もう一つのお話し「ディナー」
リースさんとバランタインさんはギルドの登録を終え宿屋『フクロウ屋』に帰宅した。
「今日からここを拠点にすると良いよ、俺も拠点にしてる。ここの詳しい事はキリーちゃんに聞くといいし、風呂も食事もあるから疲れを癒すには丁度いいからさ。明日はギルドに行ってローズマリーさんにギルド活動する上での説明と注意事項を聞くといい。生活に必要な物はクロミエさんに言えば貸してもらえるから当面は大丈夫だから。」
「今日は本当にありがとう。何から何まですまない。」
「今回の事に関しての感謝の言葉も謝罪の言葉も今日で終わりでお願い。」
「お互いに疲れるだろうからよろしく。」
「わかった。」
バランタインさんとはそう言うとニコッと笑ってリースと二人で部屋の中に入っていった。
俺はカンタルさんとクロミエさんの所に行き、増えた宿泊代を払いに来た。
「カンタルさん、当面の増えた分の宿泊代を払うんでどれくらいか教えてほしい。」
「あぁ、イツキか?暫くはツケにしておいてやるよ。文無しの客からお金取れんだろ。本当は文無しは泊まれんのだが、お前が保証人なら問題ないだろう。」
「んじゃ、保証金の代わりであのネックレスを渡しておくよ。これで足りるよね?お土産で渡せなかったから丁度いいし。」
「それなら預かっとくぜ。あのネックレスならいつまでもここに居て良い位の値打ちがあるぞ。お前もお人好しだな。」
「お人好しはカンタルさんもでしょ?でも、こういうの嫌いじゃないでしょ?」
「まぁな。」
お互いに顔合わせてニヤッとした。
とりあえず、夕食の時間があるので部屋に戻って休む事にした。
「トラピスト王国の化け物のような娘ってのが居たな・・・気になるから明日行ってみるか・・・行けばすぐに判るだろう。夕食の時にでも話してみるか。」
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
夕食の時間になりリースさんとバランタインさんの部屋とシャンティさんとフェッテさんの部屋にドア越しで夕食を伝えた。2つの部屋の中からは泣き声が聞こえた、やはり辛いのだろう。親や兄弟が無事かもわからない、もしかしたら身内が生き残ってても酷い目に遭っているかもしれない。もうすでに死んでいるかもしれない。ただ、偶然にも自分が生きているのだから自分の人生を大切にほしいものだ。
「今から夕食なんでダイニングに来て下さい。」
それだけ伝えて俺はダイニングに向かった。
暫くして4人がダイニングに来たが、やはり目が泣いた後だろうから赤くなっている。カンタルさんとクロミエさんも心情を察してか何も言わない、もちろんキリーちゃんも。
4人は席に付き、もくもくと夕食を食べていたのを見て俺から口を開いた。
「この際だから言うけど、あのネックレスの出所はアンドリュー王のものだ。尊厳王と言われた性格が残忍になった原因を探るのが目的だったので接触をしたし原因の排除もした。おそらくは以前の尊厳王に戻るだろう。戦争そのものには以前も話したように興味が無いし誰が生きようが死のうがどうでもいい。ただ、お前達は縁あって生きて俺とこの場に居る。この宿屋から出て自分一人で生きて行く事も自由だしこの場に残ることも自由その後の事は各々で考えてくれ。」
俺の話しを黙って聞いてくれた。どう思ったかはわからない。『アンドリュー王に接触したならなぜ敵を取ってくれなかったのか?』などと馬鹿な事を言われないかと思ったが杞憂だったのでホッとした。逆恨みされても面倒くさいし。そして話しを続けた。
「明日、自分はトラピスト王国に行ってくる。そんなに遠くないので夕方には帰って来る予定。そしてお金を渡しておく、身の回りの物を買うと良い。町を見て回るのも良いだろうが治安が良いかと言われれば良いと言い難い。人の多い所であれば問題無いが裏路地とか人目のない所には近づかないようにしてくれ。」
そう言うと俺も夕食を食べ始めた。少し間を置いてリースさんが・・・
「イツキ様はなぜ私達にそこまでしてくれるんですか?」
「あの時ファイヤーボールで攻撃された時バランタインさんの上に覆いかぶさった仲間、部下想いのリースリングさんが気に入ったから。しかも、その後俺に命令したし。ざっくり言って『仲間を助けろ!』っと。もう、その名前では言わんぞ。あと、俺に様付けはいらん。」
4人が俺の方を見ているのでむず痒かったが気にしないように夕食を食べた。
食べ終わってから自分の部屋で地図を見て場所を確認してから寝ようとした時、ドアをノックされた。
『コン、コン、コン』
「どうぞ。」
「失礼する。」
ドアを開けて入って来たのはバランタインさんだった。なんか顔が思い悩んだような顔をしている。
「バランタインさんどうしたの?」
「実は折り入って頼みがある。無理なのは重々承知でお願いしたいのだが・・・私に剣を教えて欲しい。馬車を襲われてイツキ様・・・さんの剣を見て自分の未熟さを感じた。このままでは誰も守れない。自分の手から命が零れ落ちるのを見るのが嫌なのだ。頼む!!」
「・・・・・・」
バランタインさんはとても真剣だった。だからこそ考えた・・・(今まで考えたこと無かったが、自分が居ない時に何かあっても困る。なら誰かの鍛えておいても良いかもしれない。)
「教えるのは良いけど、条件があるからそれが出来たら良いよ。条件は鍛えるのはリースさんも一緒。相談してみてください。」
守る方も守られる方もそれなりに強ければ良い訳だし、守る必要が無いほど強ければ万々歳なのではないかと。
「わかった。」
とだけ言って部屋に戻っていった。
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朝になりダイニングに行くとシャンティさんとフェッテさんの美人双子姉妹が宿屋の朝の準備を手伝っていた。クロミエさんは子供が生まれるので、その代わりなるのならそれも『有り』なのかもしれない。
「イツキ様おはようございます。」
「おはようございます。」
「シャンティさん、フェッテさんどうしたの?」
「昨日の夜、妹と話しをしててイツキ様にお世話になりっぱなしなので自分達でやれる事からやろうとなりまして・・・」
「おはよう、カンタルさん、クロミエさん、キリーちゃん良かったね!」
「いやぁ、お金はイツキに貰ってるとは言ったんだがな、手伝わせてほしいって言ったもんだからな。」
「イっちゃん助かったよ。生まれた時どうしようか悩んでたんだよ。」
カンタルさんは困った風に言ったが顔は困っていなかった。




