もう一つのお話し「デジャヴ」
ブリタニカ公国の近辺に来たので地上に降りた。真横に落下中、うっかりしっかり寝てしまっていたが御方様に起こされた。視覚妨害透過の結界を張り忘れたのでここに来る時に誰かに見られただろうが・・・気にしないでおこう。
近隣の村に寄って見たがなんかおかしい。雰囲気がピリピリしているというか・・・
既に戦争が始まっているようだった。
自分の着ている服が一本歯下駄で甚平風の服装で腰には木刀明らかに・・・浮いていた。
明らかにアウェー感満載。目立ちまくりで村の人は訝しがっていたが・・・
「傭兵依頼を見て遠方から来ました。」
っと言うと納得してもらえた。傭兵にしてはあまりに軽装で物見遊山な感じは否めないが・・・村人は自分の事を(ちょっと参加しておこぼれを貰おうとしてるんだろう)と思っているようだ。ただ、戦時中の国なので不安感を溢れさせていた。
そして、事前にギルドで調べておいた事とすり合わせをしつつ話しをしてみた。
「尊厳王と誉れ高いアンドリュー王が戦争を起こすとは思ってませんでしたが何かあったんですか?」
「アンドリュー王が急に乱心しちまってよぅ。よくわかんねぇんだが戦争反対してた側近を切って捨てたなんて噂も流れてて、で、急に戦争だから近隣の農村は物資を徴収されて・・・」
「あんた!!よそ者に変な事言ってんじゃないよ!!」
村人の夫婦だろう。奥さんらし女性が旦那さんらしき人を諫めていた。
「あぁ、すいません。悪気はないんです。」
奥さんらしき人に謝ると強い口調で言われた。
「ここでは何も見ていない、聞いていない。いいね!!」
「わかりました。」
そういうと旦那さんらしき人を引っ張って家の中に入っていった。
「ふむぅ・・・急に乱心か・・・今回は当たりか?」
急に性格が変わるのは異世界からの干渉の可能性の捨てきれないので会ってみる事にする。会うと言っても侵入するのだが。ただ、その前にマリアナ神国の方も見ておきたい。もしかしたらこちらも何かしらの影響もあるかもしれない。それに落下して向かえばそれほど時間もかからない。
そして、人目を避けて浮かび上がり、マリアナ神国に落下して行った。
視覚妨害透過の結界を張って落下中、戦争している所が見えた。あっちこっちから火の手が上がっている。マリアナ神国の村々が焼かれているようだ。
ローリエさんは(マリアナ神国は滅ぶ)と言っていたがその様相を呈していた。
私はどちらが滅ぼうと気にしない。しかし自分が介入するのは間違っていると思う。マリアナ神国に加勢すればブリタニカ公国を滅ぼせると思う。ただ自分の力は御方様の約束の為に使うのだから戦争は当人同士でやればいい。それに人の運命を背負える程、自分が崇高な存在ではないと思うから。
暫く落下しているとマリアナ神国の城下町と城が見えてきたが・・・そこも火の手が上がっていた。すでに趨勢は決まったようだ。遠くの森の中に落下して火の手の上がるマリアナ神国の市街地を目指して歩いた。傍目から見ると死にに行くようなものだろう。目的は戦争ではなく異世界に関しての情報収集、討伐なので、死ぬつもりは毛頭ない。用が済んだらさっさと帰るつもりだ。
(帰ったらちょっと宿屋手伝ってやろう。)
(クロミエさん子供生まれたらお祝いしよう。でも動けないよなぁ。)
(カンタルさん、お金ぼったくれるかなぁ?)
(キリーちゃんへのお土産になりそうなものない。どうしよう・・・)
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暫く歩いていたら前方より豪華な馬車が走って来た。その後ろに馬に乗った柄の悪い男達が迫ってきている・・・纏わりついてるといった所か。豪華な馬車の御者は女性の騎士らしき人で手綱を握りながら剣を振るっている。明らかに馬車の方は旗色が悪い。そして、無数の傷を負って馬車の馬が力尽きた様で転倒するように倒れた。馬車は止まり目の前で女性騎士は御者の椅子から放り投げ出された。
平家物語の一節を思い出した。
(祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。奢れる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者も遂にはほろびぬ、偏ひとへに風の前の塵におなじ。)
「国が滅ぶか・・・」
気にはしないではいたがやっぱり無理だ。思う所はある。ただ・・・手出しはしない。これは自分のルールだから・・・
女性騎士は怪我をしていたようだ。綺麗な顔立ちが歪んで所々血で赤く染まっていた。
馬車の中から悲鳴が聞こえて来た。いずれも女性のようで柄が悪い男達は馬車を囲み、リーダーであろう男がニヤニヤしながら女性騎士の所に来て、たまたま近くにいた俺の方を見て睨んだが軽装の恰好を見て『ふんっ!』っと鼻息を荒くしてただけだった。弱いと思ったのだろう。
リーダーであろう男は・・・
「よく頑張ってたけど残念だったなぁ!まぁ、国が無くなっちまって行く所無いんだろ?」
「馬車の小娘はもらうがなぁ!!ひゃひゃひゃひゃ・・・」
馬車の中から小さい娘が出てきて自分で喉の所に小刀を当てていた。小さい娘は気丈にも・・・
「やめなさい!!離れなさい!!出ないと私はここで果てます!!!」
「バランタイン逃げなさい!!中の人を連れて逃げて!!私はここに残ります。この者達の目的は私だから!」
バランタインという女性騎士は顔を悔しさで歪めながら・・・
「なりません、リースリング様!!今お助けに・・・」
リーダーであろう男は馬車を取り囲んでいた男に顎を上げて指示を出したようで、指示を受けた男は槍の柄の部分でリースリングと言う名の女の子の手を殴り小刀を落とした。
「きゃあ!!」
その姿を見た女性騎士は激高して叫んだがその瞬間に殴られた。
「貴様ぁ!!ぐっ!」
「うるせぇよ。暴れると面倒だからきっちり殺してやるよ。」
リーダーらしきの男は女の子に向かって
「ふざけたこといってんじゃねぇ!!おめぇは俺の金づるなんだよ!!勝手に死なれちゃ困るんだよ!!!」
そのフレーズを聞いた時・・・体が熱くなった。
転生する前・・・前世の自分に言われた最低な言葉・・・絶望している女の子がいる・・・女の子を想う女の人がいる・・・あの時と似ている・・・
手出しをしないという自分のルール・・・守れそうにない・・・




