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目の不自由な令嬢は仮面の聖女となる  作者: ハナショウブ
出会い
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不意打ちのケーキ

廊下を歩いていると後ろからアルベルトを呼ぶ声が聞こえた。

振り返ると、厳つい顔をした男が不機嫌そうにこちらに歩いてくる。不機嫌そうな顔に見えるが、実は普段からそう見える顔つきなだけで、本当は機嫌が悪いわけではない。それをアルベルトが理解したのは第2騎士団の知り合いから教えてもらえたからだ。

「フラクトル伯爵、ご無沙汰しております」

「前に会ったのはいつだったかな?半年くらい前か」

「私の前回の遠征前のはずなので、その頃ですね」

久しぶりに会うオルファ=フラクトルは前第2騎士団長で凄腕の騎士として有名だった。その剣の腕と厳つい顔が相まって、近づく女性は1人もいなかったため、一生独身ではないかと噂されていたのだが、ある時の遠征先で現在の奥方と出会い結婚までこぎつけた。まさに奇跡だと言われるほどの話になっている。爵位を継ぐため騎士団長を退いた今でも、時々騎士団に来ては他の騎士の演習相手を務めているので、アルベルトも城の中で何度か会ったことはあった。

「突然ですまないが、君に渡したいものがあって声をかけた」

「私に?」

挨拶を交わす程度のオルファから受け取る物など見当もつかず首を傾げると、彼は抱えていた紙袋を開いて手を入れる。取り出したのはさらに紙袋に包まれた物だった。

「私の娘から、親切にしてもらったお礼に、君に渡してほしいと頼まれた」

「は?」

アルベルトは何を言われたのかわからず、差し出された紙袋を受け取ることもできずにオルファを見つめ返してしまった。

「あの、何の話をしているのですか?」

紙袋とオルファを見比べながら尋ねると、彼もまた困惑した顔をした。

「2日前の城での夜会で娘を助けてくれたと聞いたのだが」

「2日前・・・」

「1人でいたら、男たちに絡まれてしまって、そこを助けてもらったと言っていた」

そこまで言われてアルベルトは思い出した。王家主催の夜会で困っていた令嬢に声をかけた。庭で話をしようとしたところで兄だという人が戻ってきて、そのまま2人で帰ってしまった。その時の女性のことのようだ。どうやら、フラクトル伯爵の娘だったようだ。

「申し訳ありません。名前を伺っていなかったので、どこのご令嬢か知りませんでした」

自分は名乗ったが、彼女から名前を聞く前に兄だという人が来てしまったため、何もわからないまま謎の令嬢になってしまっていた。そのことを説明すると、オルファは申し訳なさそうな顔になった。

「息子は妹に対して、その・・・過保護なところがあるんだ」

「・・・あぁ」

はっきりとは言わなかったが、どうやら親も認めるシスコンのようだ。

「娘の名はリリアだ。せっかく親切にしてもらったのに、お礼を言えなかったと気にしていてね。代わりにこれを渡してほしいと頼まれた」

そう言って再び紙袋をアルベルトに差し出す。

「中身はカップケーキだ」

差し出された袋だが、それでもアルベルトは手を出すことをしなかった。

「フラクトル伯爵。申し訳ありませんが、こういった物を受け取るのは・・・」

拒否の反応を示すと、なぜかオルファは笑顔を見せた。せっかく持ってきた物を拒否されて不愉快に思う貴族がほとんどなのに、彼はひとつ頷いた。

「わかっている。受け取ると、後々贈り物を受け取ったとして縁談話に持ち込まれるのが嫌なのだろう」

完全にアルベルトの考えを読んでいたようだ。貴族が贈り物をするときはだいたい裏があると考えていい。親切にしてもらったからと理由をつけて物を渡すことで、後で面倒ごとになるのを避けたかった。

「心配しなくても、娘にそんな考えはないし、私もケーキ1つで君を吊り上げようなんて思ってないよ。まぁ、そう言って信用してもらえるかわからないが」

苦笑を漏らしたオルファは差し出していた袋を引っ込めた。

「助けてもらったことには礼を言う。あの子は少し特殊なので、あまり社交界に顔を出さないようにしている。また会う機会があれば挨拶くらいはしてやってくれ」

そう言って背中を向けて歩き出してしまった。受け取らないことでごねる貴族もいるが、さすがに元騎士なだけあって、引き際は心得ているようだ。そう思うと少し申し訳ない気持ちにもなってしまう。

「ウォルスター」

ほっとしていたら、呼ばれて顔を上げる。すると、オルファが背中を向けたままこちらに何かを放り投げてきた。咄嗟のことに反射的に手を伸ばして掴むと、それは先ほど拒絶した紙袋だった。

「あ・・・」

オルファを見れば、顔だけをこちらに向けて不敵な笑みを向けていた。完全な不意打ちだ。

「まぁ、今度会えた時に、味の感想くらいは教えてやってくれ」

そう言って彼は片手をひらひらと振りながら、再び歩き出していってしまった。

受け取ってしまったアルベルトは、しばらく呆然としてしまったが、袋の中から漂う甘い香りで我を取り戻し、じっと袋を睨みつけた。

睨んだところで甘い香りは消えないし、ケーキが減ることもない。

仕方がないので、ため息をつきつつ袋を抱えて自室へと戻った。


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