別れ「城」
私の普段着はメイド服になった。
料理以外の仕事もやっていた。
「セレンお嬢様、そこまでしなくとも私たちがやりますから!」
「いやぁ、ここから出て行って何も出来ないっていうのは自分自身が困るので。マリサ姉ちゃんが一緒に行ってくれると嬉しいんですけどね~。」
「あ~セレンお嬢様、それは無理ですね!んじゃあ頑張ってください!!」
「マリサ姉ちゃん、方針転換早くないですか!?」
「「あはは・・・!」」
私は屋敷に居るうちはマリサ姉ちゃんの後を歩いていた。助手と言っても差し支えない感じであった。
お洗濯、窓拭き、料理、掃除その他もろもろ一通りこなした。お洗濯、窓拭きの時に水を魔法で出したので『セレンお嬢様、ズルいですよ!!』っと言われたが、楽できる所は楽すべきであってそれは『ズルい』ではなくて『効率的』と言って欲しいものだ。
執事のマルコじいちゃんにも教わった。長年ロシュフォール侯爵家に仕えていたマルコじいちゃんには対人の時のコツとか喋り方などを教わった。優しい喋り口調なのだが積み重ねた時間の重さには説得力がある。こうして教わるとかしないと分からない。普段気にしない所にプロフェッショナルな技術があると。気にさせない技術、気にさせたらプロではないと。そして時間の感覚が優れていた。家のタイムスケジュールを把握し、時間きっちりに物事を進める。やはりロシュフォール家にマルコじいちゃんが居ないと物事が回らないと思う。そしておじいちゃんなんだから次の世代の育成もして欲しいものだがその気は無い様だ。後でお父さまに提案してみよう。
「セレンちゃん、玉ねぎを切っておくれ!玉ねぎを切る時、繊維に平行に切る時と垂直に切る時・・・」
「塩加減は指で摘まんでした方が感覚が掴める・・・」
「美味しいと感じる塩分濃度は物の重さに対して1%~1.2%位で・・・」
「料理のアレンジは基本が出来て料理の味の組み立てが理解出来ていないと必ず失敗する・・・」
給仕のエシレさんは矢継ぎ早に指示と説明をしてくれた。私に残された時間が少ない事を知っていたので基本的な事を教えてくれた。だからこそ必死で話しを聞いて時間が空いた時にメモをし、寝る前にノートにその日にやった事を思い出し反芻しながら書いた。
マリサ姉ちゃん、マルコじいちゃん、エシレさん、その他の屋敷内で働く人達全てに言える事は仕事に対して真摯であり細かい。そして利己的では無く、利他的。誰かの為にしてあげたいという意識で仕事をしていた。本当に尊敬するに値する人達。私もそうなりたいと思うし人間としての目標となる人達だ。
そういった人達に支えられているロシュフォール侯爵家はとても恵まれているという事なんだろう。
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
夕食の時にお母さまはアルビオン国の学校に私が入る手続きを済ませてくれた事を話した。
「セレンちゃん、残り2週間ね。学校の手続きは終わったから何か準備出来る事があったらしておいてね。それと、お母さんに出来る事があったら言ってね。」
「はい、お母さまありがとうございます。とりあえず今は何が必要になるか分かりませんので・・・ですが何かあったらよろしくお願いします。」
お父さまは私とお母さまの話しが終わってから苦い顔をして口を開いた。
「セレン、明日お城に行くから。知っての通りお前は死んで居ない事になっているから父さんとクルタの後を付いてくるだけだからな。なにかお前の中のケジメを付けたいんだろう。」
「はい、お父さまありがとうございます。」
まさか、行ける事になるとは思ってなかった。本当はいつでも行けたんだろうけどお父さまの中では行かせたくは無かったんだろう。
「「「「「・・・・・・」」」」」
お母さま、お兄さま達、お姉さま達も神妙な顔をしていた。やはり思う所は一緒なのだろう。
--------
次の日、午前中だけ屋敷の手伝いをお休みし城に行くことにした。
「セレンはクルタ兄さまの後ろに乗って」
テルル姉さまは緑がかったワイバーンのシガラキに乗るよう促した。赤みがかったフシミと緑がかったシガラキはテルルお姉さまに引き継いだので私が指示を出してどうこうする気は無い。
試合の一件以降、乗る事の無かったワイバーンなので懐かしい気持ちになった。眼下では街の人達がテルル姉さまに手を振っていた。それに応じてテルル姉さまも手を振り返している。テルル姉さまに声援も飛んでいる。どこぞの〇ャニー〇のコンサートのファンが持ってる〇〇〇LOVEなどと書かれた団扇も登場しそうな勢いを感じる。
そしてそれが日常化している様で手を振るのも自然に出来ていた。
(テルル姉さま流石です。聖女街道一直線です!)
空での移動は早いものであっという間に城に到着した。
いつもは3人で来るのだが今日に限って4人。城の警護の騎士様が私の姿を見て走って消えて行った。おそらくは国王陛下か皇太子様に伝えにいったのだろう。
お父さまとクルタお兄さま、テルルお姉さまもすぐには帰らず今日に限ってはお父さま達と一緒に居た。
お父さまが私に言う。
「昨晩の言ったようにセレン、お前は死んだことになっている。なので王族と会って私達が跪いてもその場に立ってなさい。」
そう言って城の主要な所、試合を行った場所に向かった。
--------
警護の騎士は走った。国王陛下にご報告すべき案件が発生したから。
国王陛下の執務室のドアを叩き、聖騎士のファルマが声を掛けた。
「はい、どうぞ。」
国王陛下の執務室には国王陛下とモルガナイト皇太子と聖騎士ファルマがいた。
走って来た警護の騎士は呼吸を整え事の成り行きを話す。
「ご報告いたします!只今、ロシュフォール侯爵家からオスミウム卿、クルタ様、テルル様、それと・・・セレン様が来られました!」
「「「!?」」」
「本当か!?」
3人は大変驚き国王陛下は確認した。警護の騎士は冷汗を流しながら質問に答える。
「間違いありません!私もあの試合ですぐに敗れましたが手合わせしたので顔ははっきり覚えてます!」
「「「・・・・」」」
「とりあえずオスミウム卿を探しましょう。セレン嬢も一緒でしょうから。」
「ローゼライトにもセレン嬢が来た事を伝えておいてくれ。」
モルガナイト皇太子は国王陛下に促し、報告に来た警護の騎士にローゼライト姫を連れて来るよう命令した。そして聖騎士のファルマと3人で探しに部屋を出た。




