もう一つのお話し「オーディエンス(謁見)」
『トントントン!』
「ジェームスです。イツキさんお連れしました。」
ジェームスさんに城の中を案内され一つの部屋のドアをノックする。すると部屋の中から聞いた事のある声が聞こえてきた。
「どうぞ入りたまえ。」
ジェームスさんが先に入り俺は後ろに付いて部屋に入った。
「失礼します。」
一言添えて中に入るとトーマスさんは今まで仕事をしていた様で正面の机には書類の束か積んである。その書類の束の奥の隙間から俺を確認するとスッと立ち上がる。
「やぁ、無理言って悪かったね。これから謁見なんだが大丈夫かな?」
「俺はいつでも大丈夫ですよ。」
「ふむ・・・じゃあ準備出来てるか見て来てもらうからソファに座って待ってくれ。」
そう言うと俺の後ろに控えていたジェームスさんに視線を送り指示を出す。
「ジェームス、ちょっと見て来てくれ、宰相の様子を。」
「はい、分かりました。その前にご報告が・・・」
ジェームスさんがそう言うとトーマスさんに耳打ちをする。するとトーマスさんは驚きの表情を浮かべ2人でボソボソっと会話を交わし神妙な顔つきになる。そしてトーマスさんは二言三言何らかの指示を出したようでジェームスさんは頷き部屋を出て行った。
「他国の女性が2人診療所に居るとジェームスが言ってたんだが・・・・・」
「はい、俺の家族ですよ。手伝いで来てもらいました。」
「どういった方法で来たが分からんが・・・身の安全は保障出来ないぞ?イツキ君だけだったらいかようにも出来るだろうが・・・」
「大丈夫ですよ、長居はしないですから。それに2人は誰よりも強いですよ。」
「しかし・・・だとしてもここは彼女達から見たら異国の地で完全なアウェイではないか?」
「まぁ、そうですね。」
「・・・・・まぁ、来てしまったものはしょうがない。ただ、報告を受けてしまった以上この事を上に報告しないといけない。私もこの事は極力穏便に済むよう声はかけるが・・・」
「よろしくお願いします。」
トーマスさんは真剣な表情で言う。とりあえず角が立たないようお願いした。下手に『大丈夫』と言って意固地になって良い事など無いのだし。そして俺は城に入ってから感じた事を聞く。
「ところで、城に来て感じた事なんですけど・・・なんか変なんですよね。」
「・・・・・。」
俺からの質問にトーマスさんの顔が『ピクッ』と動く。黙っているがその表情は何かを隠しているようで・・・俺はトーマスさんの顔をジッと見つめた。
『はぁ・・・・・。』
「イツキ君もわかるのか?っと言うよりここの異常さを感じたのか?」
トーマスさんは深くため息をし俺に問い掛けた。
「えぇまぁ。」
「・・・・・。イツキ君はどういう風に感じた?」
「う~ん・・・何と言うか・・・雰囲気が違うと言うか・・・禍々しい魔力を感じますね。」
今まで俺が居た行っていた異世界からの侵略の対応、その時に感じた異世界からの漏れ出る微かな魔力と同じものを今回ははっきりを感じる。今までこういった事が無かったので城自体に探知探索の結界魔法を掛けていたが・・・
『トントントン!ガチャッ!!』
部屋の扉が開きジェームスさんが戻って来た。
「戻りました。」
「どうだった?」
「国王陛下と皇后陛下も会いたいそうです。なので玉座の間で謁見して頂く事になります。」
「ふむ・・・。イツキ君大丈夫か?」
「俺はいつでも大丈夫ですよ。」
「ジェームス、もう行けるのか?」
「はい。部屋の外に衛兵も待たせています。」
トーマスさんはすぐに謁見出来る事が分かると自分の膝をポンッっと叩き俺に言う。
「よし、じゃあ行くか。イツキ君、くれぐれも気を付けてくれ。」
そして部屋をトーマスさんとジェームスさんが先に出た。その後ろを俺が歩き衛兵は最後について来る。
先に歩いていたトーマスさんは・・・
「本当はビガロ宰相様の執務室で会ってもらうはずだったんだが話し大きくなってしまったな・・・さぁ、ここだ。」
トーマスさんに案内された場所は目の前に大きな扉があり、その扉の両脇に衛兵が立っている。いかにも玉座があり王様と謁見する部屋っと言った感じだった。
「開けてくれ。」
トーマスさんが両脇に控えていた衛兵に扉を開けるよう命令すると取っ手を掴み扉を開けてくれた。
すると開け放たれた扉の奥から強く禍々しい魔力が流れてくるのを感じる。トーマスさんは何か感じ取っているようで顔が少し歪む。そして意を決して・・・
「イツキ君、行こう。」
そう言って中に入った。俺も後を付いて入る。その奥には大きな2つ玉座があり国王様と王妃様、その横には1人の中年の男が立っていた。そして歩く先に居る3人に近づくと禍々しい魔力が強まる。
トーマスさんは入って俺に進むように促し、俺も警戒しつつも3人の前に立つ。
「・・・・・。」
3人を見つつ様子を伺うと・・・・
(魔力の元凶は2人か・・・国王は憔悴しているようだな・・・。)
「フェルマー国王陛下、エリザ皇后陛下にご挨拶申し上げます。」
今までこういった謁見する事も機会もなかったので多少は緊張しつつ、跪き当たり無礼にならないだろう当たり障りの無い挨拶をした。




