もう一つのお話し「アレスト(逮捕)」
「姐さん!失礼します!」
「・・・・。ありがとうございました。」
リーガルの取り巻きの不良は礼儀正しくそう言うと居なくなった。カレンさんは不良の間で「カレンの姐さん」と呼ばれているらしい。大勢の不良を締めた俺を怒った所を不良に見られたのと、手当てした時に不良を叱り飛ばし、言い訳すると手当てした箇所をバシバシ叩いたので畏怖の対象になったようだ。まぁ、やんちゃな不良は根が優しかったりする。ちなみにカレンさんの夫であるオッカムは「オッカムの旦那」と呼ばれるようになっていた。
オッカムが微妙な顔で言う。
「これは・・・良い事なのか・・・?」
「良いんじゃない?実害が無くなった訳だし。」
「そ・・・そうだな・・・。」
オッカムとカレンさんはここ数日の変わりように戸惑っているようだ。まぁ・・・二人が近辺の不良を更生させたとなり状況が好転した事には変わりない。不良の認識では【オッカム=カレンさん>俺】の図式になっているのだろう。俺自身どうでも良いので気にも留めない。そしていつもの様に診察をして食糧を渡してをしてを繰り返してを何事も無く送って数日後、予想した事が起こった。起こるべくして起こったと言うべきか・・・。オッカムが診療をしていると・・・
「この診療所にいる他国の人間を連れて来い!!」
っと乱暴な口調の声が奥の俺の居る部屋に聞こえてきた。
(来たか、遅かったなぁ。)
っと思いつつカレンさんが俺の所に慌てて来た。
「イツキさん!役人が来ています!逃げて下さい!」
「なんで逃げるんですか?感謝こそされども逃げる理由がないじゃないですか。それに俺ならどうとでも出来ますから心配しないで下さい。」
「でも・・・。」
心配そうなカレンさんに続けて話した。
「すいません、診療は一端ストップして下さい。そして食糧が配れなくなった旨を今日診察を受けに来た人達にに話して下さい。」
そう伝えて部屋を出て乱暴な口調のした方に向かった。診察室に入り俺はとぼけて言う。
「オッカムどうしたの?」
そう言うとオッカムと診察を受けて居た親子、そして身なりの良い服装の男5人が俺の方を見た。そしてオッカムが口を開く前に役人の男、おそらくはリーダーであろう男が・・・
「怪しい術を使う他国の人間がここに居るという通報があった。ご同行願う。」
「怪しい術とは?」
俺からの問いにそのリーダーであろう男が・・・
「幼い女の子に危険な術を掛けて殺そうとしていたと通報があった。」
恐らくは栄養失調で危険な状態だった幼い女の子の事だろう。
「お待ちください!女の子を救った事はありましたが殺そうとした事はありません!私達も見ていましたから何かの間違いです!」
俺の後から入って来たカレンさんが叫ぶ。
「それを今から私たちが調べる。邪魔をするなら・・・」
リーダーであろう男が言い終わる前に俺は手で制し・・・
「じゃあ、行きましょうか。オッカム、悪ぃ、ちょっと行ってくる。」
「あぁ。」
そう言って俺は役人の男に手錠を付けられ連れて行かれた。
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
「入れ!暴れても無駄だからくれぐれも問題を起こさないように!」
俺は拘束され最初に来た留置場に戻った。牢屋の前で腕の拘束を解かれ牢屋の中に入る。
「俺に濡れ衣を着せようとしている人は誰ですか?」
「お前に言う必要は無い!」
分かってはいたが役人に問いただすも言うはずもない。
「こう見えて俺も祈祷師なんで分かるんですけどね。」
「・・・・・。」
っと嘘をついて言うと役人は閉口し足早に居なくなった。
とりあえず進展があるまでは何も出来ないだろうし俺は横になり、撒いた種が芽が出るまで睡眠をとる事にする。
そして程なくして芽が出る。
役人が俺の所に来て・・・
「なんかお前を解放しろって集まって来てるんだが何したんだ?診療所が急に閉まったとか言ってたが。」
(あぁ、食糧受け取れなかった人達か。カレンさん、言った通りにしてくれたんだ・・・。)
そう思いつつも・・・・
「ちょっと分からないですね。」
っと嘘をつく。そして俺から話す事も無いので取り調べを受けるが必要以上は話さなかった。外で上手くやってくれるはずだから。そして拘留が1日、2日と日を追う事に留置場に集まる人数が多くなる。最初に時とは違い今度は食糧を分け与えた人達が集まって来た。
「お前を解放しろって言ってるんだが何をしたんだ?扇動でもしてるんじゃないか!?」
「する訳無いじゃないですか。どうやって扇動するんですか?」
食糧を分ける時に内緒にするように言っていたんで扇動なんて出来るはずの無い。そのつもりなら分けた時に自分の行いに従うように言うはずだから。集まっている人達の行動は食糧を得る為の行いであり、もう一方では善意に対しての反応だから。そうであると信じたい。
その後、数日間は拘留を余儀なくされ事情聴取で同じ事を繰り返し聞かれるが大した進展はなかった。むしろ大勢の人に建物を囲まれ役人の方が疲弊しているようだった。




