入学試験「聖騎士」
「参った。」
「ありがとうございました。」
(あと・・・もう少しで終わる・・・)もう周りは見えていなかった。『はやく楽になりたい』それだけを考えていた。
舞台の周りで見ていた大勢の騎士様は誰も話さない。ただ、沈黙だけが支配していた。
その沈黙の中を私と試合をする騎士様の戦う音だけが響く。
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
最後の一人になった。最後の騎士様はモルガナイト皇太子の護衛の騎士様。私の理想の3枚目の騎士様だった。後で聞いた話し、3枚目の騎士様はトラピスト王国で一番の実力者で聖騎士なのだが、それを笠に着る事の無い素晴らしい人。その聖騎士様の名前はファルマと言った。ファルマ様はニカッと笑った後話しを始めた。
「嬢ちゃん、何か隠しているだろ?それを見せてくれないかな?」
「!?」
私は驚いて動揺してお父さまを見た。その動揺がお父さまに伝わったらしく試合を中断して国王陛下に話しを始めた。
ファルマ様が話した事の次第を話しその事に対しての許しを得た。舞台の周りはザワザワし出して私を注目した。
お父さまが用意した鎧を外し身を軽くした。そしてウルズ様から拝領したそりの入った片刃のルーン文字が刻まれた刀「レーヴァティン」を、ヴェルダンディ様から頂いた収納魔法の空間から出した。
私が行った一連の動作を皆が注目して見ていた。
宝剣の様な綺麗な刀を何もない空間から取り出したように見えた全ての人が驚愕していた。
鞘から刀を抜き、ファルマ様の方を向き、俯き・・・
「・・・お待たせしました。」
「見せてくれなんて言わない方が良かったかな~。はははっ!」
とファルマ様は笑っていた。
「じゃあ、始めようか。」
そう言うとニカッとした笑顔が真顔になった。聖騎士と言われるだけあって威圧感がとても凄い。普段の笑っている時とは全然違う。
私から攻めた。左からの袈裟斬りをバックステップで躱したので真下からの逆風を放つそれも躱された。流石に強い。鎧を外したので体が軽い分、一度でも攻撃をもらえば大怪我するだろう。もらえばの話しなのだが。ファルマ様が攻撃に転じて剣を振るう。炎の様な美しい模様の剣フランベルジェを使って。軽く剣を振っているように見えるが振るう度に斬撃が飛ぶ。飛ぶ斬撃を躱し切れない。弾幕と言って良いような攻撃で体を傷つけられる。
攻撃に押され動きが止まった所をひときわ大きい飛ぶ斬撃が私を襲う!レーヴァティンで防ぐもその衝撃で体を弾かれ舞台に倒れた。
『ドサッ』
「ハグッ!!」
すぐに立ち上がり刀を構えファルマ様を見る。
「悪いね、嬢ちゃん。本当はこんな事したくないんだ。」
「気になさらないで下さい。私も勝たないと自由になれないので・・・」
(そう・・・勝たないといけない。でも、もし騎士でない私が騎士の頂点、聖騎士様に勝ってしまったら・・・騎士としての誇りはどうなるの?)
「・・・」
「・・・」
頭を左右に振って考えを止めて戦いに集中する。
「ヤーー!!!」
『ガン!!ガン!!ガン!!ガツ!!』
間合いをあけると斬撃を飛ばすので必然的に接近戦に持ち込まされる。いくら鍛えたとはいえ体重差、身長差の不利が私の体力を大きく削る。今まで戦ってきた疲労も体の動きを鈍らせる。
『ガン!!ガン!!』
力で負けないように体をぶつけ、ファルマ様が押し負けないように力を加えた瞬間、私は体を引きファルマ様の体のバランスを崩した。右側に隙が生まれたので右側から斜めに袈裟斬りを仕掛けた。無情にもレーヴァティンは空を切った。
「!?」
後ろに下がって躱され刺突を仕掛けようと右手にフランベルジェを持ち構えていた。私の行動と仕掛けは完全に読まれていた!
フランベルジェは私の頭を射抜こうと迫る
上半身だけ身を左に捩り右頬を掠め、私の後方に血が飛び散る!
そして私は刺突により伸び切っていた右腕を左下から斜めに掛け声と共に切り上げ・・・
「くっ!いやーーーー!!!」
『ザン!!』
「!?え?」
レーヴァティンは鎧ごと右腕を切り落とし、返す刀で袈裟斬りをした!
『ビュッ!』
ファルマ様の肩の鎧にレーヴァティンの刃が食い込んだ所で止まる。これ以上は切れない。
『カッ!!!』
「あっ・・・」
私は動揺した。腕を切り落とすつもりではなかった事。そして、最後の最後で騎士の誇りの思ってしまった事。
最後に生じた私の心の揺らぎをファルマ様は見逃さない。左手で私の襟首を掴み振り回し、脇腹を蹴り飛ばした!
『ドゴン!!』
「ガブッ!!」
そのまま私は舞台の外に飛ばされた。
ファルマ様は勝った事だけ確認し、顔色が青くなって右腕の傷口を押さえてうずくまっている。
「うぐっ・・・ぐ・・・」
「ダメダメダメダメダメ・・・」
蹴られた激痛走る右脇腹を押さえヨロヨロした足取りで私は舞台に戻る。
私が切り落とした右腕を掴みファルマ様の体に倒れ込む。斬り落とした右腕の傷口と右腕の傷口とを合わせた。
「お願い・・・・回復して・・・・繋がって・・・」
そう言って細菌の消滅 腕の神経、骨、血管、筋肉、皮膚が繋がり再生、回復するイメージをしアズラエル様にお願いした。
(アズラエル様、至らない所があったらカバーお願いします。)
返事は無かったが私の後ろから腕が現われ回復の手伝いをして頂いた。
(申し訳ありません。)
回復の魔法により傷口は薄く光り傷口が癒着し始めていた時・・・
ファルマ様が口を開く。
「やめなさい、嬢ちゃん。俺は嬢ちゃんを殺そうとしたんだ。この傷は俺の罰なんだ。国の民を守れなかった俺の・・・。」
「試合は終わりました・・・ファルマ様は誰も殺していません。この戦いでは誰も死にませんでした。」
「・・・・・・」
回復の魔法によって発生した薄い光りは消え・・・ファルマ様は痛みが消え指が動くのを確認して驚いていた。
「凄いな・・・。」
「治りきってない所もあるかも知れません。一週間は無理に動かさないで下さい。」
「あぁ、わかった。嬢ちゃんも傷の手当てをしてくれ。」
そう言うと部下の騎士様だろうか?他の騎士様と舞台を下りて行った。




