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もう一つのお話し「スノー」

魔族領の城の禍々しい魔力は宰相と王妃から発せられると推測出来た。今まで空間の割れ目から漏れ出していた異世界からの魔力のもっと濃い魔力。ただ、今回の場合はその魔力に当てられて見るからにおかしくなった人間っという訳では無いようだ。今まで俺が対応してきたのとはまったく違う初めての状況。俺の真横と背後の入って来た扉にはガタイの良いたくましい衛兵が数人が俺の一挙手一投足を見張っていた。そして宰相の後ろの位置に立ってトーマスさんがこちらを見ている。トーマスさんは宰相の直属、もしくは部下と言った感じなんだろう。


「顔を上げるが良い。話しは聞いておるぞ、この国にはなぜ参った?」


少し間を置いてビガロ宰相が口火を切って問い掛けた。その問いに・・・


「お聞きでしょうが私は他国で祈祷師を営んでおります。ですが自分の慢心と力不足を痛感し長らく修行の旅をしておりました。私ごとき未熟者に謁見の機会を与えて下さり誉れの極み、国に戻った時の自慢に出来ましょう。こちらは私の故郷の地酒、ご納め下さい。」


俺はそう言いつつ空間収納から事前に用意していた酒を出す。突然現れた酒瓶数本に衛兵は驚き目を見開いていたが一言も発する事はなかった。俺の正面にいるフェルマー国王も衛兵と同じ反応ではあったがエリザ皇后とビガロ宰相はそう言った反応は無い。


「それは何処から出て来たんだ!?」


フェルマー国王は驚き椅子に座りつつ身を乗り出し問い掛ける。


「これは私の持つ祈祷術の一つ。まぁ・・・祈祷術はこれだけではないのですが・・・・。」


俺の祈禱術という言葉にビガロ宰相は右手を自分の顎に手を当て反応する。


「ほぉ・・・これだけでは無いとな?たしか、そなたの祈祷術は治療も出来たな?そのほかにも何か出来るのか?この私も祈祷師なのは知ってるな?他国の祈祷術というのを一つ見せてくれないかね?」


エリザ皇后は綺麗な顔なのだが表情一つ変えず一言も発する事も無く俺をジッと見ている。それはまるで蛇が獲物を見ているような・・・俺の事を観察しているようだ。恐らくは俺の敵である事は間違いないだろう。まぁ・・・仕方ないので今は宰相に従って俺の持つ力の一端を披露する。

俺は一言断りを入れ、スッと立ち上がると空間収納から数珠を取り出す。そして一つ大きく息を吐く。瞳を閉じ精神集中し魔力を流す。


「無礼失礼・・・ふぅーーー・・・・集え、雪鬼精『白魔』。」


気温がガクンと下がり俺の前の空間に濃い白い霧が立ちこめそれがゆっくり渦巻く。濃い霧は次第に早く渦巻き徐々に霧が小さくなる。そして濃縮された霧は次第に人型に固まる。人型は髪の長いスラっとした若い女性、だが着ている服や靴、肌、髪、瞳その全てが真っ白。

その真っ白な女性は無表情で焦点が合う事無く3人を向いて見つめていた。そして暫くして今まで口を出さなかったエリザ皇后が聞いてくる。


「それは何なのですか?」


エリザ皇后は驚く事も怯える事も無く淡々と観察しているよう・・・それはビガロ宰相も同じで動揺する事も無く、その事がこの二人の異常性を物語っている。フェルマー国王と衛兵はこの白い女性『白魔』を見て驚き絶句している。それがこの魔族を含め、この世界の人間の普通の反応のはずなのだが。やっぱりこの魔族の国はこの二人だけが異常という事か。


(皇后と宰相がおかしい。もしかしたら異世界の者か?だとしたら異世界の者は他にもいるのか?)


などと考えているがこの場でどうこう出来る訳でも無い。そしてとりあえず質問に答える。


「これは私の祈祷術で雪で作り上げた人型の人形でございます。お目汚し失礼致しました。」


そして俺が言った後、暫く沈黙が支配されたがこの沈黙を破ったのがビガロ宰相だった。


「ふむ・・・凄いな。どうだ、そなたといろいろ話がしたいのだが?国王陛下、この者を泊めてよろしいですかな?」


「あ・・・あぁ、構わない。好きにすると良い。」


ビガロ宰相はフェルマー国王に断りをいれ、俺に口を開く。


「イツキと言ったな。今晩はここに泊って行きなさい。今晩、そなたの国の祈祷と言うものをぜひ聞きたい。良いかな?」


そう言うと、ビガロ宰相はエリザ皇后をチラッと見てから俺の横に控えていた衛兵に指示を出す。


「部屋の用意を。この者に失礼の無いように。」


俺の同意を得た訳では無いのだが・・・強引に泊って行く事になった。まぁ・・・堂々とこの城自体を調査出来るのだから願ったりと言った所か。そしてビガロ宰相は後ろに控えて立って居たトーマスさんにボソボソっと何か話し掛けている。


「それではゆっくりしていきなさい。国王陛下、行きましょう。」


「・・・・・。」


そう俺に話しかけてからフェルマー国王陛下に退席を促す。フェルマー国王陛下は玉座から立ち上がり何も言わず退室した。ビガロ宰相とエリザ皇后も退席して居なくなった後、残っていたトーマスさんは俺の元に来た。そしてその表情は渋いものだった。


「とりあえずここから出よう。部屋の用意が整ったら執務室に呼びに来てくれ。」


俺に一言を掛けてから衛兵の方に向き直り指示を出す。


「しかし・・・凄いな。」


トーマスさんは振り向き今まで微動だにしなかった俺が出した『白魔』の後ろ姿をまじまじと眺める。そして『白魔』の前に回り込み顔を近づけて細部まで見ていた。そして右手で触れようとすると・・・


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

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