もう一つのお話し「ルーマー(噂)」
『ふぅ〜〜。』
上半身を起こし床に座って回復した女の子の手を両手で握り泣いて見ている母親を見上げていると・・・
「お疲れ様でした。」
カレンさんが背中からバスタオルを掛けて労をねぎらってくれた。その横でリーガルが涙を浮かべながら俺に悪態をつく。
「ありがとう、カレンさん。」
「やるじゃねぇかよ。おめぇの事認めてやってもいいぞ。」
「おっそれは嬉しいね。」
「ところでよぉ、おめぇの気に入らない事ってこういう事なんだろ?だからここにいるんじゃねぇか?」
「まぁな。」
「・・・・・・。」
リーガルは俺の気に入らない事を理解した様で暫く考えている。そして母親に問いかけた。
「なぁあんた、あんたが行った祈祷師ってどこの祈祷師なんだ?」
「ハイブリー通りの・・・。」
母親が答えるとリーガルは思い当たる節があったようで・・・
「あぁ、あそこのじじいか。」
俺はリーガルの行動を予測して釘を刺す。
「リーガル、襲撃はやめておけよ。どうせ小物なんだろ?」
「あぁ、そうだけど・・・なんで俺のやろうとする事分かるんだ!?」
「そりゃあ分かるさ。血の気の多い奴のする事は大体同じだし。もし俺がリーガルだったら・・・・・仲間を集めて悪い噂を流しまくるぞ。『子供を見殺しにした!』ってね。噂って人から人に伝わると変化するからな。」
「お前・・・最悪だな。それは使わせてもらうけどよ。」
俺はチラッとオッカムとカレンさんを見たら視線を合わせようとしない。俺とリーガルの会話は聞えてるのに止めさせようともしない。とりあえず幼い女の子のこれからの事を母親に話す。
「一応大丈夫だけど、基礎的な体力が無いから過度な運動をしないでちゃんと食べさせて下さい。それと暫くはここの診療所に通った方が良いですね。あと、お母さんもちゃんと食べて下さい。その痩せた体でサラヤちゃんを守れないですから。」
俺が言うと母親は微妙な顔をした。俺は話しを続ける。
「お母さんの事情は分かりませんが察する事は出来ます。リーガル、食料は残ってる?持って来てもらえる?」
「分かった。ちょっと待ってな。」
「私も行くわ。」
カレンさんも一緒に行くと言うので二人で奥の部屋に歩いて行く。その間にオッカムが母親に釘を刺した。
「本当だったら入院しないといけないんですがこの診療所では設備がないので・・・申し訳ない。家で少しでも変だなっと思ったら必ず見せて下さい。お母さんもですよ、いいですね?」
「・・・分かりました。」
オッカムが何かしらの指示を母親に出している。そして暫くしてリーガルがどっさり食糧を開いた箱に入れて持って来たので俺が・・・
「リーガル、悪い、これを家まで運んでやってくれない?」
「絶対そう言うと思ったぜ。人使い荒い野郎だな。仕方ねぇけどよぉ。」
そして今日の診療は終わりとなった。母親は何度もお礼を言い幼い女の子を抱きかかえリーガルが付き添いで帰っていった。そして帰ったのを確認しながらカレンさんに話す。
「母子家庭なんですよね?今の親子って。普通なら男の人も来ると思いますが来ないですし。」
「そうですね。」
「・・・・・・。」
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
次の日、カレンさんが山伏の服を洗うと言うんでお願いした。
「昨日あれだけ汗かいてそのままに出来る訳無いですから出して下さい!不潔です!」
「はい、お願いします。」
俺の癖なんだと思うが強く言われると折れてしまうらしい。
その様子をオッカムがニヤニヤして見ている。
(なんとも感じ悪い奴だ・・・。)
そう思っているとオッカムの方から聞いてくる。
「今日は予定あるのか?」
「いや、今日は無い。仕掛けをしたから後は待つだけだな。後、2、3日後に荒れるかも知れないから気をつけてくれ。」
「・・・・・。まぁな、言いたい事は分かる。しょうがないさ。」
カレンさんの洗濯も終わり、診療所の2階で朝食を食べていると戸を叩く音が聞こえる。来客があるようだ。オッカムが診療所の扉を開くと笑い声が聞こえてくる。しばらくしてオッカムが俺の所に来て・・・。
「イツキ、会って欲しい人が居るんだがいいか?」
っと言ってきた。俺は立ち上がりオッカムの後について行きその人と面会した。
「イツキ、こいつは俺の古くからの知り合いで城で役人やってる。牢屋の時に話したのがこいつなんだよ。」
「オッカム、『こいつ』は無いだろう。だいたいだなぁ、俺様がいるから診療所だって・・・。」
「あぁ、悪い悪い。はははっ!!」
オッカムは悪びれる事無く謝っている。実際に悪いとは思ってないのだろう。
「君が噂の異国の人、名前はイツキ君だね。私の名前トーマス。たった2日で有名になっているよ。この診療所で食糧を配っているのは本当なのか?」
「秘密にしてるんですがどうして漏れたんでしょうね。」
「っと言う事は本当だったんだね。いやぁありがとう。普通なら国外退去となるはずなのだが、こういう事をして頂いて出来るはずも無い。私の方が国の方に働きかけてみるから少し辛抱して欲しい。・・・・。本来なら国がこういった事をすべきなのは分かっている。そして、なんとかしようと動いてはいるんだかなかなか手が回らないものでな・・・。」
トーマスさんはそれなりのポストにいるみたいだ。苦労の程が顔に出ているようだ。
「存じております。オッカムさんに聞いておりますから、大変ですね。顔に疲れが見えますよ。」
「そ、そうか!?」
顔に出てる疲れを指摘されて顔をゴシゴシと手の平で擦っていた。
「今日は噂を聞いてちょっと寄っただけだから。じゃあ失礼するよ。」
トーマスさんが去るようなので・・・。
「今後ともよろしくお願いします。」
そう挨拶をして握手を求める。
「あぁ、よろしく。」
快く応じてもらい握手を交わす。その時にトーマスさんに治癒魔法を軽く掛ける。
「これは!?」
「少し祈祷してみました。体、軽くないですか?」
「あぁ、確かに軽い。他国の祈祷とはこういうものなのか・・・。」
そう言いながら考え事をしばらくしてから・・・
「いや、ありがとう。それでは失礼するよ。」
そう言い残し去っていった。




