もう一つのお話し「キャット」
「ただいま。なんだか良く分からない内に戻って来れたよ。」
「イツキさん大丈夫でしたか!?」
「お帰り、結構時間掛かったな。」
牢屋の中で寛いでいたら急に釈放となった。カレンさんは心配していてくれたようで俺の顔も見たら開口一番に体調に聞いてきた。オッカムは淡々としたもので・・・。聞いた話によると俺の冤罪が証明されたらしく役人の上からの圧力が掛かったらしい。そして俺の身元引受人がオッカムからその幼馴染のトーマスさんになっていた。俺の知らぬ間に代わっていたようだ。だから俺を陥れようとしていた役人は苦虫を嚙み潰したような顔をしていたのはその為だろう。そして俺が居ない間の事を聞かされ各々が思う所あって動いてくれたようで・・・特にリーガルとその仲間が連携して情報をかき集め、それをジェームスさんを通してトーマスさんにリークしていたのが大きかったようで・・・
「すまなかった。仲間といろいろ動いたって聞いた。」
俺がリーガルに言うと・・・
「これは借りだからな、倍にして返してもらうからな。」
っと恩着せがましく言ってきた。っと言っても素直に『どうって事無い!』『お安い御用だ!』などとは性格的に言えないだろう。不良特有のひねくれなのは分かっているから俺もそれなりに返事を合わせた。
「あぁ、期待してくれ。さて・・・リーガル、案内して欲しいんだけどお願いしていいか?」
「あ?どこに行く気だ?」
「ん~・・・事の発端の祈祷師の先生に面会したくてね。」
「あ~・・・ハイブリー通りの祈祷師のジジイか?もしかして殴り込みに行く気か?」
「まさか、そんな殴り込みなんてしないよ。ちょっとご相談にね。」
俺はこの国の祈祷師はどういった事をしているか見てみたかったのもある。そして大人げないのは知っているがやられっ放しってのも気分的に嫌だった。リーガルは俺の顔を見て・・・
「お前、顔がニヤニヤしてるぞ。」
平静を装っていたが表情に出てしまっていたらしい。両手で顔を押さえつつオッカムもカレンさんを見ると首を縦に動かした。そしてリーガルが話しを続け・・・
「分かった、案内すれば良いんだな?お前が何をするか興味があるから何するか教えろ。」
「いや、本当に話しするだけだって。」
そう言うと訝しい顔をしたが・・・
「じゃあ行くぞ。旦那、姐さんちょっと行ってきます。」
リーガルがオッカムとカレンさんに挨拶をしてから二人で外に出た。外に出ると多くの人が診療の時間を待っていたようで俺の姿を確認するとザワザワする。
「イツキ、お前有名人だな。」
「ふっ・・・どうでもいいよ、有名人とかって。」
俺は苦笑いを浮かべて言うとリーガルが返す。
「お前がそう思っててもな、お前に何か期待してしまう。それだけこの国は希望出来るものが無く腐っているって事なんだぜ。」
「・・・・・。」
(やっぱりリーガルも思う所はあるんだな・・・。)
そんな事を思いつつ、その後は話す事なく問題の祈祷師の居る建物も案内された。
建物の玄関の様な所に来て受付をしようとすると、受付をしている男は俺の顔を見て慌てた様子で俺とリーガルを制止する。
「お待ちください!!」
そう言うと建物内に消えていった。その様子を見てリーガルが・・・
「絶対焦ってるぜ、ざまぁ。」
「だと面白いな。」
俺も話しを合わせて少し待っていると受付の男が現れ建物内を案内した。
「ご案内致します。」
そう言われ受付の男の後について行く。建物内の奥には火柱が上がっている所がありそれに向かって祈っている派手な服を着た男が居る。その男の後ろでみすぼらしい服を着た人達が祈っていた。
『フッ・・・。』
「信者の皆様の・・・ここで・・・。」
俺はその様子を見て鼻で笑ってしまう。案内の男は何か説明をしているようだが特にどうでも良かったのでほとんど聞いてなかった。しばらく案内を受けていると・・・
