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もう一つのお話し「メモリー」

俺は自分に対しての認識の甘さ、起こってしまった事の重大さを噛みしめリースさんの手を取りファウスト先生の元に向かった。


「ミカエル様、御方様の空間にお願いします。」


そうお願いすると部屋が一瞬で暗転し先生のいつもいる空間に切り替わる。先生はいつも通り空間に魔法陣らしきものを映し出し何か作業をしていた。そしていつもと違うのはその先生から少し離れた場所に小さい建物が立っていた。

俺はいつも通り作業している先生に話し掛ける。


「先生こんにちは。聞きたいことがありましてお伺いしました。」


先生は動きがピタッと一瞬止まった後、映し出された魔法陣らしきものが消えたと同時にこちらを振り向いた。


「やぁイツキ君いらっしゃい。後ろに見ない顔の方もいるね。こんにちは、魔族の方。」


「!!!!!」


俺はリースさんの事で頭がいっぱいになっていたので完全にリーガルの事を失念していた。確かにリーガルは俺の後ろにずっと居た。俺は今までに無い位に動揺しつつもとりあえずリーガルに話す。


「え・・・あ~・・・詳しくは後で話すから・・・暫く時間を下さい。」


「おっ・・・おう・・・わかった・・・。」


リーガルもリーガルで事態が吞み込めないようで顔に動揺の色が濃く出ていた。宿屋の部屋から別の世界の空間に連れて来られたのだから当然か・・・

俺はリースさんの客体の手を繋ぎ先生の元に歩み寄り尋ねた。


「先生、リースさんの主体に会いに来ました。どちらにいますか?」


すると先生は振り返り小さい建物を指差す。


「リースさんの主体はあそこにいますよ。先程まで剣術の訓練をしてまし・・・」


俺は先生の話しが終わる前にその横を通り、客体のリースさんの手を引き主体に居る建物に向かう、リーガルをその場に残し。その建物に近づくと既に来る事が分かっていたかのように主体のリースさんが出て来た。客体のリースさんが主体のリースさんと並ぶ。二人は本当にそっくりで寸分違わず。鏡の中から出て来たと言われても信じてしまうだろう。そして・・・


「「あはは・・・イツキさんごめんなさい・・・やっちゃった。」」


二人のリースさんは同時に同じ事を話す。苦笑いした時のタイミングも全てが同時で。


「リースさんどうして・・・俺、言ったじゃないか・・・それはやめた方が良いって・・・どうしてだよ・・・なんでだよ・・・。」


俺の目の前が歪みだした。目に涙が溢れて止まらない。主体と客体のリースさんの手を両手で握り話す。


「「・・・・・。」」


「リースさん・・・それやったら・・・魂が消えちゃうんだよ・・・ううぅぅぅ・・・」


「「イツキさん・・・私・・・もう王女じゃないんだよ・・・バランタインさんやフェッテさんやシャンティさんが私に付いて来たのに何もしてあげれないんだよ・・・今の私じゃ慕ってくれる人達を守れない!!私・・・全て失って最後に残ったあの人達まで失いたくない!!守れるなら魂なんていらない!!うわあぁぁぁぁ・・・・」」


リースさんは募る想いを号泣と共に吐露した。普段おちゃらけて明るいリースさん・・・みんなのムードメーカーのリースさん・・・それでも戦争のトラウマ、失った最愛の人達への想いはリースさんに暗い影を落としていた。表面のみを見ててリースさんの想いに気が付けなかった俺は正真正銘の大馬鹿だ。

俺は主体と客体のリースさんを両手で抱きしめ謝った。


「リースリングさん・・・・ごめん・・ごめんなさい・・・お、俺・・・気が付いてあげれなかった・・・ううぅぅぅぅぅ・・・」


「「イツキさん・・・ごめんなさい・・・うわぁぁぁぁ・・・ヒック・・・ふうぅぅぅ・・・」」


俺とリースさん抱きしめながら顔をグシャグシャにして泣いた。そして俺はある決意する。『リースリングさんの魂を守る。』これは俺の中の決定事項となった。

暫くして気持ちが落ち着いてからリースさんに言う。


「俺が魂を守るから・・・死んでも守るから。」


そう言うとリースさんはクスッと笑いツッコんだ。


「「死んだらどうやって守るっていうんですか!」」


「そうだな。死なないで守るよ。」


・・・・


・・・・・・


・・・・・・・・


俺は主体と客体のリースさんと共に先生の元に集まる、先生に説明を聞く為。先生はホムンクルスで御方様のサポートの為の存在。俺の居る世界だけじゃない御方様が作った複数の世界、その全ての世界の情報のアーカイブの管理者であって端末。先生の指導はそのアーカイブの中の記録からその人に合った最適解を引き出して実行している。基本的に人の感情や感じ取る心境、機微と言うものは無い。先生が人と接する時もそのアーカイブからの情報に基づいて話す。微笑みながら話すのが最適解だったら微笑みながら話すといった具合だ。それは最初に御方様から教わった事だった。だからリースさんにした事についてもとやかく言ってもしょうがない、端末だから。それにリースさんが望んでしてしまった事だから。


「まず、先日話したように客体が傷ついても主体をベースに現状回復されます。客体のリースさん、右腕を横に上げて下さい。」


客体のリースさんは先生に言われた通りに右腕を真横に上げると先生は空間収納から剣を一振りだし軽く振るった。


『ザンッ!』

「おい!!!」


リーガルは先生に声を荒らげた。状況が呑み込めないだろうしそうなってしまうのは仕方がない。


『ドサッ!』


客体のリースさんの右腕は切り落とされ真下に落下し転がる。先生はその腕を拾い上げ腕の切断面を合わせる。すると切断面は磁石のように付き、瞬く間に繋がった。リーガルは驚きで声を発する事も出来ず口をポカーン開けている。


「このように客体が傷ついても瞬時に再生されます。主体のリースさんは傷つかないよう当方で預かります。これはリースさんから依頼されました。」


「そうですか。先生、よろしくお願いします。」


「それとリースさんの記憶の事ですが、主体と客体の置かれる環境が当然ながら違うので何もしなければ時間の経過と共に差異が発生します。その差異を無くす為、脳の機能を移管しました。」


そう言うと先生は小指の爪位の大きさのチップを見せてくれた。


「このメモリーにはリースさんの記憶など個人に関する全ての情報が入っていて主体と客体のリースさんと常に接続されてます。同期された状態でダウンロードとアップロードを恒常的に繰り返す事で主体と客体の差異は無くなります。メモリーは当方で預かりますのでご安心を。」


先生の説明により同時に同じ事を話せる理由が理解出来た。そしてリースさんの脳の機能が小さいメモリーとなってしまったのがとても悲しかった。


「・・・・。分かりました。」


俺は納得出来ない事だらけではあったがグッと堪え自分自身に納得するよう言い聞かせた。先生は最適解でやっているのだから文句を挟んだとしても現状が悪くなるだけだから。ただ・・・・


「先生、客体は傷ついても大丈夫でも・・・俺はリースさんが傷付けられるのは見てて辛いです。」


全くもって見当違いの抗議なのは分かっている。リースさんの案件であって俺の感想なんかどうでも良いのだから。でも・・・人の心を持つ者として少しでも噛み付きたかった。


「気分を悪くしたね。すまなかった。」


先生は俺の抗議の最適解の対応として穏やかに謝った。でも気持ちは入っていない。なぜなら先生はアーカイブの端末だから。


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