別れ「解決」
ローゼライト姫も一緒に去るのかと思っていたら・・・私の前に立った。何だか雰囲気が・・・怒っている。
「あんたがセレン?」
「・・・」
「あんたがセレンなのか?って聞いてるの。」
「・・・はい。」
質問に答えると
『バチン!!』
私は左頬を叩かれてしまった。完全に不意打ちだったので尻もちもついてしまった。
その場にいた誰もが呆気にとらわれてしまった。そしてその場にいた騎士様が間に割って入ろうとしたがお父さまが騎士様を制した。
ローゼライト姫は尻もちをつき動けないでいた私の胸ぐらを掴み・・・
『バチン!!』
今度は右頬を叩いた。
「あいつ!!」
「テルル待て。」
怒ったテルル姉さまが駆け寄ろうとしたがお父さまが制している。ローゼライト姫は叩いてから私を前後に揺さぶって口を開いた。
「あんたね!!学校も行ってない小娘のくせに生意気言ってんじゃないわよ!この国の危機なんて絶対ある訳ないのよ!この国の騎士はあんたなんか必要ない位強いんだよ。あんたに心配される位国の民が守れないと思ってんのかよ!!馬鹿にするんじゃないわよ!小娘なら小娘らしくしろよ!国の心配してんじゃないよ、大人が情けなくなるだろ!!」
私にそう啖呵を切り胸ぐらを掴んだ手を離し、騎士様達の方に振り返り大声で怒鳴った!
「騎士ども!こんな小娘に守ってもらわないと保てない騎士の誇りなんて捨ててしまえ!!こんな小娘に負けて恥ずかしくないのかい!ずっと負け続けていいのかい!よくないと思うなら強くなりやがれ!怪我なんか恐れるな!怪我したらテルル様が治してくれる!そうですよね?」
ローゼライト姫はそう叫んでテルル姉さまを見つめた。
「へ!私?マジで?」
テルル姉さまは突然振られたので動揺してる。動揺しつつもローゼライト姫の顔を立てる為、前に出て横に立ちその振りに溜息しつつ答えた。
『はぁ・・・』
「貴公らの激しい訓練でついた傷は武門ロシュフォール侯爵家長女、テルル ド ロシュフォールが承った!この私が責任をもって必ず治すので貴公らは武に励め!そして必ずこの国に今まで以上の安寧をもたらせ!いいな!!」
「うおおおおぉぉぉ!!!」
テルル姉さまの言葉で城の騎士様達は興奮して吼えた!さらにローゼライト姫は畳み掛ける。
「今ここで古臭い騎士の誇りを捨て新しい本当の騎士の誇りを得よ!、最強の騎士の誇りを!!死者を甦らすな!分かったな!!!」
「うおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!」
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「紅茶を淹れましたわ。」
城の執務室に戻りテルル姉さまが紅茶を煎れみんなで飲んだ。
先程の出来事を思い起こしクルタ兄さまはお父さまに話す。
「お父上、ローゼライト姫に全部持っていかれましたね。」
「そうだな。あそこまで言われたら私も今まで以上に騎士共に指導せねばなるまい・・・」
お父さまとクルタ兄さまは笑っていた。テルル姉さまも続けて話す。
「私までダシに使うだなんて・・・いい根性してますわ。」
「だがテルル、お前もあれだけ言ったんだ。それに応えなければな。」
「分かってます!やってやりますわ!」
お父さま、クルタ兄さま、テルル姉さまはローゼライト姫の騎士に対しての鼓舞で城に来た時とすっかり雰囲気が変わってしまった。私と騎士様の関係を決別できたからだろう。そして私は完全に蚊帳の外。私としては肩の荷が下りたといったところだろう。そんな事を思っていると執務室のドアを叩く音が聞えた。
『コン!コン!コン!』
クルタ兄さまが反応し入室を促した。
「どうぞ。」
入ってきたのはローゼライト姫だった。
「失礼しますわ。」
お父さまはテルル姉さまにお茶を用意するように言い、ローゼライト姫にソファーに座って頂いて話しかけた。
「姫、今日の騎士共への口上、お見事でした。」
「当然ですわ。最近騎士達はしょぼくれて元気が無かったから丁度いいと思ってね。」
「はぁ~・・・セレンちゃん叩いちゃってごめんなさいね。本当はこんな事したくなかったんだけどね、私も興奮しちゃってね。」
「いえ大丈夫です・・・私、叱られた事が無かったもので・・・」
正直、私がこの世界に生まれてから怒りの感情をぶつけられた事がなかった。家柄もあるだろうけど年相応であれば叱られる事もあっただろう。しかし魂は20歳だったから20歳相応の言動であり思考なので叱られる理由を作る事がなかった。いわゆる手のかからない子だった。
