事件です「愛してくれている人」
「はい・・・」
お父さまに呼ばれたのでお誕生日会が終わったら行かないと・・・
会場は落ち着いたので自分の身体を見回すと新調したドレスが所々焦げていた。まぁ・・・体に帯電させたので焼けたんだろう。屋敷の中に入り使用人にお願いして違うドレスを出してもらい着替えるが、使用人のお姉ちゃん達の顔は笑顔なのだが引きつっている。いつもの8歳児で接しているのだがこれからはそうはいくまい・・・少し悲しくなる・・・こっそりクッキーやチョコレート、キャンディなんかを貰っていたし。
着替えてからお誕生日の会場に戻ると4つの人だかりが出来ている。懐いたワイバーンの所には子供と護衛の騎士と魔法使い、お父さまの所では各家の主要人物、お母さまの所にはそのご婦人方、もう一つは殺したワイバーンの所で執事と有力商人、おそらくは死んだワイバーンを買い取りたいのだろう。
私の後ろでは守護霊アズラエル様と女神スクルド様が談笑していたので私は尋ねた。
「アズラエル様、スクルド様・・・これで良かったんでしょうか・・・?」
「セレンちゃん、魔法の使い分けが良かったわよ!」
「最初の炎の斬撃は上出来だ、セレン!」
「ありがとうございます。」
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
お誕生日会は終わりとなり各家の出席者の方々をお父さまとお母さまとでお見送りをした。
「きょうはありがとうございました。これからもよろしくおねがいします。」
ドレスの端と端を摘み足を少し折り曲げ、8歳児チックの棒読みでお別れのご挨拶をした。
ワイバーン襲撃事件の後に急速に人が少なくなった。後で聞いた話だけど家の付き人を早急に帰らせ支度金の準備をして、私と自分の家の男児を許嫁にさせようと画策しているらしい。すでに自分のあずかり知らぬ所で争奪戦が始まっていて、争奪戦の景品は私と言う迷惑極まりない話で・・・
各家のご婦人方は自分の子供に私と友達となるように・・・親密な関係になるように指示していたそうな。使用人のお姉ちゃん曰く・・・『王国の歴史上一番の超優良物件』だそうだ。国王家から見ても騎士と魔法使い合わせ30~40人で当たってワイバーンを追い払ったのに対して、1人で5体のワイバーンをあっさり倒した少女、王族お付きの護衛にするも良し、王族に入るも良し、五大侯爵家の1つで血統ももう分無しで5人兄弟の末っ子。器量だって母親似の白髪(アズラエル様ゆずり?)でのほほんとした感じの可愛い部類(のはず?)更にはワイバーン2体のオマケ付き。伯爵家、子爵家、男爵家であれば確実に爵位が上がる事が確定。
ただし、そこには私の意思がまったく入ってない。
各家の主要人物の方々、ご婦人方が帰る時の熱い視線が違う意味で痛かった。
余談ではあるがミートナイフが十数本無くなっていたそうな。
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『コン、コン、コン』
「お父さま失礼します。」
「セレンか、入れ。」
夜、お誕生日会が終わったのでお父さまに呼ばれてたの部屋に伺った。ドアを開けた瞬間、ニヤニヤしていたが瞬間的に真顔になった。その瞬間を見逃さない私って偉い。しかし、気が付かない事にしておこう。
最初に私から口を開いた。お父さまの言う事が予想がついているし、あまり触れてほしくない。
「お父さま、今日のワイバーンの襲撃はなんだったんですの?自分もよく分からないうちに解決しましたけど。」
自分が撃退した案件ではあるが『私は何もやってません』風に言ってみた。その問いにお父さまは真っ直ぐ私を見た・・・
「何者かがワイバーンを操ってここに仕掛けた事は分かっているが、詳細は分からない。すぐに調査開始している。今回の事は最悪、大事件になっていただろうから。」
「ただ、あのままだったら各家の当主、要人、有力商人その他名家の多くの者が犠牲になっていたし、当家は壊滅的な被害も出ていただろう。」
「結果として全く死者が出なかったのは奇跡と言って良いだろう。」
「・・・・そうですね。私もそう思いますわ。」
「・・・・」
お父さまの目線と沈黙が辛い・・・問いかけの答えが8歳児に対しての答え方じゃない。
「セレンよ・・・お前は何者なんだ?」
「あまりお前には構ってあげられないから分からないがお前は大人びている。今日の挨拶も8歳児の挨拶では無く、8歳児の言い方を真似した挨拶のように感じた。」
「また、撃退後、捕縛しているが暴れているワイバーンを大人しくさせ、治癒の魔法まで見せた。小さい銀器のナイフでワイバーンの首を落とし、手から稲妻も出した。」
「静まり返った空気を解くべく『お楽しみいただけましたか?』などとは普通は言わないし、最後の1体をその場に居た騎士と魔法使いに任せその立場と誇りを守った。」
「殺されていたはずだったワイバーンの命すら救った。」
「そんな気遣いはお前と同じ位の子供はしない、いや、出来ない。」
「セレン・・・お前は・・・なんなんだ?」
この質問が来る事は分かっていた。魂は20歳でも私はこの家の家族・・・
「私は・・私は・・・お父さまと・・お母さまの娘・・・です。」
胸の中から何かがこみ上げてくる、涙と一緒に・・・涙が止まらない。
「・・ヒック!・・・フッ・・うぅ・・うわーーーーーーーん!!!」
「だって・・・だって私がしないと・・・・みんな死んじゃうって思ったんだもん・・・」
「お父さまも、お母さまも、お姉さまも、お兄さまも、執事のじいちゃんもメイドのお姉ちゃんも・・・・みんな居なくなっちゃうのやだもん!!」
「私の事、愛してくれて・・いる人居なく・・・なるの・・そんなのやだーー!!」
いつの間にか後ろにお母さまが居て話を聞いていた。そして、お母さまも泣いていた。
お父さまは窓を向いて震えていた。
お母さまは私を後ろから抱きしめ・・・
「セレンちゃんごめんね・・・辛かったのね・・・」
「わーーーーーーん!!!ヒック!ヒック・・・」