愛する家族「噂が独り歩き」
次の日の朝、前日と同じ様にフシミとシガラキの2体のワイバーンで送り迎えをした。
乗っている時もずっと2人はニヤニヤしている。早く城に行きたいって顔だった、まぁ、すぐについてしまう訳だが・・・
お父さまとクルタ兄さまにスカートの端と端を摘み、足を少し曲げて・・・
「お父さま、お兄さまお仕事頑張って下さいませ。帰りもお迎えに上がりますね。」
お父さまとクルタお兄さまを見送ったあとすぐ屋敷に戻る。
今度は学校組を送らないと・・・
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テルル姉さまは私と一緒にフシミの上に乗っている。シガラキにはハスト兄さまとラウラ姉さまが乗っている。ハスト兄さまとラウラ姉さまはどっちが前に乗るかで揉めていたが行きでハスト兄さまが前、帰りでラウラ姉さまが前で落ち着いた。
テルル姉さまは高い所が少々苦手なようなのでゆっくり、揺れないようにフシミに飛んでもらった。
私の背中にいるテルル姉さまは私の身体を落ちないように強く抱きしめる。飛んでる時間は短いのだが短いから言いたい事がサクッと言えるようだ。
「セレン、ありがとうね。憂鬱だった学校が楽しくなりそうだわ。」
「いえ、私はテルル姉さまが嬉しいと私も嬉しいです。」
「学校で何があるかは存じませんが、自分から動かない方が良いと思います。お姉さまが自ら動くと要らぬ恨みを買うかもしれません。自然の成り行きを見つつ起こった出来事に対処だけすれば心穏やかに良い結果だけ付いてきますから。お姉さまは今年で卒業ですし最後の最高の学校生活にして下さいませ。」
「・・・・」
「お父さまも言っていたけど・・・あなた、いったい何者なの?」
「私は大好きなテルル姉さまの妹です。それ以上でもそれ以下でもありませんから。」
「学校が見えてきました。ゆっくり降りますね。」
「セレン、ありがとね。」
テルル姉さまの腕に力が少し強く加わった。顔を伏せて居たけど笑顔だと良いな。
私は魔力を通してフシミにお願いした。
(フシミお願い、ゆっくり降りて。)
お願いを聞いてくれたようでフワッと降りた。昨日の件もあったものでフシミとシガラキを中心に一定の距離を開けて円が出来たが、降りたらお姉さま達とお兄さまのクラスメイトが近寄ってきたので挨拶をしてみた。やっぱり挨拶は大事だもんね!
スカートの端と端を摘み、足を少し曲げて満面の作り笑顔で・・・
「おはようございます。ロシュフォール家末っ子のセレンと申します。」
「テルル姉さま、ハスト兄さま、ラウラ姉さまいってらっしゃいませ。帰りもお迎えに上がりますね。」
「セレン、帰りもお願いね。」
さすがテルル姉さまは空気読んでます。
「はい!お姉さま!いってらっしゃいませ!」
その後はお姉さま達とお兄さまが建物に入って見えなくなるまで笑顔で大きく手を振ってみた。
他の生徒の方々はこのやり取りの一部始終(昨日から見ている人もいるだろう)を見ている訳だから私の印象はブラコンシスコンに見えただろう。それは私の狙いではあるが客観的に見てお姉さまやお兄さまに危害を加えたら私がキレるかもしれない。また私を怒らせてもなだめられるのはお姉さまとお兄さましか居ないっと思われれば危害を加える勇者は居ないだろうっと。事実、生徒の方々のひそひそ話しで・・・
「8歳で可愛いのに中身は化け物らしいぞ。」
「常に稲妻を纏っているらしいぞ。」
「森でワイバーンを駆ってオークを虐殺して遊んでいるらしいぞ!」
などと根も葉も無い噂が独り歩きしだしているようだ。全部聞えてますから!
「ロシュフォールの所にちょっかい掛けると滅ぶらしいから気を付けた方が良いらしいぞ。」
「あの化け物を使役しているテルル様ってすごいな・・・」
っというひそひそ話も聞こえてきた。その噂が独り歩きは望んでいた事ではある。
化け物って言われるのは些か心外ではあり、少しへこむ。
その後は屋敷に戻りフシミとシガラキを森に行かせてからいつものようにスクルド様の特訓。
これが私のルーチンワークになりそうな予感。
特訓が終わると庭先に走った。フシミとシガラキとマッタリする為では無い。一つ試したい事があるからなのだが・・・一呼吸置いて屋敷全体を覆うほどの探知探索の結界魔法を張る。意識して屋敷に来る者を観察して見ようと思う。お母さまが対応するのだけれど・・・やはり、お母さまが良く思っていない者やロシュフォール家に対して敵対的な感情を持っている者もいる訳でそれらは探知出来たりする。お母さまとお客様は大人ですからそれらの感情を顔に出さない。そして来客が増えたのは全部私のせいなのでそのようなお客様に力の一端を見せて心を折ってみよう思っていた。
お客様がこちらを見た瞬間に噴水の水を一瞬で凍らせて氷のツリーを作ってみたり、大きな火の玉でお手玉してみたり、フシミとシガラキで凝視してみたり・・・
この世界では魔法使い自体が少ないようであり攻撃魔法を使えたら即、爵位のある家に召し抱えられる。ただ、魔法使いでもピンキリで威力が無くても攻撃魔法を使えたら召し抱えられた者が化けるかもしれないっという事で押さえておく事もよくある。先行投資というやつなんだろう。おそらくは私は王族に押さえられるような気がしないでもない、気乗りしないが。
小さい体の可愛らしい少女がお庭で遊び感覚で桁外れの事をしていたものだから、敵対する意思も削がれるだろう。お母さまは見て見ぬ振りしているし、こちらを見ている時は手の甲で口を隠して笑って何か言ってる。『おほほほ・・!あれはあの子のお遊びですわ!』などと言っているのだろう。
お母さまと仲の良いお客様にはそういった事はしないでフシミとシガラキと共にマッタリしながら大人しくしている。そのうちにお母さまは好き嫌い関係無くお客様が来ると楽しそうにしていた。




