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空席に座っていた誰かの想い

作者: 城塚崇はだいぶいい

5分くらいで読める短い作品です。


もし、お時間あったら・・・よろしくお願いします。

 平日、時間はすでにお昼をまわっていた。

 珍しくこんな時間に電車に乗った俺は、見渡す限りの空席に気分を良くし、少し肩を広げ、足を組んで座った。普段は通勤ラッシュの満員電車、こんなにゆったりと座れる時間もあるんだな・・・っと斜め上をぼうっと見上げながら思っていた。

 すると、向かい側の席の網棚から何かがぶら下がっているのに気がついた。よく見てみると、それは女性用のネックレス、指輪が2つ通された状態でぶら下がっていた。

 なんだ?これ?

 俺は見つめながら思った。きれいだな、売ったらいくらか値がつくかもしれない。近づいてそのネックレスを手にとって見た。そして、網棚から外すと自分の首にかけてみた。ネックレスに通された2つの指輪、サイズは男性用と女性用が1つずつといった感じだった。それに気づいた俺は、些細な想像を始めた。

 この指輪の持ち主だった2人はきっと今日、デートをしていたんじゃないだろうか?そして、デートの途中で喧嘩になり、まだ昼間だというのに電車に乗って帰ろうとした。電車の中でも喧嘩は続いており、ついには下車すべき駅に着く前に別れ話に発展してしまった。2人はペアリングをしていた。そして、彼女は彼からもらったネックレスをつけていた。仲直りできなかった2人はそれらの思い出の品を電車の中へ置いていくことにしたんだ。

 こんな経緯があってこのネックレスと指輪はこの電車のこの車両のこの網棚にぶら下がっていたんじゃないだろうか?だとしたら、これは別れのペアリングってことになる。なんだか変な想像をしたせいでさっきまで金目のものに見えていたこのペアリングが100年の恋も一瞬にして冷ます呪いのアイテムのように見えてきた。

 俺は急いでこのネックレスを首から外そうと思い、手をかけた。その時・・・

「ご乗車のお客様へご連絡いたします。ただいま、○○駅構内で人身事故が発生いたしました。そのため後続の列車にダイヤの乱れが・・・」

 車内アナウンスを途中まで聞いた段階で俺の頭の中はさらに想像を膨らませ始めていた。

 このペアリングを置いていった2人のうち彼女の方は喧嘩の途中から、実は謝り始めていたんだ。「本当にごめんなさい」って。しかし彼は頑として聞かない。自分の言い分を押し通し、彼女のことを一方的に振ってしまったんだ。そして○○駅で下車した2人、彼は、泣きながら謝る彼女を「うるせぇ!」と一蹴し置き去りにして帰ってしまう。置いていかれた彼女は○○駅構内で早まったり、思いつめたりしてしまう。

 こんな経緯があってこの人身事故は発生したんだ。俺は、自分の首にまとわりついたネックレスを一刻も早く外そうと必死になる。今すぐこの呪いのアイテムを外さなきゃ!!!

 焦る。焦ってもたついてなかなか外れない!!!


 その時、ネックレスが急にぎゅっと引き締まった。金属でできたネックレスがすごい勢いで俺の首を締め付け始めたんだ。

「うぅ・・・ぐ・・・」

 声が止まる。

 呼吸が止まる。

 血液が止まる。

 意識が止まる・・・。

 まずい・・・早く外さないと・・・死ぬ。

 俺は渾身の力を込めてこのネックレスを引きちぎった。しかし、首を締め付ける猛烈な力はおさまらない。

 何故だ?引きちぎったネックレスを投げ捨てて、自分の首に手をあててみると・・・・

 戦慄した。俺の首を絞めていたのはネックレスではない。冷たい手・・・女の手。そしてその薬指にはあの指輪が!!

耳元で女がそっとつぶやいた。

「男なんて・・・みんな・・・死ねばいい・・・。あたしを裏切ったあいつは・・・あたしが線路へ落としてやった・・・。 お前も・・・死ねよ」


 ・・・・ってところで現実に帰ってくる。危ない危ない。妄想癖ってやつはこれだから危ない。危うく自分の想像力に殺されるところだった。

 俺はネックレスを丁寧に首から外すと、元あった場所に元通りにぶら下げ、速やかに電車を降りた。

(終)

読んでいただいた方へ


本当にありがとうございます


ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 計算されつくしたような内容がリアルでした。 指輪が二つ。女性用のネックレス。ならば捨てる目的で女性が置いたと想像できるし、妄想も膨らみます。 ラストが大団円のようで、…
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