もう一つのお話し「ブーイング」
「イツキ、病気になったふりをしろ!んで俺が大声を上げてここの看守呼ぶから少し大げさに苦しむように演技するんだ。後は俺の口八丁手八丁で上手く誤魔化せる。」
「それは良いんだけど俺にはメリットが薄いな。このまま国外追放でも構わないが?」
「・・・・・。お前、酷い奴だな。何が望みなんだ?何か無いとこんな所には来ないよな?」
「最終的には土地が欲しい、誰もが手放した場所。」
「お前・・・それって火山地帯の事を言っているのか?変わった奴だな、あんな所どうしようもねぇだろ。まぁ・・・出来なくは無い。仲間が居るから頼めなくはない。ただ、絶対では無いがな。」
「仲間?」
「役人やってる仲間が居る。そいつも今の国の現状を嘆いている。そいつに頼めばなんとかなるかもしれん。」
俺はとりあえず、望みは薄いかもしれないが乗ってみようと思う。役人の男がどういった男か気になる。それなりの要職であれば都合が良い事もあるだろうから。
「分かった。その男に会ってから今後の事について決めるよ。具合悪い振りをすれば良いんだな?」
そして俺は腹を押さえ猫背になりその場に横になる。その様子を見てオッカムは・・・
「ふん!生意気な奴だな。しっかり足元見やがって!」
そう毒を吐きながらも大声で叫んだ。
「おい!!!看守、他国民の兄ちゃん苦しんでいるぞ!!!おい!!!」
オッカムの怒号が響き渡り俺を連れてきた憲兵らしき男では無い他の男が牢屋の部屋のドアを開けて走ってきた。
「オッカムうるさいぞ!!!」
「ああ!!お前、他国の人間が苦しんでっから呼んだんじゃねえか!!お前なんかしたんじゃねえか!?殴ったり毒盛ったりしたんじゃねえか!?苦しくて唸り声上げてるじゃねえか!!」
「私は何もしていない!」
「じゃあなんで苦しんでるんだよ!!」
「私は知らない!!」
「あ~あ、他国の人間が牢屋にぶち込まれて具合いが悪くなって死んだってなったら国の問題になるな。あ~あ、俺知らねえよ、どうなっても。」
「あ・・や・・・・くっ・・・私は・・・・関係ない・・・。」
「関係ねぇじゃねえだろ!!!早く責任者呼んで来いよ!!ボケーー!!!」
牢屋の部屋の中にオッカムの怒号と罵声が響き渡る。他の牢屋の中に居た者は牢屋の鉄格子に顔を押し付けてオッカムと看守の一部始終を見ている。
看守の男はオッカムに言われて走って部屋から出て行く。
口汚く大声を上げるオッカムに・・・
(この男、本当に医者なのか?)
っと思ってしまう。そして暫くしてから憲兵らしき男では無い男が走って現れた。おそらくはこの建物の責任者なんだろう。そして、腹を押さえ、唸って倒れている俺を見て絶句しているようだ。オッカムはその責任者に向かって・・・
「どうすんの、これ?」
「・・・・・。」
「その辺に居る祈祷師のジジババにでも見せたら良いんじゃね?祈祷師は万能だからよぉ。ヒャヒャヒャヒャ・・・。」
オッカムはその責任者にくってかかる。おそらくは出来ない事を知っているんだろう。責任者の男は絞り出すような声で・・・
「無理だ・・・やってくれるはずが無い・・・。」
「だよなー。やる訳無いよなー。あ~あ、可哀想に。俺の見立てだとその兄ちゃん死ぬね。やってくれる老害早く探しに行けや。探してるうちに死んじまうかもしれんけどなっ!」
「オ・・オ・・・オッカム!」
責任者の男は『死ぬ』と言う言葉にひどく動揺しているようで声が裏返っている。
「オッカム!なんとかしてくれ!」
「はぁ?何で俺が?」
「お前、医者だろうが!?治すのが仕事だろうが!!」
「こんな状態でどうやってしろっつーの?」
「牢屋を一緒にするから診てくれ!」
「なにもない不衛生な場所で出来ねぇよ!医者舐めんな!」
「チッ!」
オッカムが煽ると責任者の男は舌打ちをし牢屋のある足早に部屋から出て行った。
牢屋のある部屋が静かになったのでオッカムは壁にもたれ掛かりそのまま座り込む。俺は起き上がり座り直す。
「まぁ、こんなもんか。」
オッカムがそう言うので俺は質問した。
「どういった算段なんだ?」
「役人共も祈祷師と同じで責任を取りたくないから医者の俺に丸投げしようとするから。俺は何回も捕まってここに入ってるけどな、お咎め無しになってんだよ。責任逃れの口実の俺が居なくなると困るから誰かが後ろから手を回しているんだろうよ。今回はお前が死ぬとここの連中のせいになるからよ、責任を取りたくないからお前の身柄は俺に預けるはずだ。死んだら俺のせいに出来るしな。」
「酷いな。」
オッカムと雑談をしつつどうなるか事の経過を見ていたらここの役人が牢屋の扉を開けて入って来た。俺は先程と同じ様に横になり腹部を押え成り行きを見ていると・・・
「オッカム釈放だ!出ろ!他国の男はお前が見ろ!とりあえず他国の男は運搬車でお前の診療所に運ぶ!!以上だ!!」




