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ギルド活動「剣の意思」

「あははっ!なにその親父みたいな乾杯の挨拶!?」


「はい!乾杯の挨拶の出だしはいつもこれです!」


ソフィーさんの問いかけに満面の笑みで返した。

私はテーブルに並ぶ料理を見る。

(オークにミノタウロスにコカトリスかぁ・・・魔獣の料理がメインなんだなぁ・・・)

目を細めて料理を見ているとジャンヌさんが話した。


「この国だからこその食材の並びね。」


そしてジャンヌさんの後にシーラさんが話す。


「この国って貿易と経済の中心地だからいろんなものが入ってくるじゃん?だからこの国が傾くと貿易的にも経済的にも他国に影響を及ぼすのよ。だから他国はこの国に手を出しにくいのよ。王様の銀行も他国の王様の資産を預かっているし機密保持も完璧だから・・・もし機密が暴かれたら他国同士で戦争が起こるそうよ。絶妙なバランスの上で成り立っているんだよね、この国は。治安に関しては色々な人種の往来があるからお察しだけど国レベルで言うと平和ね。」


「へぇ・・・一番平和に近い国ってトラピスト王国って言われていると思っていたんだけど・・・」


アルビオン王国に来る時、ジンジャーさんが言っていた事を思い出した。


「トラピスト王国も良いよねぇ。国自体の情勢が安定しているし、一枚岩だから良いよね。ただ・・・刺激が少ないらしいから私は飽きちゃうかな。」


ソフィーさんが言う。

(刺激が少ない・・・そう言われるとそうなのかなぁ。)

私は考えるけど・・・答えが出ない。自分はそう感じたことが無いのもあるが・・・

(この国に慣れてから帰ったら退屈しちゃうのかなぁ・・・う~ん・・・)

しかし、食事のおいしさとガールズトークで答えの出ない思考は霧散してしまうのだが。

そして暫く食べていると二つ隣のテーブルが騒がしい。


「やんのか!こら!!」

「ああっ!上等だ、てめぇ!!」


冒険者の男達が喧嘩している。店内がざわつきモリーユさんが宥めようと駆け寄った。


「あ、あのっ、お客様・・・」


いきり立っている冒険者の男2人、モリーユさんは弱気になるのも分かるがこういった事の対応込みでの仕事。

(モリーユさんも割りが合わないわな・・・)

私はそんな事を思う。そして店内の総てのお客さんの意識は冒険者の2人に向く。私も食事を進めつつ話さず傍観してると私達のテーブルの横を中年の男が通り過ぎ、私達が入ってきた出入口に早足で歩いて行くのを目の端で捉える。


『ザワッ・・・』


私は不意に背筋に悪寒に似た感覚に襲われた。こういった時は大体良い事が起こった試しがない。店内のお客さんの中で、私1人だけ意識はいきり立つ冒険者の2人から外れ、早足で店の外に向う中年の男を凝視する。 そしてその中年の男の右脇に白い布に巻かれた長い物がある。それは私の見覚えのある物。


「剣はある!?」


彼女達3人に怒鳴るように問い詰めた。私の声に驚きつつも・・・


「無い・・・私の剣が・・・フェルメールが無い!!!」


シーラさんは叫び顔色がたちどころに青くなる。


「待て!!!」


『ガコン!!ガタン!!・・・』

「きゃあ!!」


私は大声で男を制止するよう叫び、同時に勢い良く立ち上がる。椅子が後方に弾かれ、真後ろで食事をしていた女性の椅子の背もたれにぶつかり倒れた。

中年の男は早足から駆け足になり店から逃げ出そうとしていた。出入口を通り店から出て姿が見えなくなった時・・・


「うぐっ!!」

「きゃあーー!!」


外が騒がしくなる。店内に居た私達は他のお客さんの視線を集める。先程までいきり立っていた冒険者の男達2人は完全に置いてけぼり状態だ。そんな事はどうでも良いのだが。

食事を中断して私達4人で店の外に掛けて行く。外に出たら中年の男が脇腹から血を流し悶絶している。その横には血の着いた白い布とシーラさんのレイピア『フェルメール』が落ちていた。


(あ〜ぁ・・・だから待てって言ったのに・・・)


そう思いつつ中年の男を見ると深く斬られていて出血の量を多そう。シーラさんはフェルメールを取り返し血の着いた白い布を見ている。


「ジャンヌ、ソフィーこれ見て。」


「「・・・・・。」」


そう言って血の着いた白い布を見せる。血の着いた白い布は切り裂かれいる。布で幾重にも巻いた刃物がその布を切り裂いて飛び出てなんてありえない。鋭い先端部分のみ突き刺した状態で布から出る事はあるが。ソフィーさんが私に問いかける。


「サイレンちゃんこれはどういう事?」


「シーラさんの剣はシーラさんにしか使えないんです。それ以外の人が使おうとすると鈍ら(なまく)刀でしかないんです。そして他人が悪意を持って使おう、奪おうとすれば本人を切り裂く極めて鋭利な刃物になります。剣の意思がそうしているからです。」


そう言うと彼女達は自分の剣を改めて見る。ジャンヌさんとソフィーさんは布に巻かれた状態の剣ではあるが。シーラさんは血の付いた白い布の血の付いてない部分で血の付いたフェルメールを拭いている。私はさらに言葉を続けた。


