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もう一つのお話し「ディベート」

叫び声が上がりその場に居た衛兵達が『白魔』とトーマスさんを見る!『白魔』はトーマスさんに視線を合わせ右手首を握っていた。動かないと思って触ろうとした物に掴まれたので叫んだのだろう。ただ、掴まれた物が氷の魔力で作られた物だから不味い状況ではある。


「あぐぐぐ・・・。」


『白魔』はトーマスさんを急速に冷やす。衛兵達は『白魔』を取り囲みその手に持つ剣で刺す。しかし剣は貫通するだけで『白魔』は掴んだ手を離すことが無かった。それどころか刺した剣自体も急速に冷やされ霜が付き白くなってしまう。衛兵達は皮膚が張り付く程に冷却された剣を握る事が出来ず手放してしまった。その様子を見たトーマスさんは恐怖で引きつった顔をして俺を名前を叫ぶ。


「い、イツキ君!!」


その様子を見ていた俺は苦笑しつつ返事に答え『白魔』に声を掛けた。


「あー、はい。トーマスさん駄目ですよ。不用意に触ろうとするから・・・。『白魔』ありがとう。」


俺が『白魔』に声を掛けると俺の方を振り向き、無表情の顔が微笑を作る。そして白魔の体が崩れ始め,

その場に数本の剣が埋まった小さい雪の山が出来る。トーマスさんは拘束が解けてその場でへたり込むと今まで『白魔』に握られていた右手首を左手で握る。苦悶の表情を浮かべているので恐らく凍傷を負ってしまっているだろう。衛兵達はトーマスさんの周りに集まるがどうすることも出来ずただただ動揺していた。俺はトーマスさんに歩み寄り衛兵達の間を割って入り、膝を付いてトーマスさんに話し掛ける。


「トーマスさん大丈夫ですか?ちょっと手を見せて下さい。」


トーマスさんは俺を見つつ謝る。


「すまん。」


差し出された右手は冷え切ってピクリとも動かせないでいた。俺は冷え切ったトーマスさんの右手を左手で取り、右手でトーマスさんの肩を掴み魔力を流す。集中して冷え切った右腕の状態を確かめる。


「・・・トーマスさん、良かったですね。軽い凍傷です、酷い凍傷で腕全体が壊死してたら治癒も難しかったと思いますよ。」


そう言いつつ腕の治癒を施す。右腕は淡く光り治癒が進むにつれ光は小さくなり消える。その様子を衛兵達全員が固唾を飲んで見ていた。


「大丈夫ですか?」


俺はトーマスさんに腕の状態を確認のつもりで聞いてみる。一応、全回復しているはずではあるが・・・。


「あ・・・あぁ、痛みが消えた。大丈夫だと思う。」


その言葉を聞いた衛兵達はホッとした顔をした後、俺を睨みつける。そして小さい雪の山に埋もれている冷えた剣を手袋をして拾いその剣先を俺に向けた。俺はやれやれって顔をしてその剣先を見ているとトーマスさんが割って入る。


「やめないか、お前達!この方は宰相様が無理にお願いして来て頂いた方だ!剣を納めろ!」


そう言うと渋々と言った表情で剣を納めた。しかし俺は睨まれている事には変わりないようで・・・。


「すまんな、イツキ君。部屋は城の侍女に用意させるのでその間は私の部屋で待っていてくれ。」


「あ、はい。構いません。」


「よし、じゃあ行こう。」


トーマスさんの先導でその場所を後にし謁見した部屋を出る。

歩きながら今し方治療した腕をもう片方に手で握り、手を閉じたり開いたりを繰り返すトーマスさん。


「・・・・・。」


何か考え事をしている様で・・・


「トーマスさん大丈夫ですか?違和感はあるでしょうけどその内に消えますから。」


「あ、いや・・・そういう事じゃないんだがな。」


「?」


俺は不思議に思いながらも気にする事無くトーマスさんの執務室に向かった。


--------


『ガチャ!』


トーマスさんは執務室のドアを開け俺もその後に続いて入る。中には既にジェームスさんが戻って来ていた様で・・・ジェームスさんは謁見時、別行動をしていたようだ。


「ジェームス、何か動きはあったか?」


トーマスさんはジェームスさんに何らかの指示を出していたのだろうか?


「城から数人衛兵と馬車が出て行きましたが・・・目的は不明です。」


「そうか・・・イツキ君は城に泊る事になったから診療所に行って事の次第を伝えて来てくれないか?」


「分かりました。ではすぐに向かいます。」


「悪いな。」


「いえ。イツキさんごゆっくり。」


ジェームスさんは俺に一礼すると執務室から出て行った。トーマスさんはジェームスを見送った後俺に視線を合わせて・・・


「イツキ君、お疲れ様。謁見は緊張したかな?」


「緊張はしなかったですが・・・」


「ですが?」


「・・・・・。」


トーマスさんとの会話で言いよどんでいるとトーマスさんは真剣な顔をして俺に言ってくる。


「イツキ君、この城がおかしいを感じているんだな?他言はしない、だから思った事感じた子を率直に言って欲しい。」


トーマスさんの真剣な顔を見つつ・・・

(オッカムやカレンさんの手前、裏切る真似はしないだろう。)

そう思い口を開く。


「・・・・・。分かりました、俺の見立てでは宰相と皇后様に違和感がありますね。魔力の質が違うんですよ。見た感じでは分からないでしょうがあの二人は魔族では無いと思います。フェルマー国王陛下はあの二人の魔力に当てられて傀儡の様になっているようです。トーマスさんのおかしいと感じるのは恐らくこれだと思いますよ。」


「・・・・・やはりそうか。魔族は魔族じゃない者に支配されているというのか?」


「俺の見立てですが・・・間違いないでしょう。」


「では、どうすれば良いと思うかね?」


「単純な話し、あの二人を排除すれば良いんですよね。フェルマー国王陛下はあの二人が居なくなれば正気に戻るでしょうし。」


「国の運営とはそんな簡単に済む話では無いのは知ってるだろう。」


「そりゃあ分かりますよ。排除しようとすれば混乱も起きるでしょうし・・・ですが、このままだと魔族は滅ぶんじゃないでしょうか?」


「滅ぶとは大げさじゃないか!?」


冷静だったトーマスさんの声は次第に怒気を孕む。しかし俺は努めて冷静に自分の分析した事を話す。


「大げさどころか俺がこの国に来てから観察をしていましたけど魔族の人口も減り続けているんでしょ?そして打つ手が無い様だし、それにこの国は外との交流も無いですよね?」


「交流が無いのと滅ぶのは関係無いじゃないか?」


「えぇ、関係ないでしょうけどあの二人には良い環境ですよね。魔族には外と比較が出来ないのですから。しかも国から出て行った魔族の帰還を許して無いんですから。何が起ころうとも比較できるものが無い、もしくは対処できる知識も無いんですから民衆は『そういうものだ。』と思うんです。あぁ・・・祈って水を飲ませてましたね。外の世界の医術があれば助かる命もあるでしょうけど、祈祷の水を頼っている時点でお察しですよ。」


「・・・・・・。そんな事は言われなくても分かっているんだ。」


トーマスさんは俺の言葉に眉間に皺を寄せ苦い顔をしている。そして俺はダメ押しに一言をトーマスさんに放つ。



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