「この部屋に居られますのがこの院の最高責任者のダドリン様です。本当は面会等はしないのですが・・・お連れするように言われましたので・・・。」
そう言うと案内していた受付の男は部屋の扉を叩き扉を開けて中に居る最高責任者に・・・
「ダドリン様、お連れしました。」
そう告げ俺とリーガルを部屋に入るよう促した。中に入ると派手な装飾の部屋で置き物も高価そうな物が多数。着ている服も身に付けている物も派手な年寄りで、見ている俺が辟易してしまいそうになる。そしてダドリンと言う年寄りは・・・
「何しに来た?」
っと不躾に上から目線で聞いてくる。俺はイラッとなったがそれを悟られないように努めて質問に答えた。
「私は自分の国を出て祈祷師としての修行の旅をしております。そしてこちらに民草の信頼厚く偉大な祈祷師様がいらっしゃると聞きまして、危険を顧みずその祈祷師様の技をご教授願いたくはせ参じた次第でございます。」
そう言う祈祷師のダドリンは訝しい顔をした。とても疑っているのが伺える。
そして俺はダドリンと言う祈祷師に・・・
「こちら、お口に合うかわかりませんが・・・私の国の蒸留酒、ご納め下さい。」
そう言って空間収納から酒を一本出してうやうやしく渡した。魔族の国ではお酒は貴重品らしいのでその手土産の効果は良いみたいだ。祈祷師ダドリンは真顔を装っているが口角が上がっている。
「殊勝な心掛けだ。この院で修行に励むと良い。」
「ありがとうございます。」
俺は話しを進めていて、横に居たリーガルを見ると顔を真っ赤にしている。黙っているがかなり怒っているんだろう。俺が気にする事も無いのだが・・・。
「祈祷師としてお前はどういった事が出来る?」
祈祷師ダドリンは不意に聞いてきた。
「そうですね・・・大した事は出来ませんが・・・」
そう言って空間収納から数珠を取り出し数珠の玉1つに魔力を通す。
数珠とは言っても魔法を発動させる為に俺が作った物なのだが。
「這い寄れ、火精、赤猫。」
俺の正面に火球が現れそれが小さくなり猫を形作る。赤猫は『タタッ!』っと床に降りゴロゴロ言って毛繕いを始める。そしてすぐに赤猫の触れていた部分の床が焼かれ焦げ臭くなった。その様子を見てリーガルは言葉を失っていた。
「は、はは・・・凄いな・・・この猫はなんなんだ!?」
祈祷師ダドリンは乾いた笑いを浮かべ聞いて来たので・・・
「この猫は炎に魂を宿らせたもので、祈祷術の一つです。私は魂を見る事が出来ますから。」
「なるほどな・・・ど・・・どうだ・・・儂の下でここに留まる気は無いか?悪いようにはせんぞ?」
「いえ、諸国を修行の旅して回っているので申し訳ございません。大変ありがたいお言葉ですが・・・。」
「そ・・・そうか・・・。」
祈祷師ダドリンは顔をヒクヒクさせながらそれ以上は言ってこなかった。赤猫を消してからこの場を離れる口実として・・・
「もう少しこの建物を見て回りたいのですがよろしいですか?」
「あ・・・あぁ・・・存分に見て回ると良い・・・。」
「ありがとうございます。ところで・・・」
俺はお礼を言いつつ祈祷師ダドリンに顔を近づけて小声で話した。
「ダドリン様の背中に沢山のこの国の人達の黒い影・・・不吉な魂が張り付いてますよ。」
そう言うと祈祷師ダドリンは目を見開き青い顔をしている。そして俺は退室の意思を告げる。
「今日はありがとうございました。大変勉強になりました。」
そう言ってリーガルと共に部屋から出た。俺がドアノブに手をかけて祈祷師ダドリンに背を向けた時に・・・
『ガタガタッ!』
っと音がした。見て回るとは言ったものの特に見るものも無かったので、すぐにオッカムとカレンさんの居る診療所に戻った。




