表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/208

もう一つのお話し「メディスン」

オッカムが診察室に戻ると診察を再開した。子供は待合室に残し一度親を家に帰し、大きめな丈夫な袋を取りに行かせた。戻ってきたらカレンさんがその袋を受け取り、俺がその家の家族分の食料を詰めて返す。返す時にカレンさんは診察を受けに来た親子に・・・


「今日はご家族分のお薬処方しましたのでご家族皆様で服用して下さい。それとこの事は秘密にして下さい。」


そう伝えるようにお願いした。待合室からは食糧を手渡されたであろう人の感謝の言葉と号泣した声が聞こえてくる。待合室の今までの暗い雰囲気が一転してざわめき喜びに包まれ明るくなるのを感じる。そして先に診察を終えて帰ってしまった人達には食糧を渡した人に伝言を頼みもう一度来てもらう様にする。このお願いを皆、快く引き受けてくれたので診察に来た人達には全て行き渡っただろう。手持ちの大量に出した食糧はみるみる無くなってあと少しで尽きてしまう所で本日の診察は終了した。

俺は診察を受けに来た人達の沢山の感謝の言葉を隠れて聞いていたが・・・言い知れぬ静かな怒りが湧きあがる。なんでこの国はこういう状態になってしまっているのか・・・


「今日はありがとう。イツキ、秘密とは言ってもそれは無理だぞ。こういった事は必ず漏れるものだ。」


「それは知っている。初めっから秘密に出来るとは思ってないから。それよりも二人も食べるといい。」


俺はオッカムに食事を摂るように勧めテーブルにパンと干した肉、果物を出した。


「俺はいい、大丈夫だ。カレン、お言葉に甘えて食べなさい。」


オッカムはそう言うと食べようとしない。そしてカレンさんに食べるように促すがカレンさんも食べようとはしなかった。お腹が減っているはずなんだが二人は自分よりまず他人からっという思考なんだと思う。美徳ではあるがこの場合、この二人が倒れたら元も子の無いのだから・・・俺は怒気を強めて言う。


「ふざけんな、食え!!お前らが倒れたら誰が今日来た人達を見るんだよ!」


「・・・・・。わりぃ、じゃあ頂くわ。カレン、食べるぞ。」


そう言うと二人で食べ始めた。俺はリンゴを齧りながら空間収納からティーポットのティーカップを出し魔法でお湯を作り、紅茶を淹れて食べている二人に振舞った。


「イツキさん、ありがとうございます・・・」


カレンさんは涙を流しながら礼を言う。余程今まで我慢に我慢を重ねて生きてきたんだろう。俺はカレンさんのお礼に答える言葉が見つからない。なので当たり障りのない言葉を一言だけ返してオッカムに話しを振った。


「問題ない。ところで、明日はどういったスケジュールなんだ?」


「明日は朝は森に出掛け薬草を採取しに行く。何かと不足しているから自分で何とかしないといけないからな。カレンは午前中は副業の服の仕立てをする。俺らにも生活があるしな。イツキはどうするんだ?」


「俺は一端フェルミエ王国に帰る。食糧調達もあるしそれに俺の仲間にこの事を言わないといけない。」


「・・・・・。イツキ、フェルミエ王国には薬は売っているのか?俺もフェルミエ王国に連れて行ってくれねぇか?無い物を購入したい。」


「それは構わない。それだったらカレンさんも同行して欲しい。」


俺はカレンさんも連れて行こうと思う。今現在の必要な物はオッカムよりカレンさんの方が把握しているだろうから。それと二人で話し合って決めた方が良い。俺がどうこう言ったところでそれが正解かは分からない。


「私はここに残ります。どの位不在になるか分からないし、夫が居ない間診療所を守らないといけないから。」


「カレンさん、多分半日で帰れる。おそらく明日は今日より診察に来る人が多くなると思う。だから来てほしい。」


「・・・・・。分かりました、行きます。イツキさんは魔族でも無いし他国の方なのになんで私達の為に行動出来るのですか?」


「確かに俺は部外者。ただ、飢えに苦しむ子供が沢山いる国が気に入らない。報われる者が報われないのが気に入らない。今なら夜の闇と霧で人目につかないから出来れば早めに出たい。」


今から帰れば深夜だがフェルミエ王国着くだろう。少し休んで朝から行動を開始すれば昼過ぎには帰れるだろう。俺は話しを続ける。


「おそらく俺の力は感じて分かったと思うけど、これからこの国に関与する。下手すると国自体が無くなるかもしれない。だから二人には迷惑かけるかもしれないが許してくれ。最善は尽くす。」


「「・・・・・。」」


俺はこの国を立て直す為に尽力する事にする。


「長い紐に輪っかを作って腕を通して外れないようにしてくれ。」


俺は二人にお願いして用意してもらった。カレンさんとオッカムは夜の移動に耐えられるよう厚着をしてもらう。二人は俺のする事が分からないだろうが素直に従ってくれた。そして診療所に戸締りをし用意した輪っかを作った紐に腕を通した。


「どうやって移動するんですか?」


カレンさんには移動方法を伝えていなかったので不安そうな顔で聞いてくる。その問いに対して・・・


「空を移動する。しっかり紐をしっかり握ってて。」


その端を俺が握りしめ夜の闇と霧に身を隠し空高く浮かび上がり、そしてフェルミエ王国に向かって落下する。

カレンさんとオッカムは叫びたいだろうが我慢している。叫んでしまうと人の目を集めてしまうから。震えるカレンさんをオッカムが抱きしめている。その様子を見て俺は二人に繋がった紐を手繰り寄せ二人を抱きしめた。

(ミカエル様、フェルミエ王国に誘導お願いします。)


(了解した。)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