もう一つのお話し「フル」
「じゃあ、始めようか。とりあえず火球を浮かべるから消して見せてよ。」
「えぇ、良いですよ。」
バランタインさんは右手に持った扇を開きパサッっと扇ぐと火球はフッと消える。そして左手に持ったもう一本の扇を畳んだままその消えた火球に向ける。するとバランタインさんに向かって風が起こる。恐らくはバランタインさんが吸い取ったのだろう。
「バランタインさん、見事です。」
「最初はイツキさんのように呼吸でしようとしたんだけどなかなか難しくて・・・で、先生に相談したらアドバイスを頂いてこの形に落ち着きました。」
「魔力を取り込んだ後の具合いはどうです?体に変調が起こったりしてません?」
「ん〜・・・気分的に充実した感じになるかな。月並みな言い方だとやる気が漲るって感じ?」
「自分の本来持っている魔力にプラスさせる訳ですからそうなります。もう少し見させてもらって良いです?」
「いくらでもお見しますわ。」
「少しやり方をかえてみますね。実際の戦闘と同じ様に火球をバランタインさんに向かって撃ってみます、大丈夫?」
「えぇ、余裕ですよ。」
「へぇ、じゃあ行くよ。」
『ドン!』
俺はバランタインさんに向かって手を構え火球を撃った。もしもの事をがあったらを考え小さい火球。
「!?」
バランタインさんに迫る火球は扇の一振りでフッと消える。消えた瞬間に俺の魔力はバランタインさんに取り込まれてしまっただろう。そしていつにも増してニコニコしているのは努力が実を結んだからだろう。
「次、大きいの1つ!」
俺はバランタインさんが魔力を奪う魔法を会得した事を実感し、矢継ぎ早で火球をぶつけてみた。
「次2つ!・・・4つ!・・・8つ!」
矢継ぎ早で出す火球は容易く消されその魔力もバランタインさんに取り込まれを繰り返す。火球の数も増えると扇の動きも大きくなった。
「16個!」
(少し厳しいか?)
っと思ったがバランタインさんは左手に持った扇をバッ!と開きバックステップをしながら両手で扇ぐ!
16個の火球はフッと消えた。そして両手に持つ開いた扇を閉じて取り込んだ。
「おおっ!!」
見事の処理し切ったバランタインさんに俺は感嘆の声を上げ
る。
「凄いよ!バランタインさん!」
そう言うと満面の笑みを浮かべ答える。
「えぇ、出来ると言うものは嬉しいものですね。ましてやイツキさんにそう言って貰えると自信になりますわ。」
「最後に水球で撃ってみるから対処してみて。」
水球を作り次々飛ばすとバランタインさんは右手の扇を開き構え扇ぐ!そして次々と水球は魔力を奪われ推進力を失い落下して水溜まりを作る!
そして、何個目か分からなくなった時にバランタインさんは突然火球を作り、水球を相殺する!
『バシューーー!!』
俺の目の前に大きな水蒸気が立ちこめすぐに霧散する。
バランタインさんは気が付いたようだった、このエナジードレインと言う魔法の弱点を。俺は攻撃を止め話しかけた。
「どうしたの、バランタインさん?」
「・・・・分かりません。ただ、これ以上はこの魔法を使えない様な気がします。なんと言ったら良いか分からないですが・・・・。」
バランタインさんの顔は青ざめている。今まで体験した事の無い感覚に襲われているからなんだろう。
「お腹いっぱい?」
俺はニヤニヤしながら問いかけるとハッとした様な顔をし・・・
「そう、それです!!体が急に受け付けなくなった感じです!」
「それがバランタインさんの保持出来る魔力の上限です。先生の言うエナジードレインの魔法はイーター『食べる』であって・・・イレイサー『消去』ではないんですよ。」
「・・・・・。」
「ある程度なら増えた魔力も発散されて自己消化してしまいますが、今みたいに貯め過ぎた場合は他の魔法で消化した方が早いです。そして戦闘中である場合この魔法を永続的に使う時は、他の魔法を併用し貯めた魔力を消化する必要があります。」
「・・・・・。受け付けない状態で無理矢理取り込んだらどうなるの?」
「俺もやった事無いから分からないです。ただ、良くない事は分かるでしょ?自分の許容出来ないという事は扱い切れないと言う事ですから。でも、まぁ・・・自分は相手の魔法を無力化しつつ自分の魔法を行使出来る訳で、無力化された相手は訳が分からないんじゃないですか?」
「要は魔法1つに頼らなければいう訳ね。」
「ん〜・・・1つに依存し過ぎない、メインを1つ置いてサブを何種類かでバランスを取ると良いですね。さて・・・・体が落ち着くまで俺に向かって魔法撃ってみて?」
「なるほど・・・全部覚える必要は無いのね・・・。じゃあいきます。」
バランタインさんは俺に閉じた扇を向ける。
『ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!・・・・』
火球を連続で撃ち出し、俺は息を吐き、吸うの繰り返しで火球を取り込んだ。返してもらったと言った方が正しいか?
そして火球の攻撃が止み、体が落ち着いたであろうバランタインさんが言う。
「嫉妬してしまいますね。ただ、立っているだけなんですもの・・・。」