「無用に怪我人を増やさないように注意して下さいね。怪我人が出たとしても完全にこちらは悪くないのですけど。」


「分かったわ。」


ジャンヌさんが返事をする。シーラさんとソフィーさんは私を見ている。私の言葉を聞いてくれているのだろう。


「一応、もう一度言っておきますが・・・ジャンヌさん、シーラさん、ソフィーさんが悪意を持って各々の剣を使用しようとしたら永遠に失われますから。ところで・・・この人、どうします?」


脇腹から血を流して倒れている中年の男を指差して尋ねる。


「別にこのままでもいいんじゃない?私の剣を奪おうとしたバチが当たったんだから。」


「んじゃあ放置で。じゃあ食事の続きをしましょう。」


シーラさんが答えてから私が食事の続きを促し店内に戻った。それに続いて店のお客さんが入る。いつの間にか外に出て一部始終を見ていたようだ。いわゆる野次馬っと言うやつで。

自分の席に戻り、私が座っている後ろの席の女性に椅子をぶつけた事を謝る。


「驚かせてごめんなさい。」


「良いわよ。それより大丈夫だったの?」


「はい、大丈夫でした。それでは失礼します。」


女性も心配してくれたみたい、ありがたい事だ。シーラさんはモリーユさんに新しい布を貰っている。落ちない染みだらけのテーブルクロスで使われないらしく無料でもらえようだ。

いきり立った冒険者の男2人は私達の事件で完全に話の腰を折られたらしく、大人しく食事をしている。

私達も席に着き、ようやく食事を再開した。食事をしていると、中に役人らしい人が入って来て私達に詳細を聞いてくる。それにはジャンヌさんが対応してくれた。盗難に遭った剣がシーラさん本人の物かの問いについても商人ギルドのギルド長、ギレンさんが証明してくれる旨を伝えると引き下がってくれた。


・・・・


・・・・・・


・・・・・・・・


食事も終え、ここで彼女達とお別れして学校の寮に帰るのだが、ジャンヌさん達に送ってもらう。私は辞退したのだが、どうしてもっと言う事で。なぜかは分からないが、何かあるのだろう。会話も無く夜道を進む。程なくして寮に付き私はジャンヌさんの馬から降り、挨拶をしようとしたら一緒に降りてジャンヌさんが寮の扉を叩いた。その行動に・・・

(なるほどな・・・)

っと思う。


『ドン、ドン!』


少しの間を開けてから扉が少し開き、寮母のナタリーさんがジャンヌさんを覗き見た。その間にシーラさんとソフィーさんが馬から降りる。


「どちら様です?」


「夜分遅くに申し訳ない。私達は冒険者パーティー、スワローテイルのリーダーのジャンヌと言う者です。そちらの生徒のサイレンさんと合同で依頼をしていて遅くなってしまったもので、こちらの寮に送らせてもらいました。」


ジャンヌさんがそう言うと一端扉が閉まり、ガチャガチャっと鍵を開ける音がして扉が開いた。


「お帰り、サイレンちゃん!どこか怪我してない!?大丈夫だった!?怖い事されなかった!?」


ナタリーさんは心配してくれた。

(10歳の少女が夜に帰って来たのだから普通は心配するわな。)


「ナタリーさんごめんなさい、ただいま戻りました。皆さんとても親切で大変勉強になりました。私の不注意で大幅に依頼達成に時間が掛かってしまったもので・・・」


「え・・・あ・・・そうなの?」


とりあえず私は嘘を付いて帰宅時間が遅くなった事を誤魔化す。ジャンヌさん達も私の言った嘘の真意を読んでくれたみたいだ。そして、ジャンヌさん達に頭を下げて挨拶をする。


「今回はいろいろありがとうございました。大変勉強になりました。また、ご縁がありましたらよろしくお願いします。」


「サイレンちゃん、またね。」


挨拶を交わしスワローテイルの3人と別れ、寮の建物の中に入った。ナタリーさんはジャンヌさんと二言三言話し中に入り扉を閉め鍵を掛けた。

私は廊下を歩き自分の部屋に向かい扉を開けた。


--------


「遅くなってしまって申し訳ない。こちらの不徳の致すところだ。」


「遅くなった原因がサイレンちゃんにあるようなので特には問題にはしませんが、そちら様の生活も掛かった上で依頼達成も大事なのは解りますが少しは考えて下さい。」


「すまない。」


『バタン!・・・ガチャガチャ・・・カチン!』

寮母のナタリーは扉を閉め鍵を掛けた。


「「「・・・・・・。」」」


スワローテイルのシーラが口を開いた。


「サイレンちゃん凄かったね。全てが規格外じゃん。しかも最後の最後まで嘘までついて気遣いまで出来るし何なのよ、あの子供は?」


ソフィーも感想を言う。


「完全にサイレンちゃんの手の平の上だったね。でも私達に最高に良い風が吹いて来たのは確かだったわね。」


ジャンヌは目を閉じて2日間を思い浮かべているようだ。そして話した。


「じゃあ、私達も帰ろう。明日からはサイレンちゃんから与えられた剣に恥じないように頑張るわよ。」



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