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目の不自由な令嬢は仮面の聖女となる  作者: ハナショウブ
余談2
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浄化師ケイン

ケイン=ラリットは浄化師の中でも強い浄化の力を持っていた。

そのため神殿内では一目置かれる存在ではあったが、それは彼の力だけが原因ではない。

「あの人、前世は女だったのかな」

「男が好きだって聞いたけど、本当かな」

「生まれてくる体間違えたんじゃないか」

こそこそといろいろ言われていたが本人は特に気にしていなかった。

ケインは女性の言葉を使うが、別に男が好きなわけではない。いたって普通の男性なのだ。言葉使いが合っていないだけでここまで奇異の目で見られるとは正直思っていなかった。

だが、男性の浄化師が現れると威圧感で気圧される人間がいることを知っている。普段から鍛えているわけでもないのに、男だからと力仕事を押し付けられることがあった。

だから敢えて柔和に見せるために女性のような言葉を使っていた。たったそれだけで相手は安心するのか、態度が柔らかくなったり、力仕事を押し付けてこなくなった。

得した気分でいたのだが、続けていると今度は男が好きだという噂が流れ、男の体を持った女だという勘違いをされるようになった。それでもケインは態度を改めることはしなかったし、神殿で一番偉い大神官も何1つ注意をするようなことはなかった。

おそらく大神官はすべてお見通しなのだろう。

周りが1歩退く中、彼の友人であるオルファ=フラクトルはケインをケインとして扱ってくれていた。

彼とは魔術師団長を通じて友人になったのだが、結婚して子供が生まれると、長女のことで相談されることが増えた。

娘のリリアの異変に気が付いたのは妻のサラだったという。

いつも呆然としていて、どこを見ているのかわからない目に違和感を覚えたらしい。音には反応するから耳に異常はないだろうが、目が見えていないのではないかと心配したらしい。

相談を受けてリリアを診察すると、完全に見えていないわけではなく、ぼんやりとした景色の中に物を捉えることができない弱視だと判明した。

伝えたその日はショックを受けているようだったが、後日どうすればリリアが楽しく過ごしていける環境を作れるのかと聞かれた。両親は娘の目を嘆くのではなく、次を見据えていた。

そんなフラクトル家だったからこそ、ケインもできる限りの協力をしてあげることにした。

何度も会ううちにリリアも懐いてくれるようになり、それが嬉しかったのも事実ではある。

「ケイン様。私の目が見えるんだって」

「ん?」

定期的な診察に尋ねた時、5歳になったリリアは不思議なことを言ってきた。

「ケイン様も見えるの?」

「う~ん。言っている意味がよくわからないわね」

会話が嚙み合っていないと思う。

首を傾げると、リリアも真似したように首を傾げる。それを可愛いなと思っていると、付き添いをしているサラが困った顔をした。

「リリア。その話をしては駄目だと言われているでしょう」

「でも、イグナスおじ様は見えるのに、ケイン様は見えないの。でも、ケイン様も見えるっておじ様が言ってたよ」

「何の話かしら?」

不思議に思っていると、サラはさらに困った顔をこちらに向けてきた。

「ごめんなさい。私からでは上手く説明できないと思うの。もし時間があれば帰りに旦那様と話をしてくれない」

「それは構わないわ」

「ケイン様も魔法が使えるの?」

「あたしは魔法じゃなくて治療と浄化ができるのよ。だからリリちゃんの目の診察もしているの」

「おじ様と違うの?」

「そうね。イグナスは魔術師で、あたしは浄化師だから」

「ふ~ん」

理解しているのかいないのか、興味がなくなったようにリリアがお菓子を頬張る。それを可愛いと思いながらリリアの言葉の意味を深く考えることはしなかった。

子供の集中力が短いことは理解しているので、特に気にすることなく帰りにオルファと話をすることにしようと思うだけだった。

だが、診察を終えてリリアの目に関する事実をオルファから聞かされた時は衝撃的だった。

イグナスが初めてリリアと会った時に、彼をはっきりと視てしまい混乱した娘が大泣きしたことも聞かされた。その後何度か会ううちに魔力が視えていることにイグナスが気付いた。それと同時にリリアが強い魔力を持っていて、それが浄化の力であることも見抜いた。

先ほどリリアがケインも見える、見えないと話をしていたが、魔力のことを言っていたのだ。まだ子供のリリアは完全に理解しているわけではないようだ。

訳のわからないことを言う子供だと思われても困るし、ぼんやりとしか見えないはずのリリアがはっきりと視える行動をしてしまうと怪しまれる可能性が大きい。そのため周りの大人が協力して少女を護っていくことを決めたという。もちろんその仲間にケインも入ることになった。

リリアの診察をしているケインなら、いつかは目のことに違和感を覚えて気が付いた可能性があっただろう。たまたまレイルの魔力診断をするためにイグナスが先にリリアの魔力に気が付いたのだ。

それからというもの、ケインは診察の時は必ず魔力を纏うようにした。彼の魔力も強いのでこれくらいは普通にできる。浄化師は魔術師のように有り余った魔力を放出して魔力を安定させる必要がない。そのため魔力を纏うという行為はしたことがなかったが、イグナスにコツを教えてもらって数回練習をすればできるようになった。

ケインがはっきりと視えるようになって、最初は驚いて戸惑っていたリリアだがイグナスで慣れたのか、いつも通りになるまでそう時間はかからなかった。

それからリリアは浄化師としての魔力を有していることもわかったため、ケインはまだ魔力診断をする前からリリアに浄化師というものを少しずつ教えていった。

魔力診断を受ける時が来たら浄化師としての道を提案されるだろう。だが、本来の目のことを考えると神殿に仕えるのは厳しい。

せっかく授かった浄化の力を放っておくのはもったいないと考えていたケインは、リリアに浄化師にならなくても力の使い方は教えるつもりでいた。

どんな道を歩んでいくのかわからなかったが、それでもケインはリリアを支えていきたいと思っていた。

それから年月が経ちリリアはケインを超えるまでの浄化師としての力を持った。時々イグナスに請われて協力している彼女を誇りに思うことがある。それはずっと見守ってきたことと、浄化師としてリリアは弟子のような存在になっていたのだろう。

いつまで師匠気分でいられるのかわからないが、できるだけ長く彼女を見守っていきたいと思うケインだった。


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