「え!マジで?」
「はぁ~ロシュフォール家は一体どういう教育方針なのやら・・・」
「ははは!面目ない。」
お父さまは苦笑いをし謝った。テルル姉さまは紅茶を淹れてローゼライト姫に差し出した。
「どうぞ。」
「ありがとう、頂くわ。」
テルルお姉さまはローゼライト姫が紅茶を飲んでるところをジトっと見て・・・
「まさかあの場所で私まで巻き込まれるとは思っても見ませんでしたわ。あのままスルーしても良かったんですよ?」
「ん?それは無い無い。テルル様はそんな事出来る人じゃないですから。実際に騎士に叫んでくれたし。騎士って言っても男だし、私の所の男2人含めて基本的に男はバカだから美女2人でおだてたり鼓舞されたら張り切るでしょ?」
「『美女』と言う所と『男はバカ』っと言う所は同意しますわ。」
『『ぶっ!!』』
黙ってローゼライト姫とテルル姉さまの話しを聞いていたお父さまとクルタ兄さまは紅茶を噴いた。
ローゼライト姫の所の男2人と言ったら国王陛下と皇太子な訳だがそういう暴言をサラっと言う。
「あら?お父さま、お兄さまどうかいたしました?」
「・・・いや、なんでもない。」
お父さまとクルタ兄さまは動揺していた。テルル姉さまの会話は冷や汗ものだろう。ローゼライト姫は私の方をチラッと見て・・・
「これでセレンちゃんの事は解決で良いかしら?多少はシコリはあるでしょうけど。」
「はい、なんとお礼を言えば良いのかと・・・」
お父さまは立ち上がりソファーに座るローゼライト姫に跪いた。謝辞を述べた。
「本当は私の所の男2人が解決しないといけなかったんだけど子供でバカだから。」
「それよりセレンちゃん、国外に行くんだよね?」
「はい、もう少ししたら国外の学校に行きます。」
国王陛下と皇太子を『子供でバカ』と言うローゼライト姫を見てお父さまとクルタ兄さまは苦笑いしか出来ない。そしてローゼライト姫は私の目を見て・・・
「どこに行くかは詮索しないけど、国外に出たら名前を伏せた方が良いわ。素直に名前を使ってたら・・・後は分かるわね?」
「はい。」
「よろしい。外に出て経験を積む良いわ。私の分までね。」
「・・・・・・」
ローゼライト姫は生まれた時から自由が無い、国王家だから。それを当たり前として生きている。私の言う望みにローゼライト姫はなんと思っているのだろう。
テルル姉さまが突然ローゼライト姫に跪き・・・
「先日は大変失礼いたしました。この私と友達になって頂きたく・・・」
「ええ、よろしくお願い致しますわ。」
ローゼライト姫はにっこり微笑み・・・
「早速ですがワイバーンの乗り方を教えて頂けます?」
「あ、それはロシュフォール家の家族以外には秘密にするようにっと伝説の聖女からきつく言われてますので。」
ローゼライト姫とテルル姉さまは会話を楽しんでいるようだ。意外と相性は良いのかもしれない。
「でしたらクルタ様と結婚したら問題ありませんわね!」
『『ぶーーーーー!!!』』
お父さまとクルタ兄さまが激しく紅茶を拭いた。
「お父さま、お兄さまいかがなさいました?」
「い・・いや、なんでもない。」
お父さまとクルタ兄さまは噴いた紅茶を拭いている。本日2回目。
ローゼライト姫は思い出したかのように口を開いた。
「そういえば、医務室はテルル様の部屋として使ってね。救護の役人を助手にして下さいな。」
「はい?」
テルル姉さまはキョトンとした顔をしていたが構わずローゼライト姫は話しを続けた。
「張り切って訓練もしているでしょうからもうそろそろ・・・」
『トントントン!!』
ドアを強くノックするものが居た。クルタ兄さまが入室を促した。
「どうぞ。」
入って来たのは訓練中の騎士様だった。ローゼライト姫はこうなる事が分かっていた様で・・・
「ほら来た。」
「訓練中、怪我した者がいるのでテルル様に見て頂きたいのですが・・・」
訓練中の騎士様はテルル姉さまを探していたようだ。早速出番が来たので溜息をしていた。
「はぁ~・・・今行きますので先に戻ってて下さい。」
そう言って騎士様を戻しローゼライト姫をジトっと見た。
「お父さま、お兄さま行って参ります。」
「テルル姉さま、頑張ってねー!」
ローゼライト姫はニヤニヤしながら手の平をヒラヒラさせて見送った。
「キーーー!!」
っと言いながらテルル姉さまは走っていった。




