もう一つのお話し「ギルド」
『キィ~・・・』
『カ、カ、カ、カ・・・』
ギルドの扉が開いたら少年が一人で乾いた音を立てて入って来た
その少年は鼻緒の付いた木の板の下に手のひら位の大きさの木の板をTの字にくっつけた靴『一本歯下駄』を履き、甚平の様な服を着て、小さな布包みを背負い腰には木刀を差していた。ぱっと見てあまりにも場違いな姿の優男
しかし、ギルドの建物内にいる強屈な男達がそのラフな格好の場違いな少年を笑わないし誰も話しかけてこない。
少年は穏やかに受付の女性に話しかけた。
「ただいまー。依頼のオーク、裏に置いておいたからよろしくー。」
「イツキさん、オーク討伐お疲れ様でした。」
「ついでに薬草買い取りお願い。」
「若いのに1人で活動してますけど誰かとチームとか組まないのですか?普通はコンビネーションで苦手な所をカバーしあって依頼をこなすんですが。」
「俺って器用貧乏で大体の事一人で出来るんですよね。それに一人の方が気が楽ですし。」
「それはわかるんですが・・・怪我した時とか危険ですよ?」
「ありがとう、その時はその時に考えるよ。」
「それよりもローズマリーさん、面白い情報とかある?」
「ん~・・・そうですね。詳しくは分からないのですが・・・マリアナ神国とブリタニカ公国が戦争を始めるみたいですね、両国から傭兵依頼が来てますし。ここ、フェルミエ王国からだとかなり遠方の国なにで影響はほとんど無いのですが・・・始まったら難民とか見かけるかもしれませんね。失礼ですが今の恰好だとイツキさんを知らない人は襲ってくるかもしれないので注意した方が良いかもしれませんよ?それと、噂話なんですがトラピスト王国で化け物みたいな女の子が現れたそうです。ワイバーンを駆って見た事無い魔法を使うとか。それに一人で騎士団1つに匹敵する力があるとも・・・ギフテッドにしても眉唾物の話しですけど。」
「そうだね、格好に関しては考えておくよ。女の子はちょっと胡散臭いね~・・・じゃあまた何かあったらよろしくね。」
そう言って別のカウンターに依頼の成功報酬と薬草の買い取り代金を貰いに行く。
姿が簡単な恰好なのは単に重い物「アーマー、メイル」などを着たくないからで、攻撃が当たらなければ良いのだ。
(遠い所で戦争が始まるか・・・もしかしたら異世界からの影響かもしれない。御方様との約束もあるし行ってみるか・・・女の子の方は見に行けたら行ってみる位でいいか・・・。)
顎の所に手を当てて考えながらギルドを出た。
建物の後ろのオークを置いた所でギルドの人達が言っていた。
「どうやったら1人でオーク5体討伐して運べるんだよ・・・」
「何もない空間なら出したぞ・・・」
「イツキがやったんだろ?」
などと言っていたが、一本歯下駄の乾いた足音を聞いて静かになった。
最初にこの姿でギルド登録したら笑われてバカにされたし、ギルドで働く人達にも苦笑いされて心配されたが気にする事もなし。一人でコンビニに買い物行くような気軽さで討伐依頼などをこなしていたら誰も笑わなくなったし、沢山のパーティに勧誘されたが『笑ってバカにしてたのに?』と言ったら誰も言わなくなった。稀に力自慢の男が挑んできたがその都度、素手で相手の剣を奪って鞘ごと折り曲げた。負けて再度挑んで来られても迷惑なので痛い目を見てもらっている。
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拠点にしている宿屋『フクロウ屋』に戻った。ギルドの依頼のオークを狩った時についでに取った果物を宿屋の受付にいる女の子にお土産として渡した。満面な笑みで一度『大丈夫ですよ~。』断りながらも『折角だからどうぞ!』っと言うと『イツキさんいつもありがとうございます!』っと受け取った。こんなやり取りが心地よかったし受付の女の子との一連の流れでもあった。宿屋は家族でやっているようで、一番年下のキリーちゃんが受付をしていた。家族仲が良くて転生以前の時はこういう事が無かったので羨ましかったし自分がここの家族なんじゃないかっと錯覚させてくれた。自分にとってそれだけで嬉しかった。
「キリーちゃん、明日の朝からしばらく居なくなるから一度引き払いたい。」
明日から戦争が始まる国に行くので準備をはじめないといけない・・・とは言ってもやる事は場所の確認位なのだが。
「・・・イツキさんいつお戻りですか?」
「いつ戻るとは決まってないけど戻ってきた時に部屋空いてると嬉しいかなーっとね。」
「はい・・・かしこまりました。」
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次の日は快晴、出発の時に雨では気分が落ち込む。
「カンタルさん、クロミエさん、キリーちゃんちょっと行ってくるよ。」
宿屋の主人のカンタルさんは旅の道中で食べる弁当を作ってくれてた。
「『ちょっと行ってくる』って事はまた戻ってくるんだろ?どこに行くかは聞かねぇ。旅の途中で食べる物少し作ったから持っていけ。お代は戻って来たら払ってもらうからな!」
奥さんのクロミエさんのお腹に赤ちゃんがいて動くのも大変そうだった。
「イっちゃん、いつも果物ありがとうね。部屋はいつでも開けているから生きて帰ってくるんだよ、わかったね。」
キリーちゃんは黙っていたが涙を我慢しているようだった。
「カンタルさんお金とるんですか!?まぁ・・・帰ったら払いますけど・・・クロミエさんあんまり無理しないでよ!キリーちゃんお土産期待していてね~。」
「んじゃあちょっと行ってきます!」
手を上げて笑顔でお見送りしてもらったがキリーちゃんが泣き出してしまった。
だからといって旅を止める訳じゃないのだけれども・・・
「早く帰って来るから待っててね・・・」
キリーちゃんの頭を撫でながら約束し、宿屋を後にした。




