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別れ「蘇り」

「セレン、次はどこに行きたい?」


お父さまは、執務室に向かう事なく私に付き合ってくれた。クルタお兄さまとテルルお姉さまも私に付き合ってくれている。ボディガードされているようなものだった。


「・・・試合した場所に行きたいです。」


「分かった。」


4人で舞台のあった中庭に向かう途中騎士様に何度もすれ違った。私の顔を見ると試合の時に付けた右頬の傷跡に目が行くようで、その原因を理解しているがゆえ何とも言えない顔をしてた。

9歳児の女の子の顔の傷跡を見てその子の将来の障害になるであろう事は鑑みれば当然か。その傷跡の責任の一端が騎士にあると言う事実。騎士に合わせ魔法を使わないで試合をした事、騎士の誇りを守るがゆえに傷を負った事を。

お父さま、クルタ兄さま、テルル姉さまは既に無表情だった。

おそらくは怒っているんだろうが・・・ロシュフォール家は武門の家柄の為、騎士の見本とならないといけないし守らないと。だからこそ怒りを騎士にぶつける事が憚られた。


中庭に歩いて行ったら大勢の騎士様が訓練をしていた。城の騎士様の管理は武門の侯爵家のロシュフォール家とオルヴァル家でやっている。試合の後、城の騎士様とロシュフォール家の間にシコリが出来てしまい以前の様に積極的に指導する事が少なくなっていた。

訓練をしていた騎士様方は私達4人を見て静かになる。遠くの一ヶ所だけ人だかりがあり、そこから一人の騎士が肩を組んで医務室に運ばれていた。どこか怪我をしたのだろう。


「お父さま申し訳ありません。少しの間失礼致します。」


私は騎士様が運ばれて行った医務室に走って行った。医務室の中には怪我をした騎士様が6人包帯で巻かれていた。先程の怪我した騎士様がベットに寝かされ救護の人に防具を外されている。とても痛々しい位に怪我した箇所が紫色に腫れ上がり激しい痛みで顔を歪ませている。先に治療を受けた騎士様は私の顔を見て誰か気がついたようで、誰も私の存在を咎めない。

私は怪我した騎士様の体に触れ魔力を通した。怪我をし紫色に腫れ上がった所が淡い光に包まれ、瞬く間に腫れが引き淡い光が消えると共に激しい痛みで歪んだ表情か消えた。治癒が済んで完全回復した騎士様は驚いた顔をしていたが私の顔を見て・・・顔の傷痕を見ながら・・・


「ありがとうございます。」


っと、私はこの国では死人なので家族以外には何も喋らない。だから騎士様に笑顔で答えた。

他の怪我した騎士様の治癒をと思い立ち上がり後ろを振り向くと、そこにはテルル姉さまが怪我した騎士様に治癒の魔法を施していた。


「ロシュフォール家は武門の名家、怪我した騎士の治療は当家の務めだから怪我した者は私に言いなさい。」


テルルお姉さまは医務室に居た騎士に言った。そして私と2人で医務室に居た怪我した騎士様を一人ずつ治癒魔法で回復させたらお礼を言って出て行った。最後の一人の怪我を回復させテルル姉さまが・・・


「訓練に戻りなさい、怪我しないようくれぐれも注意してください。」


っと医務室から出て行くよう促した。救護の人が居たがテルル姉さまは・・・


「セレン、あなたの優しさは多くの人を救うけど自分も救わないとだめ。私はあなたの優しさであなたが壊れてしまわないか心配なの。これだけは約束して・・・」

「人の為では無く自分の為に優しくしなさい。そして少しだけズルくなりなさい。」


「・・・・はい。」


私は何も言えなかった。テルル姉さまはとても悲しそうな目をしていた。その目は私の未来をとても心配しているようで・・・

救護の人に挨拶をし、外に出ると先程治癒魔法で治した騎士や今まで訓練していた騎士が立ってこちらを見ている。私は反射的にテルル姉さまの後ろに隠れてしまった。


「先程、その騎士に言ったけど・・・ロシュフォール家は武門の名家、騎士の怪我の治療は当家の務め、怪我したら私に言いなさい!!」


テルル姉さまは声を張り上げ騎士様達に聞えるように叫んだ。正面にはローゼライト姫、その隣でお父さまとクルタ兄さま、騒ぎを聞きつけた他の侯爵家の当主や諸侯が驚いていた。ほぼ毎日城の書庫に通い医学や医術の本を読み漁り、人体についての知識を蓄えたテルル姉さまの治癒魔法はすでに国内随一だった。


「うおぉぉぉ・・・!」


騎士様達の間で歓声が上がった時、私を探していたであろうヘリオドール国王陛下とモルガナイト皇太子、それと聖騎士ファルマ様が姿を現した。騎士様達の歓声に引き寄せられたのだろう。

騎士様達やお父さま、クルタ兄さま、テルル姉さまは一斉に跪いた。私もつられて跪いてしまいそうだったがお父さまに『跪く必要は無い』と言われたのでそのまま立っている。

国王陛下とモルガナイト皇太子、聖騎士ファルマ様は私の顔を見るなり大変驚いていた。顔と言うより私の右頬に刻まれた傷跡なのだが。そして、自分達のした事を鑑みていたたまれない顔をした。


「済まなかった。余のわがままで小さい娘に傷を残してしまった事を・・・愚鈍な王を許せ。」

「愚かな王の独り言だ・・・。そうだな、モルガ?」


「はい。独り言でございます。」


騎士様達、お父さま、クルタ兄さま、テルル姉さま、諸侯の方々は私と国王陛下のやり取りを緊張した面持ちで見ている。私は国王陛下が『独り言』と言ったのは私が死んでここには居ないという意味と受け取った。


「それでは失礼するよ。」


そう言って振り返り、去ろうとした。私は言いたかった事を叫んだ。


「お待ちください!!ロシュフォール家の死んだ娘は王国に危機が訪れた時、必ず蘇りますから!!」


国王陛下とモルガナイト皇太子はこちらを見て笑顔で去って行く。その後を聖騎士のファルマ様も後について去って行く時、


「ファルマ様、あれから腕の方はいかがですか!?」


そう言うとファルマ様はこちらを振り向かなかったが腕を横に上げ左手で斬られた右腕の辺りをパンパンと叩いた。『大丈夫』と言うサインだと思う。


「ファルマ様、この国に住む人をよろしくお願いします!」


そう言うと右腕を垂直に上げ親指を立てた。そして、早歩きで国王陛下について去って行った。



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