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もう一つのお話し「マーケット」

積み上げられた薬の箱、備品の箱を問屋の店員は訝しく見ている。おそらくは冷やかしだと思っているのだろう。


「イツキさん、お願いします。」


カレンさんに呼ばれ会計を済ませに店員の所に向かう。


「いくらになります?領収書を頂きたいのですが。」


そして全ての購入金額を確認し領収書をもらう。


「代金なんですが商人ギルドに取りに行ってほしいんです、お手数ですが。」


店員にギルド長から書いてもらった紙面を見せた。店員はそれを手に取り・・・


「少々お待ちください。」


っと言い残し店の奥に下がった。しばらくして年配の店員が現れ・・・


「当店の店主のアレジと申します。あなた様がイツキ様なのですな、お噂はかねがねお聞きしておりますぞ。商人ギルドの件は承知いたしました、今後ともご贔屓に。こんなに沢山の商品ですと持って帰るのも大変でしょう。うちの若い者に運ばせますが?」


店主はホクホク顔で問いかけてきた。


「いや、大丈夫。これらの商品はもう引き取っても良いのですか?」


「それは構いませんが・・・。」


俺は購入した沢山の薬や備品に手をかざし空間収納に収めた。店主は大きく驚いていたが少しして納得した顔をしている。


「あぁ、あなた様でしたか。冒険者ギルドで狩った大きな獲物を何も無い空間から出し入れ出来る方というのは。納得しました。」


「俺について何か噂でもあるんですか?」


「いや〜・・・イツキ様は商人の間では『若き大富豪 』と言われてますぞ。どうやって財を築いたが不思議がってます。冒険者に聞いても誰も話しては頂けませんから。それにお姿も冒険者のそれとは違いますからな。噂なんて尾ひれが付くもんで、闇の仕事をしているんでは?とか他国の密偵?などとも聞いた事もあります。どれも確かな情報筋ではなかったので眉唾でしたが。しかし、これで点と点が線になりましたぞ。なるほど、そうでしたか・・・。」


「俺は別に隠しては無いんですけど、ずいぶんと長い尾ひれでしたね。収納する魔法は重宝させてもらってますよ。」


「羨ましい限りですな。商人には夢のような魔法ですよ。どうです?うちの店と提携なんてのは?」


「ん~考えておきます。んじゃあ、店主さんとりあえず買い物は終わりましたんで失礼します。あ、この魔法の事は内緒でお願いします。」


「かしこまりました。また、当店をよろしくお願いします、ありがとうございました。提携の件、なにとぞ。」


俺は苦笑いしつつ薬問屋の店長の提案をやんわりとお茶を濁しつつギルド長から貰った手紙を返してもらい店を出た。


「他に必要な物は無い?」


市場に向かって歩きながらカレンさんに問い掛けた。カレンさんはオッカムの顔を見たがオッカムは顔を横に振っている。そしてカレンさんが問い掛けに答えたが予想に反したものだった。


「今、診察に来る人達の薬が欲しいです。イツキさんは食糧を薬と言ってました。その薬が欲しいです。」


「お、おい・・・。」


その答えにオッカムは狼狽している。そして俺は・・・。


「カレンさん、奇遇ですね。俺も同じ事考えてましたよ。」


そう言って笑って見せた。カレンさんはニンマリしている。さすが女性というものはいざって時に腹が据わる。こういった時に男の方が狼狽えるものだ。程なくして市場に着き買い物を始める。今回は俺が買い物をする訳だが二人からアドバイスを貰う。


「すぐに食べられるものが良いですね。」


「ワーズワースは常に塩が不足しているぞ。」


「果物だったら子供は喜ぶわ。」


「栄養バランス的に乳製品・・・チーズが最適だな。」


二人から意見やアドバイスをもらいそれに従い買い物を済ませた。


「店主さん、営業に差し支えない量の果物を頂きたいんですが。」


いわゆる大人買いという買い方。そして、代金を商人ギルドに取りに行ってもらうよう薬問屋と同じやり取りをする。その食糧の量は前回配った量を大幅に上回った。それを空間収納に全て収める。この空間収納の魔法を授けてくれた御方様に感謝をしつつオッカムに聞いた。


「ワーズワースではお酒の類はあるのか?」


「あるにはあるが高級品だし俺らが飲めるものじゃないよ。霧が濃くて環境が悪いから作る事が出来ないし・・・あることはあるがそれらは闇市場から密輸って形で入るらしい。」


俺とオッカムが話しているとカレンさんは前方で買い物をしている親子を目を細めて見ている。母親が小さな子供と手を繋いで・・・子供は少し飽きているようで母親の手をブンブン振り回していた。ジッと見つめていたがその視線を下に落とし小さくため息を吐いている。俺はその様子を見ていると横に居たオッカムも前方の子供を見つつ口が開いた。


「俺とカレンの間に子供が居たんだ。自慢じゃないがカレンに似て可愛い男の子だったんだ。」


「・・・・・。」


オッカムの『居た』っという過去形の話し方で察した俺はそれ以上の言葉が出なかったしオッカムもそれ以上の説明も無かった。その事を根掘り葉掘り聞く事は人間としてどうかと思うのもある。話したいなら自分から話すだろうし。

それから3人は気を取り直して買い物を進めた。程なくして必要な量を買い込めたのですぐさま城の郊外に出て視覚妨害透過の結界魔法を張り姿を消す。そして来た時と同様に紐に輪っかを作り手を通して浮かび上がり、魔族領ワーズワースにある診療所に向かって落下した。

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