愛する家族「短い空の旅」
お父さまの部屋に居たのにいつの間にか自分の部屋で寝ていた、寝かされたなんだろう。
自分で感情が抑えきれなくて泣きながら叫んでから、お母さまに抱きしめられた後の記憶が無い。
少し早めに朝起きて、使用人のお姉ちゃんやおばさんに挨拶をしたが、みな一様に目が腫れていた。しかし、満面の笑みだったし口々に
「セレンお嬢様おはようございます。わたしも優しいセレンお嬢様が大好きですよ!」
などと言ってくる。昨日のお父さまとの会話をまるっと聞かれていたのだろう。恥ずかしくて一気に血圧が上がってくるのを感じる。顔が熱い!
(高血圧の人だったらやばいよね!血管イッちゃうね!)
などと思いつつダイニングに向かう。ダイニングにはお父さま、お母さま、お兄さま、お姉さま全員揃っていた。お姉さま達の目が腫れぼったい。
「おはようございます。遅くなりました、申し訳ありません。」
と謝ったが・・・違和感がある。
(おかしい・・・寝坊してないよね・・・多分・・・?)
自分の椅子に座って首をひねって考えた・・・
そして一呼吸置いてお父さまが話し始めた。
「とりあえず皆に言っておく。」
家族の視線がお父さまに集まる。
「昨日の夜、セレンが暴れないから大丈夫と言ったので、ワイバーンの鎖を解いたが一向に巣に帰る様子もない。なのでロシュフォール家で飼うことにする。セレン、面倒はお前が見ろ。」
「それと昨日の事があるからこの家が国王家限らず五大侯爵家の中で一番注目されることになった。おそらくはすぐにすり寄ってくる者も現れるだろうし悪感情をもって敵対する者も出てくるだろう。おのおのがロシュフォール家の誇りを持って対応するように。そして何かあったらすぐに報告に来る事。」
「そして家の中ではその限りでは無いが、外ではセレンを守ってやってくれ。」
「「「「はい。」」」」
お姉さまとお兄さまが一斉に返事をする。
お父さまが私の方を向き
「セレン、子供を守るはずの親である私が、あの時何もできず少しでもお前に頼った。許せ。」
お母さまが続けて・・・
「私たち家族はセレンちゃんが大好きだし愛してますよ。」
下を向き、俯いて涙を我慢していたが無理だった。顔を上げて・・・嬉しくて泣いてしまった。
「私もお父さまもお母さまもお兄さまもお姉さまも大好きです、愛してます。みんな大好きです。」
執事のマルコじいちゃんが満面の笑みでお父さまに問いかける。
「旦那様、朝食の準備が整いましたがよろしいですか?」
幸せな朝食だった。
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朝食を食べた後、昨日、お誕生日会場だった庭に走った。そこには2体のワイバーンが休んでいる。
1体が赤みががかっていて、もう1体緑がかっていた。走って近づくと顔をすり寄せてくる。
(んーやはり堅い。体が削られる。痛い。)
ワイバーン2体には番犬の様な役目をさせようと思っていたが、犬じゃないし空を飛ぶから『番鳥』ドラゴンの一種だから『番竜』なのだろうか?
「グググググ・・・・」
っと喉を鳴らしている。観察しているが基本的に気性は激しくないようだ。名前が無かったから赤い方を『フシミ』緑の方を『シガラキ』と命名し魔力に乗せて名前を付けた事を伝えた。
「ギャギャッ!!」
感情が分かりずらいが納得してくれただろう。そう思うことにした。
執事のじいちゃんにワイバーンが何を食べるか聞いて見ると基本的に肉全般で森でオークなどを襲って食べるらしい。後で森に行ってみよう、ワイバーンだって食べないと死んでしまう。基本的にワイバーンを含め魔獣の類は人には絶対に慣れないし懐かないといわれている。私の場合は命を救ったし特別なんだろうとも言われた。
試しにフシミの背中に乗り空を飛んでみた。なかなか空の景色は良いもので・・・すぐに下りて執事のじいちゃんに馬の手綱を2つ用意してもらってワイバーンにつけてみた。意外にぴったりサイズだ。
そしてまた、試してみたい事が頭に浮かぶ。
お父さまとクルタお兄さまが仕事に向かわれるのでその足にワイバーンを使おうと・・・
いつもは馬車で結構時間がかかる所がかなり短縮するだろうと・・・
お父さまにその話をしたら食いついてきた。
(バサッ!バサッ!バサッ!)
2人とも乗馬経験があるからそれの空バージョンのような感覚だ。
今回はシガラキに私とお父さまが乗ってフシミにお兄さまが乗り、そしてゆっくり飛び上がりやがて城に向かって飛んで行った。
お父さまとお兄さまは満面の笑みで・・・子供に還ったような笑みだった。
やはり馬車より数段早い。障害物の無い空を一直線で進むのだから当然と言えば当然。
城の外で下りる時は、突然のワイバーンの出現に騒然として騎士などが駆けつけてきたが、ロシュフォール家の襲撃事件が知れ渡ってしまっていたので大した混乱にはならなかったようだ。
『帰りに迎えにあがります』とお約束し屋敷に戻り、今度はテルル姉さま、ハスト兄さま、ラウラ姉さまを学校に送った。テルル姉さまは顔が引きつっていたが、学校への移動が格段に速いし地上の馬車より空のワイバーンの方が安全ではある。遠いところにある学校なだけに一応に喜んでくれた。学校に付くと、生徒が群がって来て混乱と羨望の眼差しを向けられる。テルル姉さまはまんざらでもないようだ。お姉さま達にも『帰りにお迎えにきますね。』とお約束をし屋敷に戻った。
そして、ワイバーン達に森に行ってご飯を食べてくるように指示を出した。
お母さまにはワイバーンで送った方が早い事、空の方が安全である事を伝えたら納得してくれたようだ。