巡礼にも遅れが出ることになった」

城も神殿も混乱している状況だ。すべてのスケジュールが停止してしまったため、騎士団も動けずに困っている。黒騎士も今は待機中だ。

「ピリカの魔女たちに頼らないという意見が出ているが、その場合の対応はどうするつもりか誰か意見できる者はいるかい?」

マリウスの質問に今まで批判的な言葉を並べていた者たちは口を閉じてしまった。不満を言うだけ言ってその先のことなど誰も考えていなかったようだ。ここは話し合いをする場なのに、文句しか言えないのかと呆れてしまう。

「誰も対策を考えていなかったのか」

マリウスの指摘に皆が視線を交わすが、誰も発言しようとしない。

「ピリカの魔女を頼れないのならば、各領地からピリカの魔女に匹敵する魔術師を王都へ送ってもらうしかありません」

静かになった部屋にクリステッド=ウォルスターの声が響いた。

「一番にするべきことは人手不足の解消です。ピリカに任せていた事案を解決するには魔女たちと同等の力を持っている魔術師や魔女を王都に呼び寄せなければ今の混乱を落ち着かせることはできないでしょう」

「そんなことをしたら、領地を護っている魔術師たちの力が減ることになるぞ。特に国境に領地を持つ者は危険になる」

大臣の1人が反論するとクリステッドは首を横に振った。

「すべての領地から派遣する必要はない。他国に今の事態を知られないためにも、王都に近い領地の者を中心に魔術師の派遣をしてもらえばいい」

他国に接している領地の戦力を削げば何か起こっているとすぐに勘づかれる可能性がある。それを避けるためにも王都の近くで人を集める方がすぐに集まりやすくていいはずだ。

「しかし、ピリカほどの魔力を有した魔術師や魔女となると、数も少ないだろう。貴重な存在になりかねない者を簡単に派遣するとは思えない」

静かな声で反論したのは白髪の初老の男性だった。5大公爵家の1つでもあるベイリール公爵だ。彼はウォルスター公爵家とは良好な関係を築いている。穏やかな話し方と見た目をしているため、周囲の人から警戒されづらいが、その目の奥はいつも真実を見抜こうとまっすぐにこちらを見てくる鋭さがある。

冷静な指摘にクリステッドはどう言い返すのかと伺っていると、彼は口元に笑みを浮かべた。

「あくまでもピリカを頼らないという話です。私としてはピリカの魔女たちとの再交渉を考えています」

その言葉に会議室が一瞬にしてざわついた。

「200年も頼ってきたピリカの存在をいきなり断ち切るには相応の覚悟が必要でしょう。それができないのであれば、ピリカとの話し合いをするべきだと考えます。今までと全く同じ契約をするわけではありません。相手も古い契約を更新したいと考えていたようですし、この際新たな契約を結ぶための話し合いをするべきだと考えます」

一息に言ったクリステッドの言葉に皆が静まり返った。お互いに視線を交わしてどうするべきかを無言で相談している。

ピリカが契約破棄を言ってきたとき、契約の更新を考えていたと言っていた。それが聖女によって更新ではなく破棄という形になってしまったが、ピリカも話し合いをするつもりがあったのだ。それをもう一度こちらから呼びかければ反応はあるはずだ。

「ピリカが話し合いに前向きになってくれると思うのか?」

ベイリール公爵の質問にクリステッドが力強く頷く。

「まずは聖女の件を謝罪する必要はあるでしょう。そのうえで神殿や王家の考えを伝えます」

神殿は新しい聖女に切り替える。王家も契約の更新を呼びかけて反応を待つしかない。

「ピリカも200年王家との関係を築いてきました。いまさら森に引きこもるのは得策ではないと思うはずです」

魔術師団との交流も盛んに行われてきた。ピリカが持つ魔法研究の技術を提供してもらう代わりに、必要な道具などはすべてこちらで揃えていた。こちらが提供できるものは提供してピリカでしか手に入らない貴重な材料をもらうことだってある。そうやってお互いに共存をしてきたのだ。いまさら手を引くのはピリカにとっても損なことが多いはず。

フラクトル家のように貴族に嫁いでもきている。仲たがいで森に戻ってしまったが、王都から森に移動すると生活も変わっているだろう。不自由を感じればピリカの中からも不満を持つ魔女は出てくるかもしれない。

そんなことを考えると、目の不自由なリリアが今どうしているのか気になった。

慣れた屋敷では支えとなる人がいなくても自由に動き回ることができた。知らない環境にいきなり連れて行かれては今までのように動くこともできずに困っているのではないだろうか。

会いたいと強く願ってしまう。

耐えるように瞼を閉じて呼吸を整える、まっすぐ前を向いて会議に意識を戻した。

「だが、どうやって連絡を取るつもりだ。森に戻ってしまった魔女たちは一切連絡が取れない状況だと聞いているが」

魔術師団からピリカへの連絡を行っているらしいが、ピリカからの返事は一切ないという。これでは話し合いをしたいというこちらの意思を伝える方法がない。

「引き続き魔術師団から連絡はしていきます。それとは別ルートも確保しておく必要があるでしょう」

そう言ってクリステッドはオルファに視線を向けた。

強面の彼はその場にいるだけで殺気を放っているのではないかと思う程の威圧感がある。隣に座っている大臣たちは誰も視線を合わせようとはしない。

どす黒い気を感じるのはきっと気のせいではないのだろう。妻と娘を奪われた本人は怒りを腹に抱えたままこの場にいるような気がしていた。

視線を受けたオルファは無言のまま小さく頷いた。ピリカとの連絡方法を彼は持っているのかもしれない。そうなればアルベルトもリリアと連絡を取れる方法があるかもしれないと密かな期待が湧く。

「今の話を聞いていると、ピリカとの交渉はするべきということでいいのかな」

マリウスが再び口を開いた。否定的な言葉を発していた貴族たちは打開策に賛成することができなかった。そうなればおのずとピリカとの交渉に賛成することになる。特にクリステッドが前向きに発言したのは大きい。彼は今一番王家への発言力が強いと言われている存在だ。そんな彼の意見に真っ向から立ち向かえる者はこの場にはいなかった。

静まり返った部屋で、国王陛下が立ち上がる。

「ピリカとの交渉は、今後未来につながる交渉となる。未来を担う王太子にこの件を一任することとしよう」

最初から最後まで発言することなく話を聞いていた国王は、話が決まるとよく通る声でそう宣言した。

「ウォルスター公爵は王太子の力となるよう補佐を頼みたい」

「尽力させていただきます」

短い会話で会議は終わりを迎えた。不満を持っている貴族もいたようだが意見することもできず渋々席を立つ。大臣たちは自分たちの仕事へと戻り、クリステッド以外の公爵家の代表もすぐに退席していった。アルベルトも黒騎士隊に戻って今後の対応を部下達に報告しようとしたが、部屋を出る前にオルファに呼び止められた。

「アルベルト」

振り返れば目の前に強面の顔が迫ってくる。

「ピリカとの交渉役は王太子殿下とウォルスター公爵がやってくれるだろうが、君には連絡役を頼みたい」

「連絡役?」

突然迫ってきた顔にのけ反りそうになるのを堪える。

「まずはピリカとの連絡を取る必要がある。そのために森に向かう人間が必要だ」

「それを任せてくださるということですか」

森に向かう連絡役となればリリアと会えるチャンスが出てくる。期待してしまったのが表情に出ていたのか、目の前のオルファはじっとアルベルトを見つめた後フッと笑った。強面が笑うと余計な怖さが足される気がする。

「ピリカに繋がりのある者が行った方がいいだろう。魔術師団からも誰か派遣してもらうから一緒に森に向かってほしい。騎士団が動けない今なら問題ないはずだ」

ピリカの魔女とのつながりならオルファやレイルの方が適任ではあるが、アルベルトの心情を知っている彼らは敢えてアルベルトを送り出すことに決めたようだ。

「私はこのまま王太子殿下とさらに話し合いをすることになる。君はすぐに森に向かう準備をしてくれ」

「わかりました」

心の中だけで礼を言っておく。

話が終わってオルファが王太子のところへ行くとクリステッドを交えてさらなる話し合いが始まる。オルファが説明したのだろう。話を聞いた2人がこちらに視線を向けてきた。

兄は真剣なまなざしを向けてきて、連絡役としてしっかり役目を果たせと言っているようだったが、マリウスは楽しそうににこにこしながら軽く手を振っていた。

何も言わずに一礼だけすると、アルベルトはそのまま会議室を後にした。魔術師と一緒に行くことになったので、まずは混乱しているだろう魔術師団に行くことになる。

森に行けばもしかすると会えるかもしれない婚約者へと想いを馳せながら、足取りはいつもより速くなっていた。


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