もう一つのお話し「トリートメント」
「イツキさん・・・あの・・・追い返した人、大丈夫なんですか?」
診察が終わって院内を掃除している時にカレンさんが訪ねて来た。
「ん~大丈夫。あの程度には俺は負けない。終わったら来るように言ってるからもうそろそろ来るんじゃないかな?」
「えぇっ!!」
俺の返答に驚いていると・・・
「言われた通り来てやったぞ!!!出てこーい!!!」
「ひっ!!」
「おぉ!!絶妙なタイミングだね!!」
外からは日中、俺と力比べをした大きい魔族の男の怒鳴り声が聞こえた。カレンさんの声が引きつっている。俺はニヤッとして窓越しに外を見た。大きい魔族の男の後ろに日中の時より多くの取り巻きを引き連れていた。
「おぉ。居る居る!ちょっと行ってくるわ。」
「大丈夫か、おい!」
オッカムが心配になって声を掛けたが俺は・・・
「まぁ・・・ぼちぼちな。」
それだけ言って外に出た。
「おぉ!よく来たな!来ないかと思ったわ!」
「うるせえ!!おめぇが来いって言ったんだろうがよ!!」
「あぁ、言った言った。悪い悪い。それよりお前名前何て言うんだ?後ろに居るの、それで全員か?」
「俺の名前はリーガルだ!おめぇの名前は聞かねぇ。ぶっ倒される奴の名前なんざ憶えてらんねぇからなぁ!」
「ふぅん、リーガルね。ところでその人数だと少なくないか?」
「ああ!!この数見て何とも思わねぇのかよ!!」
街の明かりに照らされてはいるが薄暗い。ざっくり20人位か?
「まぁいいや。俺に勝ったら持ってる酒全部やるよ。」
魔族領では酒は高級品。俺の言葉にその取り巻きはやる気を出したようだ。
「ふざけんじゃねぇ!!!」
そう叫んでリーガルが走って殴りかかって来た、その後ろの取り巻きも一緒に。取り巻きには木の棒を持っている者もいる。とりあえずここの役人に渡してある俺の木刀の代わりに頂こうと思う。
大体こういった殴り合いや喧嘩の時は腕力に自信が無い奴に限って距離を取る傾向にある。だから真っ先に潰して行く。まぁ・・・そんな事をしなくても勝てるんだけど。
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
「痛ってぇ!!」
「今、消毒してるんだからジッとしてて下さい!!何やってるんですか、いったい!」
「だってよ~あいつが異常に強えぇんだってよ~」
「だってじゃないでしょ!!」
『バチンバチン!』
「ふぐっ!!痛ってーーー!!!叩くなってーーー!!」
診療所の待合室には喧嘩で怪我した不良でいっぱいになった。カレンさんは最初は怯えていたけど手当てをしているうちに怪我人の手当てをしているっというアドバンテージを感じたのか強く言えるようになっていた。そして言い訳する取り巻きの不良を手当てして絆創膏を張った所をバシバシ叩いた。
(あれは痛いわ・・・)
俺はそう思いつつオッカムとカレンさんの手当てを眺めていた。
「イツキさんもやり過ぎです!!」
カレンさんの怒りの矛先が俺に向かって来たので・・・
「これでも手加減したんですよ?」
「どこがですか!!」
っと返すのが精いっぱい。カレンさんには叱られてしまった。俺を叱るのは『フクロウ屋』のクロミエさん位だと思っていたが・・・
「あ、えーーーっと・・・すいません。」
手当てをしている間にリーガルが話しかけてきた。
「お前、イツキって言うのか。なんなんだよお前は?この数の人数を一人で捌けるなんておかしいだろ。」
「いや、リーガルが弱いだけだよ。守るものがない腕力なんてたかが知れてるさ。」
「ちっ!ふざけやがって。お前、なんでこの国の人間じゃないのに診療所の用心棒みたいな事してるんだ?」
「リーガル、お前何か勘違いしてるな。まぁいいけど。ただ、気に入らない事があるからここに居るんだよ。」
「なんだよ、気に入らない事って。」
「・・・・。明日1人でここに来い。」
「んだよ、めんどくせぇな。」
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
とりあえず手当てを終えて取り巻きの不良一人一人にその家族分の食糧を開いた箱に詰めて渡した。
「「「「「「「「「「「「「あざっす!!!」」」」」」」」」」」」」」
そして不良を帰宅させる。最後にリーガルに食糧を渡して診療所から出た時に俺に話しかけて来た。
「なんで俺達にくれたんだ?」
「ん?だって、これが目的だったんじゃないの?」
「だけどよぉ・・・」
「明日待ってるから。」
「ちっ、食えねぇ奴だな!お前はよ!」
「じゃあな。」
リーガルが最後に食糧を持って帰って行く。俺はそれを見届けてから診療所に戻った。中にはカレンさんとオッカムが待っていた。
「最後に悪かったね。」
俺が謝るとオッカムが口を開いた。
「それは良いんだけど大丈夫なのか?あんな不良にも渡して。」
「さぁね、ただ今まで以上には悪くならないと思うよ。」




